影と交差する刹那 2
ステラに答えるやいなや、シンはファントムへと距離を詰める。
それを察知したファントムは、ステラ、ソフィア、マリオンの3人に向けて暗器を投擲しようとするが・・・意識が自分からわずかにそれた瞬間にシンは更なる加速を見せる。
「……っ!」
3人を狙うプランの修正、迎撃の検討、目の前の敵を排除する手段、様々な思考が一瞬にして流れるがファントムが選択したのは「目の前の子どもを排除する」。
目の前の敵への対応が決定した時には、反射的に身体が動き、シンへと残り少ない暗器を投げる。
まるで意思を持つかのように、あらゆる角度からシンを襲う。手裏剣、クナイ、そして毒針。
月の光がそれらに反射し、星屑の様に一瞬煌めいては消える。
「俺に当てたかったらその5倍は用意しな。」
シンはその全てを叩き落した。ファントムへの距離を縮める。
ファントムが左手を大きく振りかぶると、指先に糸のようなものが現れた。
「鉄糸・・・。」
左手に仕込んだ鉄糸はファントムの切り札でもあり、隠し札。自分の身へと迫りくる敵を屠るための死糸。
しかし、シンはそれも冷静に捌いていく。鉄糸が目前へと差し掛かっても、身体を翻しながら迫る糸を回避する。距離が縮まる。
「……!」
ファントムが距離を保とうとするが、それをシンは許さない。シンは回避と同時に、一気に間合いを詰める。
距離が0になる。
一瞬の静寂。
「「・・・・っ!!!」」
シンが振りかぶった拳を避け、距離を離そうとするファントム。その動きに完全に追従するシン。
鋭い突きと鋭い蹴りにファントムは防戦一方となり、次第に追い詰められていく。
シンの攻撃は正確無比に人体の急所を狙ってくる。
「ぬぅ!」
「っ!」
苦し紛れの一撃。シンはその隙を逃さず、渾身の力を込めたカウンターを放つ。
「刹那無刀流!”馬酔木”!」
研ぎ澄まされた刃のように、シンの拳はファントムの身体へと吸い込まれていった。
「ごっ!」
ファントムのマスクから深紅の血が滲み出ている。シンは静かに倒れるファントムを見下ろした。
「・・・・馬酔木は身体を麻痺させるツボを穿つ打撃だ。2,3日はまともに動けねぇよ。」
「・・・・・強いな。」
「あんた本当に影の頭首なのか?」
「・・・何故。」
「理由は2つ。1つ、確かにちゃんと戦ってたけど攻撃に殺意が乗ってなかった。2つ、あんたの毒は致死毒じゃない、ただの麻痺毒だ。」
「・・・・・・。」
「1つ目は俺の感覚の話、2つ目は俺の実験で思った感想。ヒントは俺に麻痺毒は効きません。」
「まさか。」
「気になったんで、掴んだ毒針自分に刺してみました。」
「馬鹿者!それは強力な麻痺毒だ!如何に耐性があろう・・・と・・・も。」
シンの顔を見て自分が嵌められたことに気づいたファントム。
「・・・存外、性格が悪いのだな。」
「あんたは優しいな。・・・そんで本題、そんな優しいあんたがなんで影のフリなんてしてたんだ?仲間っぽい4人の首まで刎ねて。」
「理由は聞かないのではなかったのか。」
「影ならどうでもよかったけど、影じゃないってことなら、なんでか事情が気になるので。」
「それは・・・「俺が教えてやるジャァン?」・・・!」
ファントムの話を遮り、声を掛けてきた者。
それはファントムと同じ服を着ているが、髪は逆立ち、目は血走っている男だった。
「そいつの名前はオボロ、影の頭首カゲロウの弟ジャァン?首を切ったのは操り人形状態から解放するだとかお優しい理由なんジャァン?」
どっから現れたあいつ、気配はしなかったはずだけど・・・。
つか、めちゃくちゃ濃い。なんだ語尾が「ジャァン」って。
「ハイド・・・!」
あ、顔見知りの方ですか。
「お久しぶりジャァン?オボロさんよぉ、殺したはずのカゲロウが動いてるって話を聞いて面白そうだから来てみたらぁ。子どもに負けてるって面白いジャァン?」
「黙れ!兄を裏切った者がその名を口にするな!!!」
動かないはずの身体を無理矢理起こし、射殺さんとばかりに睨みつけるファントム・・・オボロ?
