表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/13

ウサギ6

とりあえず、俺は何か返事を返さなくては。聞いといて黙るとかなんかカッコ悪いじゃん。

「ふうん……。それって、辛くないの?」

ヤバイ。思わず口が滑ってしまった。自分は軽率でバカだ。アホだ。

「うーん、どうですかね。辛いとか、あったっけなあ。でも、寂しくても辛くても、死ぬわけにいかないじゃないですか。私達は見るんですよ、夢を。いつか自分に名前を付けて貰える日の夢を。その夢を糧に生きてるんですよ」

アヤコは淡々と話した。


ぐっと彼女の見た目の年齢が上がったように感じた。

目はこちらを見ていない。

周りの風景は、相変わらず焦点が定まらないような、青い空と青々しい草原がずっとずっと無限に続いている。

アヤコの視線はただまっすぐ前を向いていた。

こげ茶色の瞳は力強く見えた。

一体、彼女は何を、どこを見ているのだろうか。


風が俺達を一撫でした後には、アヤコはくるっとこちらを向いて話題を変えようとしていた。

「ねえ、ご主人様! そんなことより、ご主人様の事を教えてくださいな」

屈託のない笑顔でそう迫る。

ふわふわの毛皮が俺に迫る。

ウサギの白い毛が俺の腕に触れる程に……だ。つまりは……。

そりゃ、俺はモテもしない大学生だからな!

こういうのには弱い。

受け答えもしどろもどろに、そしてただ現実のことを喋るだけになる。


「え、いや、俺はタダの大学生で、結構適当にフラフラしてて、遊んだり」

「えー! 大学生ですか! すごい!」

「いや~、そんな~普通だよ、普通」

可愛い子に褒められるのは悪くない。

普段は特に自慢できるものがないのだから、いい夢ぐらい見せてくれたっていいじゃないか。

へらへらと笑って、その次にハッとする。

もしかしたら、この子にとっては「普通」ではないかもしれない。

小さい頃、背伸びして観た社会派ドラマで見た事がある。

そういう子供が集まって暮らす施設を題材にしたドラマだ。

ヤバイ、失敗した。


しかし、そんなことには気に留めないように、アヤコの賞賛の笑顔は崩れない。

「え~、でも頭良いんですよね~! それだけですごいです~」

正直、心地が良い。

この何も考えなくていい夢に迎合して楽しむだけでいたくなる。

単純すぎる褒め言葉はちょっとどうかとは思うが、それでも「夢ぐらい」という甘えがその感情を引き起こす。

さっきのホールにいた首相や男女の気持ちが分かった気がした。

が、それ以上に自分の中では気持ち悪さがモヤモヤと溜まっていた。

その正体は結局、夢から覚めた後も分からなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