理性と感情の先、その瞳には何が見える?
そんなこんなで、俺が屋敷についてから一月程たったある昼下がり。
んー?何?その間何もなかったかって?
そりゃー、ありましたよ。
ソフィアが風呂に入ってるのに気づかなかったり、転んだ拍子にステラに抱きついてしまったり。
挙げ句の果てには寝ぼけた2人が俺のベットに入ってきたりーーんてことあるわけねぇだろボケェ!!!
風呂に入ってるのに気付かないことある?
鍵閉まっとるし、開いてたとしても音とか明かりで気付くわ!
転んだ拍子に抱きつく?
何もない場所で転べるか!
寝ぼけてベットに潜り込んできた?
俺の部屋は少し離れてんのに部屋を間違えるほうが難しい!
そんなイベントは一切なし。
現場からは以上!!!
そんなこんなあったの!ね!続けるよ!!
そんなこんなで俺とステラはトラベルさんに呼び出されていた。
ソフィアの所にはアイゼルさんが残ってくれてる。あの人も強いし安心安心。
「しっかし、何の用なのかね?」
「私も詳しくは聞いていない。」
「俺とステラに呼び出しっしょ?俺たち何かやっちゃいました?」
「誰に聞いているんだお前は。少なくとも私には心当たりはない。お前がクビになる件じゃないのか?」
「ステラが冷たくて凍えそう。」
「凍って割れろ。」
なんて軽口を言い合える関係にはなった。
あーだこーだなんだかんだ言っている間に執務室へ到着。
ノックしてもしもーし。
「ステラです。」
「シンでーす。トラベル先生に用事があってきました!」
「・・・。」
「あいたぁっ!!!」
ステラに足を蹴られた。
『くくくっ・・・!ぅんっ!・・・入ってくれ。」
笑かす事に成功、やったぜ。報酬は足の痛み、割に合わねえ。
「失礼します。」
ステラに続いて俺も部屋の中に入る。
中にいたトラベルさんはにこやかな表情をしていた。
「だいぶ打ち解けているようで安心したよ。」
「まぁ、それなりに・・・って言いたいんすけど、この顔見てくださいよ。」
「心底嫌そうな顔をしているな。」
「嫌そう、ではなく嫌ですが。」
ひー、ステラが冷たい。
「まあ、そう邪険にするな。同じ主人の下に働く仲間だろ?」
「・・・それで、話とはなんでしょうか。」
話を逸らしやがった。俺も呼び出しの内容が気になるし、いいけどさ。
俺たちの質問に先ほどまでの楽し気な表情から一変して、苦虫を噛みつぶしたように渋い顔のトラベルさん。
「なんとも言い難いんだがな。招待状が届いてな。」
「招待状?」
ステラもなんのことかわかってないらしく、二人して顔を見合わせた。
首傾げてるの可愛い。
「差出人は"ダレダ・ダレッサ大臣"。姫様候補の一人を保護している方だ。」
「姫様候補・・・あー、ソフィアの他に2人いるって言ってたやつですね。」
「そう、その一人を保護している大臣からだ。」
大臣つーと、教会から保護した娘だっけ。
「うぇ?でも、襲撃の危険性があるっつーのにお気楽すぎない?」
「私も、非常に不本意ではありますが、シンに同感です。」
「あんたさんは俺にとげを刺さなきゃ気が済まんのかい?」
「癖だ。」
「癖かぁ。」
癖ならしゃーなしやな。
「確かに俺も呑気すぎると思う。しかし、大臣が無理やり推し進めたらしく止めることができなかったようだ。」
あー、なるほど。
トラベルさんは王国騎士団の人だし。上官のお誘い(強制)ってところだろ。
国家公務員も楽じゃないね。
「それに、少々気になることもある・・・。」
「気になること?」
「手紙の内容的に、おそらく向こうは襲撃の事実すら知らなそうだ。」
「・・・まじすか?」
「こちらに襲撃があったことは、上に報告している。それが他の候補者には伝わっていない、又は襲撃すらないことも考えられる。」
おー、襲撃があったのはソフィアのみ。ってなるとー・・・
「どーしてもソフィアを消したい理由があった、ってことですかねぇ。」
俺の考えに同調するように、部屋の空気が重くなる。
そして、それが指し示すのはソフィアが・・・。
「・・・少なくとも、現状何が正解なのかはわからない。参加するならかなり危ない橋を渡ることになる、無理を通せば不参加にもできるが・・・どうする?」
この『どうする』にはいろいろな意味が込められている。
「私は・・・正直、賛成しかねます。」
ステラは申し訳なさそうな表情をしながら、言葉を並べる。
「ソフィアには危険な目にあってほしくありません。囮のような役目など私は・・・。」
ソフィアを思うステラは、トラベルさんが聞いてくれたことを察したのだろう。
尻すぼみになっていく言葉と共に視線も下に向いていく。
・・・良くない、ああ非常に良くない。
そんな顔は見たくないんだ。
「なら、このまま籠の鳥生活を続けんの?」
「・・・何が言いたい。」
そんな一言で視線を俺に向けるステラ。その瞳にはありありと『怒り』の感情が見て取れた。
けどさ、俺も譲れねーんだわ。
「確かに危ない橋を渡ることになる。けど、逆にチャンスかもしれないんだ。この状況を変えるチャンス。」
「そんなことはわかっている!その為にソフィアに危険な目に合えというのかお前は!!!」
「いーや、ステラは全っ然わかってない。」
「何を・・・!」
「何もわからないまま一方的に襲われる続ける人生がソフィアのためなのか?」
「・・・っ」
「短い間しか一緒に過ごしてないけどわかるよ。ソフィアはすげー優しくて良い奴だって。そんな優しい奴が、誰かのために一生懸命になれる人が不条理に、理不尽に、襲われ続ける?俺はそんなの許したくないし、許せない。」
「・・・。」
「それにステラも本当の気持ちは違うだろ?」
「私の・・・気持ち。」
あぁ、そうさ。
ステラは俺以上なはずなんだ。
「どうする?こんな状況に追い込んだ元凶に近づけたら。もし、見つけることができたら。」
「・・・決まっている。」
その瞳に滾るは激情、理性のさらに向こう側にある本能。
そうさ、ステラは俺以上に怒ってるし許せないはずなんだ。
悪いのは何もかも全部、姿も見えない敵の方。
そんな奴に大事な人が危険に晒されてるんだ、だったら決まってる。
「この手で顔の形状が変わるほど殴る。」
「そうこなくちゃ。」
・・・思った以上に怖かったのは内緒。
「・・・本当に頼もしいよ。」
俺とステラのやり取りを静観してみてて、タイミングを探してたらしいトラベルさんが
声をかけてくる。
「では、今一度聞こう。参加するか、しないか。」
答えは決まってる。
俺もステラも選ぶ先は同じ。
ステラと顔を見合わせて、頷く。
迷いなんかない。
「「参加する(します)。」」