ex.01 誰かの暖かかった思い出
・・・・ここはどこ?
しらないばしょ、しらないおふとん。
わたしはどうしてここにいるの?
「あ!おかーさん!おきたよ!」
こえ・・・しらないおんなのこ、あなたはだれ?
「けがはだいじょうぶ?おみずもってくるね!」
あ・・・。
しらないおんなのこがはしっていくと、おとなのおんなのひとがきた。
「・・・辛かったね、もう大丈夫よ。ここは安全だから。」
あんぜん・・・?
おんなのひとはわたしをだきしめてくれた。
「わたしは・・・。」
「・・・何があったか覚えてる?」
なにが・・・あった?
「なにも・・・わからない。」
おもいだそうとするとあたまがいたい。
おんなのひとがぎゅっとつよくだきしめてくれた。
「おみずもってきたよ!」
そうしているといつのまにか、おんなのこがみずをもってきてくれた。
「ありがと、えぇっと・・・。」
おなまえ・・・。
「あ、わたしはソフィアだよ。あなたは?」
「わたしは・・・。」
わたしのなまえは
「ステラ」
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あれから数年がたった。
数年前に私はソフィアとソフィアのお母さんエレノアさんに助けてもらった、らしい。
私の村が魔物の群れに襲われ、運よく生き残った私を冒険者が助けてここに来た。
とのことだった。
幸か不幸か、私は自分の名前以外全ての記憶を失っていた。
その為、別段悲しむことはなかった。だが・・・少し寂しいと感じた。
エレノアさんとソフィアには本当に感謝している。
それに
「ソフィア、ステラ、お使いを頼めるかしら?」
「うん、いいよ。いこ、ステラ。」
「うん。」
「気を付けてね。」
「大丈夫だって、行ってきますお母さん。」
「はい、行ってらっしゃい。ステラも気を付けてね。」
「うん、行ってきます。”お母さん”。」
「はい、行ってらっしゃい。」
お母さんは、私をソフィアと同じ実の娘のように育ててくれた。
私が元気になれたのも、二人のおかげだ。
お使いへの道を進みながら、ソフィアと雑談をする。
「そーいえば、冒険者さん次はいつ来るって?」
「わからない、ギルドもあの人のことを把握してるわけじゃないから。」
「ふーん。でもさ、すごいよね。綺麗で強い女の人なんて。」
ちょっとしたことで知り合った冒険者の女性に稽古をつけてもらっている。
名前は何故か教えてくれなかった。
それでもいいんだ。何かあった時、二人を守れるぐらいには強くなりたい。
もっとも、向こうは自由気ままな冒険者。不定期に訪れるため基本は自主練。
1月後に来ることもあれば1年以上待ったこともある。
そろそろ目的地に到着するところだが、なんだか市場が少し騒がしい。
「何かあったのかな?」
「わからない。広場の方だね。」
広場には人だかりができており、その中心で何かを見ているようだった。
気になりはするけど、おつかいが優先なのでお店へ向かう。
「おや、ソフィアちゃんにステラちゃん。」
私たちに声をかけてきたのは目的地であったパン屋のおばさん。
私もソフィアもとても良くしてもらっている優しい人だ。
「こんにちわ、おばさん。いったい何があったんですか?」
ソフィアは必要なものをおばさんに伝え、気になっていたことを聞いている。
おばさんは慣れた手つきでパンを包みながら答えてくれた。
「なんでも国から御触れがあってね、どうやら国王様の容態が悪いらしいのよ。」
「国王様の?」
「なんでも、もう長くないだとか。それで後継者を探すって話みたいだわよ。」
「え?国王様には跡継ぎがいないはずじゃ?」
「それがねぇ、どうやら十数年前に王妃と共に王都から逃げ出したんだってさ。何で逃げ出したかまでは書いてなかったからわからないけど、その王妃と子どもを探してるんだってさ。」
「探すって、一体どうやって?」
「なんでもせんてーせき?みたいな魔道具を使うって、あたしにゃ何が何だかさっぱりだけどね。」
「ふーん、なんだか国も大変みたいですね。」
