想って願って
「わりぃな、付き合って貰って。」
「私も楽しかったし、大丈夫だよ。」
結局、ステラに付き合ってもらった。
ノアもステラには相当気を許しているようで、今は俺じゃなくてステラと手をつないでいる。
俺以外の誰かに甘えれるようになったことが嬉しい2割、寂しい8割。
2対8で寂しいの勝ち!
まぁ、正直ステラにはノアのことを話そうと思っていた。
ノアが男の子だったら、あまり悩まずに済んだのだが、可愛い女の子なのでな。
男の俺ではよくわからんこともあるし、女性の知り合いは作っておきたかった。
なのだが
「・・・おかーさん、あれ何?」
「ん?あれはな・・・。」
ステラの呼び方がおかーさんになった。
ステラもステラで、その呼び方を受け入れているのか特に何を言うでもない。
さて、諸君。
自分のことをお父さんと呼び慕ってくれる子が、意中の相手をお母さんと呼びそれを相手が受け入れていると思われる現状、どう思う?
気恥ずかしいがちょっと嬉しい。
本当の家族ではないけど、自分に子どもと妻がいるのってこんな気分なのかなって思っちゃう。
ふと、周りを見渡せば同じような家族、友人とお出かけ、戦友との一時。
皆、平和を謳歌している。
この平和な時間が、いつまでも続くとは限らない。
翼神教、奴らの動きも気になるが・・・。
【混沌とした殺戮】
ここ十数年、問題になっている現象。
同族意識なのか、魔物は普段互いに深く干渉することはない。
だが、数年に1度の確率で魔物同士の壮絶な殺し合いが発生する。
その規模は凄まじく、1度発生し、巻き込まれでもしたら無事では済まない。
3年前、近隣の大型宿場街道が巻き込まれ大破した。今も復興の作業が続けられている。
何故起こるのか、何処で起こるのかも不明。頻度も不定期、詳しいことは何もわからない。
それが【混沌とした殺戮】。
師匠と俺がこの国にいるから、わかっていることがある。【黒キ魔力】が関わっていることだ。
師匠が現場の残滓から感じたのだから、間違いはない。
便座上、【黒キ魔力】と名付けたがこの力もよくわからない代物だ。
わかっているのは、この魔力は危険であること。
一度、発症してしまうと以前戦ったハイドのような状態となる。
負の感情によって爆発的な力を強制的に引き出され、精神と肉体の両方に甚大なる負荷がかかる。
俺を助けた村でこいつを使っている人物に、師匠は会ったと言っていた。
そして、こいつは俺の体にも宿っている。
ある程度のコントロールができるようになったが、感情の高ぶりによっては勝手に漏れることがある。
最後の一撃であるナイフが黒く染まったのはそのためだ。
師匠曰く、自然に発生した代物ではないってことだ。
誰かが偶発的に作り上げたのか、それとも・・・。
「シン。」
ふと、名前を呼ばれ我に返ると、ステラが心配そうにこちらを見ていた。
「大丈夫?」
「悪い。ちょっと考え事してた。」
「・・・今はノアと過ごす時間でしょ。良くないよ。」
「あー・・・ごめんなさい。・・・そのノアが見当たらないのだが?」
「ん。」
ステラが指をさす方を見ると、どうやらデザートの出店に行っているようだ。
「・・・甘いのさっきも食べたよな?」
「女の子だからな。」
女の子ってすげーや。
「あの子、どうするんだ?引き取るのか?」
「んー、それも考えた。施設にいる子どもたちも俺が引き取るならノアだな、って思ってるらしい。この間も『いつノアを連れてくの?』だってさ。」
「良い子たちなんだね。」
「まぁな、シスターの育て方がいい証拠だ。けどなー、残念なことに俺は独身なもんで。」
一応、孤児の引き取り先として里子的なシステムは存在しているが、結婚していることなど条件が色々ある。ま、シスターならその点なんとでもできるけどな。
「それなら、私と引き取るか?」
「ほ!?」
ステラからの思いがけない提案に声が出た。
「それってどーゆー・・・。」
「ほら、私は国王夫妻の義娘ではあるから。王家の後ろ盾もあるなら引き取りやすいと思って。」
あー、そーゆーことね・・・。
「ビビったー。てっきり・・・。」
「てっきり、何?」
イタズラが成功した子どものように微笑む彼女。
思わず胸が高鳴る。
「・・・わかって言いやがったな?」
「ふふ、たまには驚かされてみろ。」
彼女の魅力を語ると原稿用紙が1000枚あっても足りないが、ここは3文字【可愛い】で済ませておこう。
「・・・。」
「お帰り、ノア。ちゃんと買えたか?」
「・・・イチャイチャ?」
俺は転んだ。
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「すー・・・。すー・・・。」
帰り道の途中、うつらうつらしていたノアはついに眠ってしまった。
「・・・寝ちゃったね。」
「いつもより随分はしゃいでたからな。」
背中にいるノアを起こさないように、小声で話しながらゆっくりと進む。
「でも、本当に引き取らないの?」
「・・・正直、引き取りたい気持ちはある。けど、ノアの気持ちとか、皆に掛かる負担とかいろいろ考えると踏ん切りがつかないんだ。」
「シンはなんでも1人で考えすぎだよ。」
そう言うと、ステラは優しく俺の頬を突いた。
「それに、ずっと頑張ってるのはみんな知ってる。少しのわがままぐらい、私は許すし、みんなもきっと同じだと思う。」
「・・・ステラ。」
「私と引き取るって話も、本気だよ。私もちゃんと協力する。」
「・・・・。」
ここまで言ってもらえてるのに、グダグダ考えてても仕方ねぇな。
「・・・わかった、ノアを引き取る。」
「うん。」
「そのかわり、ちゃんと協力してくれよ。おかーさん。」
「ぐっ。も、もちろん協力するさ。おとーさん。」
「ぐっ!」
そんな馬鹿みたいなことで、お互い恥ずかしくなってるバカップルを月は呑気に照らしていた。




