丘の上で。
見慣れた丘の上の景色。
だけど、少しだけいつもと違う景色。
丘の上、中央に一つだけあるベンチ。
いつもは俺がそこに座りぼーっと回りを眺めてるのだが、今日はそこに先客がいた。
見た所、うちの高校の女子生徒か。
彼女は先ほどからぶつぶつと独り言を言っている。
なんか面倒くさそうだから出来れば関わり会いになりたくなかった。
幸い、彼女はこちらに気付いていない様だ。
俺は彼女から距離を取るために端の方まで行き、転落防止用の低い柵の上に座った。
やはりここから眺める景色は良い。
汚い世界を少しだけ綺麗に見せてくれる。
俺はタバコを手に取りライターを取り出し火をつけようとした。
だが、そうは行かなかった。
誰かが俺の手を押さえた。
まあ、「誰かが」といってもここにいるのは俺ともう一人しかいないんだが。
そう。さっきまでベンチに座りぶつぶつと独り言を言っていた彼女だ。
俺はライターをしまった。
そしてそのまま無言でその場から立ち去ろうとした。
「この場所が好きなんです。だから、だから…」
彼女の方から声が聞こえた。
俺は彼女に向き直り「ああ、悪かった。」と言ってベンチに座る。
「俺も好きなんだよ、ここ。」
そう言って俺はベンチに寝そべった。
「あのー…」
「なんか用?」
「暇だったらおしゃべりしませんか?」
「あー別に良いけど、そんな所に立ってられると困る。見えるぞ。」
俺は今ベンチの上で寝ている状態な訳で、彼女が立っているのは俺の顔の近くな訳で、彼女は制服だからスカートな訳で…
「あっ!」と言って彼女は両手でスカートを押さえた。
「ちょっと勿体なかったかな、一回見てから言うんだった。」
俺が意地悪そうにそう言うと彼女は顔を赤らめていた。
「あの…もしかして…『ヘンタイ』ですか?」
なんというストレート…つーかそんな真剣な顔で聞くな。
「私『ヘンタイ』に会ったのは初めてです。もしかしたら、あんな事やこんな事されちゃうんでしょうか?」
「本人に聞いてどうするんだ…俺があんな事やこんな事するって言ったらどうすんだよ?」
「お断りします。」
ですよね…。
「あっ、そう言えばまだ名前言ってませんでした。私、【城沢 夢】って言います。よろしくお願いします。」
「俺は【冬川 白斗】。よろしく。」
俺達はその後、辺りが暗くなるまで話しをしていた。
まあ専ら世間話だったけど。
それにしても、久し振りに人と接した気がする。
長時間人と話しをするなんて実に数年振り位だ。
あいつと話していたら嫌な事も忘れてしまっていた。
だが、家に帰ると現実に引き戻された。
母親がナイフを自分の手首に当て、切ろうとしていた。
「何しようとしてんだあんた?!」
俺は母親に駆け寄り、持っていたナイフを取り上げた。
「白斗、それで私を殺して欲しい。」
俺の心は訳の分からない感情で一杯になった。
俺はナイフを投げ捨て「ふざけんなよ」と言って二階の自分の部屋に逃げ込むように入った。