会話も終わり、ちょうど包み終わった品物を受け取る。
「うちの新作パンをおまけにしてるから、エレノアさんにもよろしく伝えておくれ。」
「いつもありがとうございます、おばさん。」
「いいのいいの!かわいい子たちにはサービスだよ!頑張るんだよ!」
ソフィアと一緒におばさんに会釈をし、家への道を戻る。
「なんだか大変みたいだね。」
「ねー。ところでさ・・・」
自分たちには関係のないことだと、この時の私たちはそう思っていたんだ。
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「「ただいまー。」」
「はーい、おかえりなさい。」
お母さんに頼まれていたものを渡す。
お母さんは私たちからパンを受け取ると、お昼ご飯の準備に入った。
「あ、そういえばねお母さん。」
「んー?どうしたの?」
お母さんがてきぱきと準備している時に広場であった出来事を思い出し、話した。
話してしまった。
「パン屋のおばさんに聞いたんだけどなんか国から御触れがあったんだってー。国王様がもう長くないとか。」
その時、ガシャーンっと何かが割れる音が聞こえた。
「お、お母さん大丈夫!?」
どうやら、お母さんがお皿を落としてしまったらしい。
「え、ええ。ごめんなさい、少し驚いちゃって。」
お母さんはすぐに我に返ると、割れたお皿を片付け始めた。
「やっちゃたぁ~・・・。」
「箒持ってくる。」
「ごめんなさい、ありがとう、ステラ。」
お母さんに気にしないでと伝え、箒を持ってくる。
「それで、ほかに何か書いてあった?」
いつになく真剣なお母さんの表情に私もソフィアも驚く。
「う、うん。それで跡継ぎを探してるって。ね、ステラ?」
「うん。おばさんが見たのに書いてあったのは、王妃とその子供が十数年前に王都から逃げ出していたんだってこと。その人たちをせんてーせき?みたいな名前の魔道具を使って探しているって。」
「そう・・・。」
お母さんの真剣な表情にこっちも緊張する。
「あ、あとね、おばさんからおまけを貰ったの。」
空気を変えようとしたのだろう、おばさんから貰ったパンの包みを持ってくるソフィア。
お母さんに中身を見せようと包みを開くと、美味しそうな木の実のパンが入っていた。
「美味しそうなパンだね。」
「うん、すごいね。おばさんのパン屋でも見たことないよ。新作かな?」
そんなことを話して、お母さんの様子を見ると
「・・・・・。」
すごく真剣な表情をしていた。
「・・・ソフィア、ステラ。お母さん少し遠くに行かなければならなくなったの。」
「え?ど、どうしたの突然。」
「ごめんなさい。今は詳しく説明できないの。」
お母さんはそう言うと、出かける準備を始めた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。どこに行くの!」
「・・・本当は、話すべきなのでしょうけど。ごめんなさい、時間がないの。」
準備が終わったお母さんは、扉へと向かっていった。
「「お母さん!」」
「・・・・・。」
私たちの呼びかけに立ち止まるお母さん。振り向いたお母さんの表情は、とても悲しそうだった。
「・・・ソフィア、ステラ。人は一人では生きていけないの、家族、友人、知人、知らない誰かがいるから、人は生きていけるの。それを忘れないで。」
幼い時に、聞いていた絵本のお話。
人は孤独であるべからず、誰かがいるから人は人であることができる。
そして、人であるならば誰かと繋がれる。繋がりを深く感じることを望めば愛を知れる。
確かそんな内容だったと思う。
「これは、私の我儘・・・。許してちょうだい。」
そう言うとお母さんは、扉に手をかけた。
「気を付けてね!」
「ちゃんと帰ってきて!」
扉が閉まる直前、最後に見たお母さんの表情には、涙が見えた。
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数日後、お母さんが乗った馬車が事故に逢い、行方不明になった。




