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洗濯メイドは掃除する  作者: さいべり屋


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7/8

取り込む ⋰o。⋱ 閃光


積み荷となっていた人々を開放し、生き残った船員を確保したころには、既に夜半を過ぎていた。


身体は泥のように疲れている。


しかしリーンハルトは指揮官に後始末を託し、自分は馬に飛び乗った。


「私は王都に戻る! 動けるものはついて来てくれ」


半裸の男たちが馬に飛び乗り、追従の意を示す。


ドリーもなんとか馬によじ登り、疲れた身体と馬の後躯に鞭を打った。



休むまもなく疾走し、関所の姿が見えてきたころ、前方から近付いてくる人影があった。


浮浪者のような風体に似合わぬ美しいフォームでこちらに向かって駆けてくる。


「殿下ぁ! どこに行ってたんですかぁ!」


浮浪者が大きく手を振ってくる。


──ラジーだ。

 

断りもなくリーンハルトの背に相乗りすると、ぷんと酒精のにおいがした。


「ヴォルフからの合図を受けて王城に行ったら、もぬけの殻じゃないですか。あいつがひとりで突っ込んじまう前に、迎えに来たんですよ」


喚く口元は幾本か歯が欠けているように見える。


「合図があってから、どれくらいだ」


港までの往復で、大分時間を食ってしまった。夜はもう白み始めている。


「頼むから、いい子にしててくれ……!」


祈るように呟くと、リーンハルトと小隊は本日2度目の突入に向かって東雲の下を駆けた。



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リーンハルトの背でラジーが垢じみた皮膚を剥がすと、中から浅黒い肌の青年が顔を出した。


「……それ、魔法なの?」


ラジーの素顔を初めて見たドリーは、作り物の皮を剥ぐ様子の気持ち悪さに眉をしかめた。


「いーや、日頃の鍛錬の賜物だね。ピンク髪の連中と違って、誰もが魔法を使えるわけじゃないっての」


次いで、もごもごと何かを吐き出すと、欠けているように見えた箇所に輝く白い歯が現れた。


「悪趣味の賜物の間違いだろう。ヴォルフは何か掴んだか」


リーンハルトはラジーが紙束をペラペラと振る音を背中で聞いた。


「帳簿の抜粋と、未記入のピ課税等級通知の束を預かってます」


「なら、証拠は充分だな。思う存分に暴れてやろう」



------------------------------------------




ヴォルフがいるはずのクラブに着くと、リーンハルトは騎馬のまま豪奢な扉を蹴破った。


馬は前脚を高く掲げ、天を突くように立ち上がってから振り下ろす。全体重を乗せた鉄蹄が、落雷のごとき勢いで扉の正中を捉えた。


「ゴンッ!」という硬い衝撃音が響いた。闖入者など想定していない洒落た作りの戸板はひとたまりもなく、バリバリと乾いた音を立てて裂けていった。


玄関には、蹴り砕かれた木片が雪のように降り注いでいる。しかし、これだけの音を立てて突入したのに、迎え撃つものはいない。もうもうと立ち込める埃の向こう側には、殺気はおろか、呼吸の音ひとつ存在しなかった。


リーンハルトは馬を降り、興奮してカチカチと蹄を鳴らす愛馬の首を擦って労った。


なぜ誰もいない。既に移動した後なのか。


不安を覚えて辺りを見渡すと、大穴が開いて月光が差し込む廊下の隅で、小さな何かがちかりと光った。


「カフスの飾り石です。……ヴォルフのだ。続いてます」


点々と散らされた印を辿ると、クラブの厨房に続いていた。その隅にある地下貯蔵庫の入り口から、小さな明かりが漏れている。


金属音の出る鎧兵を下がらせ、貯蔵庫の蓋にそっと耳を近づける。


『ヴォルフの声と……民間人の声もする。殺傷力のある武器は使えない。なにか、目眩ましに使えるものはないか』


民間人を人質に取られると面倒だ。鳴り物入りで突撃したリーンハルトだが、ここにきて今更声を潜めた。


『閃光弾ならありますが……』


差し出された閃光弾は、制圧用の物ではなく、狼煙代わりに部隊で使っている魔道具だ。火薬を使わないため爆音は出ないが、目眩ましには充分だ。


『よし、魔石を有りったけ並列に繋げ。最大火力だ。──踏み込むぞ』



  ──「うちの王子様たちはそこまで悪趣味じゃないと思いたいがね」



貯蔵庫の蓋の下では、ヴォルフの声。こちらの存在に気付いたのか、挑発するような物言いで敵の気を逸らしている。


「──そこまでだ!」


閃光弾を放り込み、3秒待ってから貯蔵庫の中に飛び降りた。


広くはない貯蔵庫の壁は、格子作りの檻でみっしり埋まり、動ける敵は数人。


あとは目を押さえてのた打ち回る輩を刈り取るだけの作業だ。


「遅いですよ、リーンハルト殿下」


ピンク髪の女性を抱いて文句を言うヴォルフに片手を上げて、リーンハルトはひっくり返って悲鳴を上げている老人に近づいた。


「やあ! ヴィルヘルム・ド・グラナート伯爵ではないか。こんなところでお会いするとは奇遇だな」


白々しく朗らかな声をかけながら、その胸ぐらを引っ掴んで顔を近づけた。


「私は今、とある人身売買組織を追っているところなのだが……良ければ、少し話を聞いてもいいか? 幸いにも、ここには証人がたくさん居るようだ」



最後まで読んでいただいてありがとうございました!

明日のエピローグで完結です。

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