感情を殺していた男がここまで感情を表すなんて。
よっぽど、悔しかったし憎いんだろうね。
「おい、そこのギター男。」
「お?なんジャァン?ガキィ。」
「じゃんじゃんじゃんじゃんうるせぇ、楽器かおめーは。」
「はははっ!殺したほどに憎たらしいガキジャァン。威勢の良い奴は好きジャァン。」
「あっそ。俺は嫌いだ。」
かかかっ!と笑いが止まらない様子の男。
「オボロ・・・って言われてたっけ。どーゆーこったい。」
「・・・・・あの者はハイド、嘗て我が兄と同志だったものだ。」
「そそ、元同僚。で、そいつの兄、カゲロウを殺した張本人ジャァン?」
何がおかしいのかケラケラずっと笑い続けてるハイド。
「・・・・あそこの4人とその辺に転がってる6人はあんたの味方か?」
「あの者たちは・・・元々、我ら影の一員であったがいつからか、人形のようになってしまった。」
「そそ、都合の良い手駒ジャァン。力に適合できずに物言わぬ人形になっちまって、簡単な命令しか実行できない木偶の坊共だけどな!」
「貴様っ!」
「落ち着いて。力に適合できずって何?」
「とっても素晴らしい力さ!甘美で賛美でとっても暖かい・・・、我ら『片翼』の力・・・。」
恍惚の表情を浮かべ、クネクネと身体を揺らしながら酔いしれている様子のハイド。
「『片翼』ってなんだ?」
「影に変わる、我らが組織の名前ジャァン?お前達が影と認識してる組織はもうないジャァン。ま、それを認識してる奴なんざいなぇんだけどな。」
「なるほどねぇ・・・少なくとも、人を廃人に変えちまう力ってのは碌なもんだとは思わないけどな。」
ぴたりと動きが止まり、こちらを見る目つきが変わった。
「あの方の力を馬鹿にするなら殺すジャァン。」
「やってみろ。」
言い終わるか終わらないかの内に、ハイドの鋭い一撃がシンを襲う。
それに反応し、右手で防御を固めるが・・・
(・・・重っ!?)
予想以上に重い一撃に、意表をつかれたがまだ対応できる範囲内。
「よく止めたジャァン。やっぱ刃物は通らねぇじゃん?」
ハイドの手にはいつの間にか握られていたダガーがある。
シンはダガーを持ったハイドの手を掴む。
「およ?」
「その程度か、よ!」
「がびゅっ!」
お返しと言わんばかりの蹴りをハイドに食らわせるシン。
なんの抵抗も見せず、蹴りをその身に受け入れ吹っ飛ぶハイド。
避ける素振りも見せなかった。それがシンに引っかかる。
(・・・・妙だな。わざと食らった?)
それでも、力を込めた一撃だ。そうそう簡単には起き上がれない・・・
「痛いジャァン、すげー痛いジャァン。」
否、立ち上がってきた。蹴られた箇所を抑えながらも嬉しそうににやけて。
「・・・・なんだ?」
ただただ疑問。わからない。警戒。
「痛くて痛くて痛くて、お前が・・・殺したいほどに・・・。」
俯き、ぶつぶつ言っているハイド。
ピタッと声も、動きも止まり、ハイドの雰囲気が変わる。
「 にくいじゃん。 」
「ステラ!こいつ頼む!」
後ろに向かってオボロをぶん投げる。
顔を上げたハイドの瞳が黒く染まっていた。
「刹那無刀流・・!」
「遅いじゃぁん。」
やばい、本能が叫ぶ。
反射的に首の防御を固める。
ガギィイイイっと嫌な音を立てて、ダガーが手甲の上を滑る。
「へぇ、やるじゃぁん。」
「がっ!」
くそぅ!反対から殴られた!いてぇ!
「こんにゃろーが!」
「ごぶっ!!」
お返しと言わんばかりにがら空きの顔面を殴り飛ばす。
「かっはははは!痛いいたいイタイitaiジャァン?」
なんかダメージを受けるほど喜んでない?




