第5話:魔獣
昨日、魔法を使った後にあった気怠さはすっかり消え、すっきりとした目覚め
そんなことはあり得ない
気怠さは無いが、ついでに空も、太陽もない
そんな環境で、地面に布を敷いただけの簡単な布団(地面はグラギスさんが柔らかくしてくれた)から、ソフィアにたたき起こされる
そして、魔法で調理したというフワッフワなパンを食べながら、現状を説明される
明け方、小一時間前に魔獣の群れが侵攻してきたらしい
魔法で感知したソフィアとグラギスさんが、様子を見に行ったが、感知していた力より強い魔獣がいて、急いで洞穴まで戻り、数人を起こしつつ、今まで持ちこたえていたそうだ
パンを食べ終わり、これからの予定を聞く
「とりあえず、魔獣が片付くまで、祠に行くのはやめた方がいいじゃろうな・・」
ソフィアがすまなさそうにこっちを見ている
「別に、今日中に帰れれば何にも問題は無いから、気にしないでくれ」
…
…
…
あれ?なんかまずいこと言ったか?
「魔獣の量が異常じゃから、今、何とか耐えていんじゃが・・・敵の波が途切れたときを見計らって、拠点を移動せざるを得なくなるかもしれん・・・」
今日はソフィアの回復魔法を駆使しつつ、長期戦に持ち込んでから逃げる予定だそうだ
「拠点が移動すれば、祠にも行きにくくなるし、危険も増えるわよ」
ますます行き来しにくなったな・・・
「じゃが、今日は拠点の位置を決めたら、わしらが囮になっとる間に祠に行ってもらってかまわんぞ。それがいつになるかは、全く見当も付かんがのう・・・」
今日の予定をまとめると、魔獣の侵攻が止んだら拠点を移し、その位置が決定したら、俺とソフィアの二人で祠に向かい、俺がいた世界に戻る
その後は、とりあえず俺の生活がひと段落付くまで、今の予定では中学卒業までは、神社で魔法の練習を続け、この世界に戻ってくる
そして、それまでにグラギスさんたちが、仲間を見つけ、軍隊との戦闘に備えておくとのこと
「魔力量も少ないことじゃし、毎日魔法を使うのじゃよ?」
「やっぱり俺の魔力量は少ない方なのか?」
二人が大きくうなずいた
魔力量は、体力と同じように、使わないと増えない
小さい頃から魔法を使っていないと、魔力量を増やすのが辛くなるそうだ
小さいときに運動していないと、他の人より体力が少ないのと一緒だ
ただ、体力は落ちるが、魔力量は滅多に減らないらしい
真偽は不明だが、失われた魔法に魔力量に干渉できる魔法があるらしい
それ以外で魔力量が減ることは、まずないそうだ
そして、一つしかないこの洞穴の入り口付近では
獣人10人ほどが、先頭のほう
30人くらいいる剣士たちは、軽装備の者は前に出て敵を倒し、重装備の者は、みんなの取りこぼしを、一番後ろで確実にしとめている
俺に説明をしてから戦闘に戻った、的確な指示を出しつつ、サポートするグラギスさんや、みんなの身体強化や、治療・回復をしているソフィアは、まだ余裕があるように見えた
そんなのを続けていると、案外早く、みんなに余裕がある内に、魔獣がやってくる間隔が広くなっていった
「各自、今敵対しておる魔獣をしとめたら、移動を開始せい!!」
続々とみんな洞穴の中に入っていき、グラギスさんがたった今あけた穴から外に出ていく
グラギスさんは殿として、最後尾で魔獣を足止めしている
4、50分歩くと、直径が300mはあるであろう巨大なクレーターのような物が見つかった
深さも6、7mある
グラギスさんのおかげで魔獣は振り切っている
「ここでいいかの?」
みんなうなずく
「あと、当分の間、ソラとソフィアだけ別行動じゃからな」
グラギスさんがそういうと、数名の男子に睨まれた・・・ソフィアは人気だな
「気をつけるんじゃぞ」
みんなに見送られ、祠に向かう
何事もなくたどり着ければいいが、なぜか今日は魔獣の量が異常に多い上、強力な魔獣の割合が高いそうだから、何かは起こるだろう・・・
20分ほど歩いたところで、予想したとおりになった・・・
狼っぽい魔獣の群れに出会ったのだ
ソフィアは、もう魔力が練ってあったらしく、敵を眠らせる魔法を発動し、走る
ソフィアほどの補助魔術師は、直接的にダメージを与える魔法以外は何でも使えるらしい
狼の群れから少し離れたところで
「やっぱり魔獣が多いみたいだから、とばすわよ」
そう言って、身体強化の魔法をかけてくれた
十分ほど走り、いつもなら死にそうになるのだが、今回はまだまだ余裕だった
今俺は、初めて運動という物を楽しく思えている
走るのって気持ちいいねっ!
そう蓮とか隼人に言いたい気分だ
そういえば、隼人とあの人って・・・
俺は思考を止めた
何てったって今は、おこじょみたいなすばしっこい魔獣から逃げてる最中だから!
今はかなりの速度で走っているため、新しい拠点を出発してから30分も経ってはいないが、祠が見えた
あと200mほどになったときだった
こけた
俺が、こけてしまった
身体能力が強化されようと、判断力、注意力はそのままだから、俺としてはしょうがない気がする
幸い、今は運動能力が強化されているから、ズテーン、とはこけなかった
トテッって感じだ
しかし、こけた一瞬でおこじょは俺の目の前まで来ていた
3分ほど前に、ソフィアに言われた言葉が思い出される
「こいつの尻尾は刃物になってて、切れ味がすごいから気をつけないと死ぬわよ!」
俺は死ぬのかな?こんな世界こなきゃよかった・・・
なんてことを思いつつ必死に、こちらへ尻尾を向け、跳んでくるおこじょを避けようとするが、間に合う気がしない・・・
だめだ・・・
右手を前に出し、せめて、命だけは、と、目をつぶった
が、痛みはいつまで経っても襲ってこなかった
代わりに、前方から「うっ」とソフィアの声が聞こえた
驚いて目を開けると、目の前には、重ねた両掌におこじょの尻尾が刺さっている、ソフィアの姿があった
両手を前に出して魔法で防御しようとしたが、間に合わなかったのだろうか
「ソフィアっ!!」
自分の運動能力の低さを、15年間生きてきた中で最も憎く思った
おこじょ・・・ネコ目イタチ科に属する動物
別名ヤマイタチ
イギリスを含むヨーロッパ中北部、北米に生息している
日本にはホンドオコジョとエゾオコジョが生息している
(by wikipedia)
白くてちっちゃい奴です