ミドリノキノコ2
そこは開けた窪地で、深さはちょうど二階立ての家が入るくらい。
広さは子供が遊ぶ公園ぐらいだろうか。
こっち側はなだらかな傾斜になっているが、向こうが側は正に断崖絶壁だ。
小さなクレーター…というよりまるで何かで抉られた様だった。
アイスをスプーンですくうと出来るあれだ。
その窪地の中心にはこじんまりした家が建っていた。
家というより、ちょっとしたコテージみたいだった。
鮮やかな赤い屋根の一階建てでウッドデッキが付いている。
その周りには沢山の人が集まっていて、その家に向かって列をなしていた。
気が付けば俺は下に降りて列の中にいた友人達に話しかけていた。
何故ここにこんなものがあるのかとか、何故ここに友人がいるのかなどは全く疑問に思わずに。
夢ではよくあることだ。
「なぁ、何で大学の裏の林にこんなとこがあるんだ」
「なんだよお前知らないのか。今日はここに来てるんだよ。めったにないぜ、こんなチャンス。なんせ一生に一度巡り会えるだけでも幸運だからな」
「ふーん、そうなのか」
そう言って俺も列に並んだ。
会話の最中はまったく気にならなかったが、俺の大学の裏なんかに林は無い。
そもそも都内の大学なので裏はビルしか無い。
そして肝心の「何が来ているのか」も聞いていない。
聞いていないが、何故かあの家の事なのだろうと言うのは分かった。
あの家は各地に消えたり現れたりしていて、あれを目にする事はとても珍しい事なのだろう。
何故大勢の人間が列をなしているのかは分からなくても、何故か俺は当然の事のようにすんなり理解していた。
窪地の中は霞が溜まっていて、先ほど以上に涼しく、そして異様な雰囲気だった。
少しずつ列は進んでいった。
俺は友人等と会話もせずに並んでいる。
列が家に近づくと先頭の様子が分かった。
どうやらこの家は半地下のようで、下に続く階段が見えた。
そしてその前には妙な男が立っていて、列の先頭のヤツと何やら話している。
身長は130センチに満たないかと思うほど小さいが、頭は普通の人間の頭より一回り大きい。
そして背中が大きく曲がって瘤が出来ている。
そのくせきちんとした燕尾服なんて着ている。
髪は白髪に黒髪が混じったごま塩状態だが、こちらもきちんと七三分けだ。
男は先頭のヤツに話しかける。
そしたらそいつは何か文だか単語だかみたいなものを必死で言って。
そして結局男に追い払われる。
その繰り返しだった。
なんだか分からないままに、列は更に進み俺も家と男に近づいていった。
前の友人の番だ。男は友人に話し掛ける。
近くで見るとますます気味が悪いな。
顔は皺くちゃでシミが多い。
遠くだと分からなかったが、片目を常に瞑っているようだ。
男はぼそぼそと友人の耳元で何か言う。
結果友人も他の人間と同じく追い返された。
そいつはものすごく悔しそうにしながら、どこかへ去って消えた。
次は俺の番だ。
何を聞かれるのか全く知らないが特に不安は無い。