戦う乙女に祝福を!
「・・・ん。」
カーテンから漏れる朝の日差しに瞼をくすぐられ、徐々に意識が覚醒する。
早朝、私がいつも起きる時間だ。
寝惚けている頭が思い出すのは先日のこと。
シンと一緒に後輩であるレオとリリアを私の隊に誘いに行った。
その際に、リリアから相談があったのだが・・・。
「ふふっ。」
思い出してつい微笑ましくなってしまった。
・・・私の隊、か。
周囲から見れば異例の出世、一隊員が隊長格に昇進をしたが周りから不満の声は上がらなかった。
むしろ、賛成の声が多いと聞いた。
朝の身支度を整え、隊服に袖を通す。
支度が整う頃には、頭はすっかり目覚めている。
部屋の扉を開け、廊下を進む。
時折すれ違う使用人たちに挨拶をし、目的の場所へ。
「よっ!ほっ!」
目的の場所である中庭に、すでにあいつの姿があった。
いつから動いていたのか、随分と汗をかいている。
「シン。」
私が呼びかけると、視線がこちらを向く。
「おー、ステラ。おはよー。」
「あぁ、おはよう。」
なんだったかな、指立て?なるものを行っていたシンは全体重を支えていた指1本で跳ね起きる。
「お疲れ様、朝から精が出るな。」
途中、持ってきた水入れを差し出す。
「お、サンキュー!」
いつも思うが、独特な言葉だ。
シン曰く、お礼の言葉らしい。
「ぷへー、生き返るぜ。んで、どした?」
「あぁ、私とお前で隊員の命も預かるわけだからな。できるだけ意見の相違がないようにしておきたいんだが・・・。」
「んー?別に迷うことなくね?おっさんの命で設立された部隊だし。」
「・・・。」
こいつは本当にどこまで分かっているのか。
実は心が読めるんじゃないか、って思う。
私は、迷っている。
未熟な自分がこれからは人の命を預かることになる。
中途半端は許されない。
「ま、ステラなら大丈夫だよ。少なくとも俺よりは限りなく正解に近いことができる。」
「おい、それだと困るぞ副隊長。」
なははは、と朗らかに笑うシン。
その顔を見ていると、肩の力が抜けると同時に気持ちが暖かくなる。
「1回部屋に戻って汗流してーな。ステラはどうする?」
「隊室に向かう、色々と書類仕事があるからな。」
「おっけー、俺もすぐに向かうわ。」
シンと中庭で別れて隊の部屋へと向かう。
「おや?」
「ミャスタさん?」
その道中で思いがけない人物にあった。
「あらあら、ステラさん。おはようございます、今日も凛々しく美しいですね。」
「ありがとうございます、って言えばいいんでしょうか?」
「そうですよ、美しいだけでなくあなたはとても良い人なんですから。」
「あはは、ミャスタさんもとても綺麗だと思います。」
「あらあらあら、嬉しいですね。ですが、ステラさん?気軽にミャーでいいって言ってるじゃないですか。」
ぷくー、と頬を膨らませる無表情のメイドさんは、この城でも屈指の実力者だ。
シンとの模擬戦を何度か見学したし、私も何度か戦わせてもらった。
口では「危ないですね。」「避け損なう所でした。」と言っていたが、確実に動きを見切られていたと思う。
無表情で掴みどころがない彼女だが、私は好ましく思っている。
「ミャス・・・ミャーさん。」
「そうですよ、ミャーでいいんです。」
満足そうに頷くミャスタさん。
「話は変わりますが、ステラさん。シン君に今恋人とかおられますか?」
突然の言葉に心臓がズキっと痛む。
「えっと、多分、いないと思いますが・・・何かありました?」
「いやね、メイドたちの中でもけっこー人気なんですよ。物腰が柔らかい、対応が親切、粗暴な方も多いい兵士職の方々の中でも優しい、笑顔が可愛いなどなど。」
知らなかった。
でも、想像はできる。あいつのことだから何も意識はしてないだろうけど。
「ま、そのメイドたちにも憧れるのは良いけど狙うのは辞めておいた方がいいって言ってるんですけどね。」
「なぜですか?」
「そりゃ、競争相手がステラさんですもの。」
・・・・・・・・・は?
「ま、待ってください。どうして私の名前が・・・。」
「え?・・・・・失礼しました、余計な一言だったようですね。」
ミャスタさんから突然突き付けられた言葉は私の心を大きく揺さぶった。
競争相手が私、ということは周りからはそれぐらいの仲に見えるってこと?
シンと私が?こ、ここここ恋人?それに近しい仲に見られてる!?
「ステラさん?おーい?・・・お顔が真っ赤ですね、初々しい。」
シンは迷惑かもしれない・・・。
いやまって、シンはってなんだ。私はどうなんだ!?
・・・嫌、ではないかな。良い奴なのは知ってるし。
けど、今の私じゃダメかな。もっと強くなってシンの隣に立てるようになってからじゃないと。
「何してんステラ?」
「うわ!」
「ほごぉっ!?」
急に現れたシンを反射的に殴ってしまった。
「すすすすまない!考え事してて!」
「おぉ・・・なんか、ステラの拳食らうのも久々な気がする。」
殴った場所を擦りながら、だいじょぶだいじょぶと手を振るシン。
こいつのこと、やっぱり・・・好き、なんだろうなぁ。
高鳴る鼓動がシンに聞こえる気がして、熱くなる頬に自分の気持ちを改めて自覚した日だった。