約束と覚悟
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薄暗い広間に、かすかな衣擦れの音と金属同士がぶつかる音が響く。
「ちっ!」
「うぉっとっと」
ハイドとシンの黒い影が、重なっては離れを繰り返す。
ハイドの手には一対のダガー。研ぎ澄まされた刃は、薄暗い中でも鈍く光を反射し、底知れぬ殺気を放っていた。
(あの黒く染まった瞳・・・。間違いない、『黒キ魔力』だ。)
ハイドの目は黒く染まっており、口元は歪んだ笑みを浮かべている。
(それに・・・!)
首を狙った攻撃を避け、何度もハイドの肉体へ拳を打ち込んでいるが・・・。
「あっひゃっはっひゃ!イタイイタイイタイイタイーーー!!!」
まるで手応えがない。効いているのかいないのかすらも判別不能。
それだけならまだしも・・・。
「あっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!」
ハイドは狂ったように笑い、再びダガーを構え、突進してくる。
その動きは先程よりも明らかに速く、力強くなっていた。
(おそらく、『黑キ魔力』の影響・・・ダメージを能力アップに変換とかか・・・。)
ハイドは痛みを受けるほどに力を増す異質な能力を持っていると仮定し、対処する。
(長期戦は不利。なら、一撃に掛ける!)
自ら目を閉じ、集中力を極限まで高める。
「ぎゃはは!どうした!もう終わりジャァン?」
ハイドは嘲笑いながら、シンの心臓にダガーを突き立てようとする。
シンは身を翻し、迫りくるダガーを紙一重でかわした。
暗殺者の動きは、まさに闇そのもの。予測が難しく、一瞬の油断が命取りとなる。
しかし、シンは、その暗闇の中でも正確にハイドの動きを捉え、的確に見切っていた。
「刹那無刀流・”菫”!」
シンの蹴りがハイドの脇腹を捉えた。鈍い音が広間に響く。
しかし、ハイドは苦悶の表情を浮かべるどころか、目を細め、恍惚とした表情を浮かべた。
「ぎゃはは!もっとだ!もっと痛めつけてくれジャァン!」
おおよそシンの予測通り、更なる痛みを求めてシンへと肉薄するハイド。
(・・・そうか、お前も既に狂っていたのか・・・。)
シンを映すハイドの黒い瞳には、すでに光はない。
もう、「ハイド」という存在はすでに『黒』に喰われていたのだ。
ここにいるのは「ハイド」という入れ物に入ったナニカ。
「俺が終わらせてやる!刹那無刀流・奥義!」
「!?」
こちらの命を絶つことに夢中になり、大振りになったハイドは避けることができない。
「”雪月花・夜桜”!!!」
「ごぼぉあぁぁぁっ!!!」
足腰腕、全身のバネを一瞬の内に凝縮し、相手に絶大な一撃を与える。
口から血を吐き出しながら、ハイドのは大きく吹き飛び、壁に激突した。
ハイドは動かない。
これで、終わった。そう思った。
「何っ!?」
壁に叩きつけられたはずのハイドの体が、黒い影のように揺らめき、消えたのだ。
直後、ステラ、ソフィア、マリオンたちの背後から、ハイドの声が響いた。
「ぎゃはは!甘すぎジャァン!」
「何!?」
「きゃあ!」
(まずった!)
奥義を叩きこみ行動不能にしたと思い込んでしまった。
「命令されてるし、先にこっちを始末するジャァン。」
(クソクソクソ!認識が甘かった!完全に油断した!)
2人もハイドには気付いている、動き出そうとするが遅い!
ダガーがソフィアに迫る。
「ソフィア!」
「ステラ!?」
ソフィアに迫る凶刃から、守ろうとソフィアの前にステラが飛び出した。
駄目だ駄目だ駄目だ!今からでは能力を使っても足りない!
くそっ!俺は!一体何を!!!
