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第38話 八の月 三橙の日(2)




「光呪には二種類あるのよ。光を集める採光と、光を与える送光ね。カリンは操光師(カンティザ)を知ってる?」

「……天使の護衛、ですよね」

 噂には聞いていた。ものすごく難しい試験を通らないと入学できない専門の学校があって、しかも年間数人しか資格が取れないとかいうやつだ。

「うん、それも役目だけど、彼らは本当は天使の弟子みたいなものなの。天使は数が少ないから、天使だけで集まってくる人たちを治療するのにも限度があるわ。だから、もっと出来る人を増やそうとしてるの。素質のある人を捜し出して、光呪を教えているわけね。送光なら操光師にもできるのよ。……修行をすればね」

「へえ……」

 それはすごいことだが、ある意味、天使の特殊性を薄める話だ。天使でなくても光呪を使えるとは。だからこそ、操光師の本来の役割について、教団側は国民に知らせようとしないのだろう。

「でも採光は天使にしかできないから、操光師は、天使が光を集めた冷命石を持っていないと、力が使えないというわけ」

「はあ、なるほど」

 そう言ってから、私はあることに気づいて笑った。

「なに?」

「今日はアディナ様の方が先生みたいですね」

「まあ、ほんとね」

 アディナは嬉しそうに目を輝かせて、それから、似合わない咳払いをした。

「そういうわけで、才能があるってわかった操光師は、そこから三年くらい勉強してやっと送光が扱えるようになるの。でもあたしの……、あたしの操光師のシュテフは、一年でできるようになったのよ。すごいでしょう」

 自分のことでもないのに妙に得意げだ。

「あなたはまだ力が使えないのに、どうやって教えるんですか?」

「あたしが教えたんじゃないわ。すぐできるようになったから習う必要が無くなって、あたしのところに回されたの」

 つまり、そいつは弟子ではなく、純粋に護衛としてアディナについているわけか。

「その人はどうして、あなたの操光師なのにここに来ていないんです?」

「それは……、その。シュテフが残りたいって。治療の必要な人がいて、それで。あたしはひとりでも大丈夫だから。ほら、ユーリエがいるしね」

 そのユーリエはいつも部屋にこもっていて、ほとんど姿を見せないじゃないか。

 ひとりでも大丈夫だなんて、嘘だ。こんなに寂しそうにしているくせに。

「早く会えるといいですね」

 ああ、そうだ。レオが来た時、確か言ってたな。シュテフは、レシリア様についているとかなんとか――

「うん。あのね、シュテフはね、すごくかっこいいのよ! カリンも見たらびっくりすると思うわ。澄んだ空のような瞳で、髪は明るい赤なの。背が高くて、でも私といるときは膝をついてよく目を合わせてくれるの。そしてね、口数は少ないんだけど、低く響く声で、ささやくとそれは歌のように綺麗なんだから!」

 アディナは目をきらきらさせながらその男について語った。

 なんだか嫌な気分だった。別にそんなこと詳しく教えてもらわなくたっていいんだが。興味もないし。

 そうだ、話がそれてる。元に戻そう。今は情報を引き出すんだ。

「ともかく、その。なんでしたっけ。採光と送光の二種類が光呪で、でも送光は天使ではなくてもできる、と」

「そう。カリンもやってみたい?」

「三年も修行するのはさすがに……。で、まとめると、天使の力というのは、その生きるための力、光を、取り上げたり与えたりできるということなんですね」

 それでは、救済の天使の持つ光呪の力というのは結局――いや、今言っても仕方のないことだ。黙っていよう。

「うん。死んだ者は生き返らないし、天使にも治せない病はあるけれど」

「では、しおれた花を咲かせることは?」

「そのくらいなら簡単よ」

「ハーブ園にその力を使えないのですか?」

 アディナは意外そうにまばたきをした。

「それは、できると思うけど……あたしにはまだ無理だわ。採光だって思うようにいかないのに」

「そうですか」

「……でも、いい考えかも。ハーブが元に戻ったら、お祭りができるかしら?」

「悪魔がいるという噂がなくなれば、可能かもしれませんね」

「じゃあ……、やってみる価値はあるわね」

 アディナは私の手を引いて、階段を下り、庭に出た。納屋の側のバラの茂みは、ティーロの努力もむなしく、くすんだ色でしょげていた。

「これで練習するわ。春はまだ無理だったけど、もう九歳になったんだし、そろそろできてもいいと思うの」

 この茂みの生命を奪ったのも、アディナの無意識の力なんだろうか。

「私、天使は生まれつき奇跡を操れるものだと思っていました」

 アディナは茂みに右手をかざし、左手でペンダントの石を握った。

「人それぞれだけど練習がいるの。乗馬みたいなものね」

 奇跡の業と交通手段を同列に語るのはどうかと思ったが、妙に納得してしまった。

「あたしの場合、集中力が足りないらしいわ」

「……そうでしょうね」

 これには大いに納得した。




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