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新人たちの


「王都の巡回って言っても、色々と見ることが多いわね・・・。」


「そうだなー。だけど、市民の皆さんが俺たちの存在を見て、安心してくれるならやりがいもあるってもんじゃん。」


店の店主に軽く会釈をし、リリアに向き直るレオ。


王都の中心街。人通りが多く賑やかな通りを、レオとリリアは肩を並べて歩いていた。


真新しい騎士の制服を身にまとう、年若い2人の騎士に町の人たちも好意的のようだ。


リリアとレオはにこやかな表情を崩さずも周囲を注意深く観察していた。


「こうしてみると、王都には本当に色々な人がいるのね・・・。」


視界に入るだけでも数十人以上の人々が日常を謳歌している。


はきはきと客を呼び込む者、今日の食事を何にしようか悩む者、休日を恋人と過ごす者。

仲間と一緒に必要なものを買いに来る者、よだれを垂らしながら獣人族の幼子に近づく者。

それぞれが、それぞれの生活を生きている。


「そうだな。副隊長は『普段見慣れない人や、急に現れた怪しい連中』がいるならって言ってたよな?」


「うーん、これだけ人が多いと入れ替わりも激しいから的を絞り切れないよね。」


憲兵に不審者を突き出し、獣人族の親子に手を振る2人。


これからどこを巡回するか、そう思っていた時に


「とぼけんじゃねぇ!!!」

王都中心街から一本外れた通り。

小さな商店の前で、荒い声が響いていた。


「だから!ここん所ずっとだぞ!?」


革鎧姿の冒険者が、苛立ちを隠そうともせず声を荒げている。

向かいには、巡回中と思われる騎士が二人。腕を組み、険しい表情だ。


「保存食も、治療薬も、今朝来たら全部“在庫薄”だとよ!」


「落ち着け。必要な物資は、王都防衛と巡回のために確保している。

 騎士団にも任務がある。物資を確保するのは当然だろう」


「当然だぁ?俺たちだって野営もするし、魔物ともやり合うんだぞ!」


冒険者が一歩前に出る。

騎士も半歩踏み出し、空気が張り詰めた。


「それとも何か?冒険者が“騎士様”に文句たれるのがそんなに気に食わねぇか?」


「言葉を慎めよ、冒険者風情が。」


「は!冒険者風情か!お国を守るだけの有象無象共が言ってくれるじゃねぇか!」


一瞬、沈黙。

だが次の瞬間、騎士の一人が強く言い返そうとした、その時。


「――そこまでです。」


澄んだ、しかし鋭い声が割って入った。


冒険者も騎士も、思わずそちらを見る。

真新しい騎士の制服を着たリリアだ。


「今ここで言い争って、何か解決しますか?」


低く、はっきりとした口調。


「冒険者の方は“物資が足りず困っている”。騎士団は“任務のために確保している”。

 ……どちらも、間違ってはいません」


一拍置き、視線を両者に向ける。


「ですが――ここで感情をぶつけ合えばぶつけ合うほど、互いの立場と心象を悪くするだけでは?」


その一言で、場の熱がすっと下がる。

冒険者は舌打ちし、騎士も視線を逸らした。


「……ちっ」


「…………」


そこへ、レオが一歩前に出る。


「まあまあ。お互い、余裕がなくなってるだけだと思います」


にこやかだが、目は真剣だった。


「一体、何があったんです?“ここん所ずっと”って言ってましたよね?」


冒険者は少し迷ったあと、肩をすくめる。


「……ここ数日だ。保存食、薬、簡易触媒。どれも少しずつ、だが確実に減ってる」


「一店舗だけじゃねぇ。何軒回っても似たようなもんだ」


騎士の一人が眉をひそめる。


「……我々が確保している量は、定められた範囲内だ。異常なほどの確保はしていない」


「じゃあ、なんで足りねぇんだよ!」


再び空気が揺れかけるが、リリアが視線だけで制した。


「情報が食い違っている、ということですね」


リリアは静かに続ける。


「なら尚更、ここで争うより、事実を整理した方が建設的です」


レオが頷く。


「物資の種類と時期、もう少し詳しく教えてもらえますか?」


冒険者は少しだけ表情を緩めた。


「……ああ。話すだけなら、別に構わねぇ」


騎士も頷く。


「我々も報告すべき案件かもしれない」


こうして、剣が抜かれる寸前だった小競り合いは、静かな情報共有の場へと変わっていった。


その裏で――

命を懸けている者たちのみが気付く異変。

王都で起きている歪みが、確かに姿を現し始めていた。



巡回を終え、詰所に戻った二人はそのまま隊室へ向かった。

扉の前で、レオが一度深呼吸をする。


「初報告って緊張するもんだな。」


「肩の力を抜きなさい。事実をそのまま伝えればいいだけだし、シンさんならきちんと聞いてくれるわ。」


そう言いながらも、リリアも背筋を正す。

軽くノック。


「失礼します。」


「おー、入れ入れー。」


中から聞こえたのは、気の抜けた声。


だが、その声の主――シンは何かの書類を机に肘をつき見ていた。

2人が入ってきたのを見ると嬉しそうに笑い、書類から視線を逸らす。


「巡回、お疲れさん。何かあったか?」


二人は一礼し、レオが一歩前に出る。


「はい。王都中心街で、冒険者と巡回中の騎士団員の間に小規模な口論が発生していました。」


「口論?」


シンの目が、わずかに細くなる。


「はい、原因は物資関連です。保存食、治療薬、簡易触媒などが、ここ数日“全体的に在庫薄”になっていると」


「・・・なるほどね、冒険者以外だと使用用途が多いのは騎士団だ。買い占めてる、って疑われたって所か?」


「はい。ただ――」


リリアが引き継ぐ。


「騎士側の確保量は規定内。異常な量ではありませんでした」


「んー。」


シンは顎に手を当て、考え込む。


「冒険者側は、複数の店で同様の状況を確認しているそうです。一店舗だけではない、と。」


「なるほどねぇ・・・。」


シンは小さく息を吐いた。


「で、喧嘩は?」


「……起きる寸前でした」


リリアは少しだけ視線を逸らす。


「ですが、双方から話は聞けました。少なくとも、“意図的に買い占めている個人や組織”の姿は確認できていません」


「見たことのない連中がいた、とかは?」


「それが……」


レオが首を振る。


「誰も“決定的に怪しい人物”は見ていないんです。」


シンは、ふっと笑った。


「にゃるほどねぇ。」


二人は顔を見合わせる。


「よくやったな、2人とも。喧嘩を止めて、情報を拾った。それで十分だ」


そう言って、椅子から立ち上がる。


「お前らは引き続き、街の“空気”を見てくれ」


「空気、ですか?」


「おう。数字や報告に出てこない違和感は、現場にしか落ちてねぇ」


シンはまっすぐに2人を見つめる。


「今日みたいな揉め事が増え始めたら、黄色信号だ」


「はい。」


「初陣としては上出来も上出来。花丸満点だな。」


その一言に、二人の肩から力が抜けた。


「以上で報告を終わります!」


「お疲れさーん。ゆっくり休めなー。」


扉を閉め、廊下を歩き出した二人の背をひらひらと手を振って見送ってから、


シンは窓の外――王都の方角へ視線を向ける。


「はー・・・まぁ怪しい奴が怪しい格好してるとはかぎらねぇもんなぁ。一番やっかいなパターンだなぁ・・・。」


誰に聞かせるでもなく呟く。


「ちょいと、忙しくなりそうだな。」


確かに“何か”が動き始めているのをシンは感じていた。


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