ダメだ!半歩間に合わない。そう思った。
ステラに刃が突き刺さる・・・。
「がっ!」
「あ?」
結果的に・・・ソフィアとステラは無事だった。一人の男がステラたちを庇ったからだ。
オボロ。シンに敗れ、身体の自由を失っていた男。
オボロはハイドのダガーをその身に受けたのだ。
ダガーはオボロの胸に深く突き刺さり、オボロの口と胸からは鮮血が溢れ出た。
それでもオボロはがっしりとハイドの腕を掴んだ。
「や”れ”っ!」
「「!」」
ステラとソフィアはオボロの声に反応し、ハイドに反撃しようと身構えた。
しかし、ハイドは二人の動きを冷静に見極め、嘲笑うようにニヤリと笑うと、驚くことに自分の片腕を切り落としながら距離を離した。
「ぐっ…ぅ。」
シンは駆け寄り、オボロを抱き起こした。
オボロの顔色は蒼白く、呼吸も絶え絶えだった。
「オボロ!あんたなんでこんな!」
シンが必死に叫ぶと、かすかに目を開ける。
オボロの瞳は、苦痛に歪みながらも、どこか優しかった。
「…シン・ガナスト…」
掠れた声でオボロはシンに声を掛ける。
「貴様は…やはり…子どもだな…甘さは…いずれ後悔…することに…」
俺と同じようにな…とオボロは自傷気味に笑う。
「だからって、なんであんたが命を張ってんだよ!」
オボロは苦しそうに息をつき、言葉を選びながら、諭すように優しく続けた。
「…子どもは…未来だ…。命を…張るのは…俺たち大人の…役目だ。」
「良いか…シン・ガナスト…!倒すだけでは…だめなんだ…。大切なものを…守るためには…時には…どうしても…覚悟を…決めなければ…ならない時がある…」
「・・・覚悟。」
「この先…同じことを…繰り返さぬように…覚悟を…」
ハァハァと苦しそうなオボロの姿は、もう力尽きる寸前だった。
「…たの…む…」
「え?」
最後の力を振り絞って、シンへとオボロの最後の願いが託された。
「・・・・あんた。」
「俺…と…兄の…未来…た…く…。」
オボロはそう言い残し、瞳が閉じられた。
シンはオボロをゆっくりと地面に降ろした。
「オボロ、あんたの未来は、確かに俺が受け取った。」
「ぎゃはは!死んだ?死んだジャァン!自分の命を投げ出してまで、ガキを庇うなんて、カゲロウみたいジャァン!」
何が楽しいのか、笑いが止まらないハイド。
師匠・・・。
『シン、お前の魔術は今後使用を禁止する。あれは、お前自身を強くしないし、お前が目指す王道ではない。それでは、真の強さは得られない。』
【良いか…シン・ガナスト…!倒すだけでは…だめなんだ…。大切なものを…守るためには…時には…どうしても…覚悟を…決めなければ…ならない時がある…】
ごめん、師匠。約束破る。
シンは深く息を吸い込み、目を閉じた。
「感動の別れは済んだか?そろそろ決着をつけようジャァン!!!」
片腕を失った影響か、先ほどよりも素早い動きでシンに肉薄するハイド。
「死ぬジャァン!!!」
振りかぶったダガーはシンに届くことはなかった。
「ぎゃはは!いてぇ!なんだこれ!腹に槍が突き刺さってるジャァン!」
いつの間にか、シンの手中には槍が握られており、それがハイドの腹を突き刺していた。
「何が起こったかわかんねぇけど、それぐらいじゃ俺は止まんねぇよ!」
腹から血を滴らせながらも戦闘を継続するハイド。
再度襲い掛かろうとする、ハイドに拳を叩きこもうとするシン。
「そんなん食らわねぇ・・・あがっ!」
ハイドが避けたと思った拳にはトンファーが握られており、強く頭を揺らされた。
「な・・・なんだ?なんでそんなもん持ってるジャァン?さっきからなんジャァン!」
「・・・・・俺の魔術。名を『造形』。俺は生き物以外なら何でも作れるんだ。だから」
その手にはいつの間にかハイドと同じダガーが握られていた。
互いに鍔競り合う形になる。
「その程度!」
「油断するなよ。」
シンの言葉と同時にハイドの背後から大理石の棘が突き出し、突き刺さる。
「がっ!ぐ、無機物ってそうゆうことジャァン!?」
的確なタイミングで、必要なものだけを造形する。
避ける方向、動きの制限、ハイドの足元や背後にも。
ハイドは次第に追い詰められていた。受けた痛みを憎しみに変え強くなるはずの体も、連続する的確な攻撃によって疲弊し始め限界を迎えていた。
「くそがぁぁぁぁ!!!」
ハイドはダガーを握りしめ、力任せにシンに斬りかかろうとするが、それを四方から現れた鎖によって繋がれる。
シンは手に造形されたナイフを強く握りしめた。そして、ハイドへと突進する。
「くそが!動けねぇジャァン!」
シンはハイドの懐に入ると同時に、手に造形されたナイフをハイドの腹部に突き刺した。
「ごっ・・・!こ、この程度!」
「『造形・増殖!」
次の瞬間、ハイドの腹部に突き刺さった黒曜の刃がハイドの体内で増殖し
「がっ・・・ふ・・・ぁ」
体内から、命を絶つ黒曜の花が咲いた。




