ウサギ8
「別に、名前なんてなくても好きなように出て行けるんですけどねえ」
「えっ」
アヤコは脈絡のないことをいきなり言った。
「いや、最初に言ったじゃないですか。『名前を貰えるとかいほうされる』って」
「うん」
そういえば、この子の口調は最初から大分変ってないか…?
「あれ、半分本気、半分適当に言ったんですよ。なんか……騙すような真似をしてすみません」
「そうなの?」
「はい……ああいう風に言えば、乗ってくれるかなと思って」
……なんか、恥ずかしくなるじゃないか……確かにその台詞で面白くなったのは事実なので……。
俺が恥ずかしくなっていても、アヤコの話は続く。
「選んで名前を付けられて、甘えて満足して、この夢にはもう来ない子は確かにいます。でも、私は何回目かなぁ。一回満足しても、また夢を見始めるんです。で、また選んで貰えるまで同じ夢を見続ける。何回も何回も、飼われて捨てられる夢を見る」
ここまでアヤコは一気に喋った。
「大人になっても、子供の身体に戻って夢を見ます。なので、ここにいる子の現実の年齢は違うかもしれないんですよ。ごめんなさいね!」
パッと笑顔になって悪戯っぽく言った。
え、最後に知りたくなかった事実を……と思って、気付いた。
なんで今俺は、「最後」だと思ったんだ?
「夢の中ですからね、そういうこともありますよ。たまにあるでしょ、『そろそろこの夢終わる』なって」
「たまに……あるかなあ」
この一言を捻り出すだけでいっぱいだった。ちょっと、頭を整理させて欲しい。
あと、最後ならこれだけ言わせてほしい。
「君さ、最初から比べると結構キャラ変わったよね!?」
「あー、そうですね! そもそも、自分の"キャラ"が分からないので大分不安定なんです! ごめんなさい! 相手に合せてコロコロキャラ変えてたら、自分がどんな人間だったのか分かんなくなっちゃったんですよ!」
そんなもんなのか……? そしてそれは、夢の中の話しなのか、それとも……。
「あーもう、こんな時間! もっとしたいことやりたいこと、やって差し上げたかったんですが、時間切れのようです。今日はありがとうございました。ちっとも楽しくなかったかもしれないけど、起きたらいい思い出に変わっていますように! では、引き続きよい夢を!」