春の訪れ
「はぁはぁ…夢、か。」
眠りから覚めると、俺の全身が汗で濡れていた。
俺は夢を見ていた。
城沢が悪魔のような何かに襲われる夢を。
誰もあいつを助けない。
俺は声を出したくても声を出せない。
ただ襲われている城沢を見ているだけだった。
今日は学校は休み。
外は雨だった。
俺はベッドの上でぼーっとしながら天井を眺めていた。
さっきの夢を思いだし頭を横に振る。
こんなに暇だと、考えなくていい事を延々と考えてしまう。
城沢の病気は本当はなんなのか?
母さんはいつになったら元に戻ってくれるのだろうか?
どうして最近変な夢ばかり見るのか?
「くっそ!」
俺は部屋の壁を思い切り殴った。
俺は傘を差し外に出た。
何を思ったか俺の足は城沢の家に向かっていた。
そして、家の前に着くとインターホンを押した。
「あら、冬川君?どうしたの?」
「城沢さんの様子を見に来ました。」
俺は家に上がり城沢の部屋に向かった。
城沢は昨日より元気そうだった。
「冬川くんおはよう。」
「お、おう。」
「今日はどうしたの?」
「暇だから来た。」
強がって嘘を吐いた。
本当は無性に会いたくなったからだ。
「デートはまだ出来ないよ?」
「そんなの分かってる。」
そして俺は城沢と軽く世間話をし、帰宅した。
それから俺は毎日城沢の家に通い続けた。
学校の帰り、休みの日、バイト帰り…雨の日も、雪の日も通い続けた。
だが城沢の体調は一向に良くならなかった。
俺は城沢に何もしてやれない。
もどかしさが俺を包んだ。
そして冬も終わり春になる。
何の目標もないまま気付けば俺は三年生だった。
始業式が終わった後、俺は久し振りにあの丘に向かった。
そこにはあの時と同じ風景があった。
ベンチの上で独り言を呟く女の子。
「城沢?!」
「あ、冬川くん!」
「外に出ても大丈夫なのか?」
「お医者さんがもう良いって言ってくれたから多分大丈夫!」
「良かった…本当に良かった…」
気付けば俺は城沢を抱き締めていた。
「冬川くん痛いよ、離して…」
「よし、じゃあ約束守って貰おうかな。」
「え…約束?」
「デート一回だ!」




