ウサギ4
さわさわと草原に爽やかな風が流れる。
白ウサギの女の子、「アヤコ」のふわふわな頭の白毛を柔らかく揺らした。
と言っても俺も口下手だ。何も話さず風の音だけが響いていた。
「ねえ、ご主人様」
そんな空気を察したのかどうかは分からないが、アヤコが先に口を開いた。
「えっ、なに」
「どうして私を選んでくださったのですか」
アヤコはキラキラした目で尋ねた。
毎日自堕落に生きていた自分には申し訳ないぐらいの輝いた目だ。
「んー、まあなんとなく……かな」
我ながら情けない理由だ。もっとマシな理由は作れないのか。
「なんとなく……」
アヤコはふっと力を抜いて呟いた。
マズい、俺に失望してしまったか。ご主人様とか言ってたのに。
「そっか! 嬉しいです!」
返答を予測して強張らせていた全身の筋肉が緩んだ。ついでに表情も。
「だって、理由がなくても私を選んでくれたってことでしょ? 顔が可愛いとかおっぱいが大きいとか」
無邪気で純粋だと思ってた女の子の口から飛び出たことばに、正直面食らう。
お前、そういうキャラだったのか?
思わず笑ってしまいながら少し戸惑う。え、それで本当にいいのか?
俺が戸惑っている内にもアヤコは続ける。
「理由がなくても名前をいただける。これほど嬉しいことはないです!」
そんなことを言われると、こちらも理由がなく嬉しくなってしまう。
いやいや、理由がない訳ないだろう。
そりゃ、こんな女の子に好かれば嬉しくもなる。
こんな……その、たかが名づけぐらいですり寄ってくれる女の子がいれば。
ニヤニヤ細めた眼の視界の端に相変わらず爽やかな緑の草原が映る。
なんで視界の端かって、そりゃさあ……こんなに顔を近づけるほど接近してれば自然と、その下の方へ。
そのとき、一面の緑の中に薄茶色が混じった。
ああ……ドアだ。ここに来た時の。
俺は我に返る。
バカか、自分は。
恥と警戒がふつふつと復活して、心を鎮めるためにもアヤコに真面目な質問をした。
目線は無理矢理にでも空を見つめさせた。
「あのさ、君達はなんなの?」