ウサギ2
「どうでしょう、あなた好みの部屋でしょう?」
四つん這いでうさぎのコスプレをした少女達を目の前にしてそんな事を言われても、俺は何が好みなのか良くわからないままだ。
なんだ? こいつは俺が女の子にコスプレをさせてペットや家畜のように扱うのが好きとでも思っているのか?
僕の脳内を気持ち悪い眼球で覗き来んだみたいな眼をした男は、その眼で僕をまたにやにやと見た。
そうか、そう言いたいのかよ、お前は。
ここは夢の中の世界。
さっきの恋人やお偉いさん方みたいに、現実では実行不可能な事を夢見て遊ぶのが夢。
ここの夢。
倫理にも道徳にも法律にも良識にも無関係な世界。
……痛覚はわからないが。
で、俺は普段は何も興味が無く適当に生きてるだけだど思っていたけれど、実は深層心理というやつでは、少女のペットを願っていたという訳か?
もちろん俺にそんな願望も性癖も自覚は全くない。
が、この男は俺にそうじゃないかという疑惑の思考を植えつけて来た。
ジワジワとジリジリと、こいつの濁った眼でにやにや見つめられると、脳に思考を簡単に植えつけられるようだ。
別に、夢だから良いのだけど。
「どのウサギになさいますか?」
びっしりと整列したもこもこの女の子を見下している時に男に聞かれた。
「どの子にしようかな」
「どのウサギになさいますか?」
別に二回も言う必要もないのに、わざとらしく強調して言った。
「少女」や「子」じゃなくて「ウサギ」と呼ぶのか。
それを俺もやれと。
男はまた俺を見てにやにやした。
「こ、この子にします」
反射的に目の前にいた「ウサギ」を指差さした。
「この子」という言葉がつい出た瞬間には男に怒られるんじゃないかとびくっとしたが、全くそんな事はなく、満足げに目を細めて僕を見た。
男は「お前、来い」と指名したウサギを手招きした。
黒髪のツインテールで一重瞼の女の子だった。
嬉しそうに顔を赤らめながら、ぎこちない四つん這いで俺の足元に来た。
足元で止まって、恥ずかしそうに、嬉しそうに、申し訳なさそうに、俺を見上げた。
何か話しかけようとしたが、俺は何も言えなかった。
こんな小さくて弱そうな少女なのに、笑顔なのに、笑顔に気圧されたのだ。
決して怖い笑顔でも、不気味な笑顔でもない、純粋で無垢な笑顔だ。
そうだ。
「貴方を信じています」と裏切りを全く疑わない汚れていない瞳だった。
「さあ、これからこのウサギはあなたの物でございます。さあさあ! 何でも好きなように!」
男は両手を広げて楽しそうに高らかに謳った。
「あ、ああ」
とりあえず、俺は足元のウサギの頭を撫でてみた。
この毛は被り物だよな? まさか夢だからって肌から生えてる訳はないよな?
ウサギの頭を撫でながらどうでも良い事を考えた。