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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第四章【解毒】

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「どうやら、やっぱり一部だけだったらしいね」


僕は剣を構えるが、先ほどと同じ作戦で切り開こうとした瞬間、蔦の根が地面を割って広がり、巨大な一本の大木が姿を現した。目のような瘤と、幹から伸びた蔦が無数にうねっている。これが蔦の本体――大元だ。

森の霧が切れた先に、それは待ち構えていた。

朽ちかけた巨木のような見た目だが、それは紛れもなくこの森の核に見えた。幹の中央部には脈動する瘤のような瘴気の塊、そこから数十本もの蔦が生え、空気を切るようにしなりながら僕たちを狙ってくる。


「こいつが……本体、か」


僕が剣を構えると、すぐにシャルルローゼスが僕の後ろに立った。彼女の表情は緊張しているが、瞳に迷いはない。すでに杖を構え、詠唱に入る準備をしていた。


「シオンさん。あの瘤、私の光で狙ってみます」

「頼んだよ、シャルルローゼス」

「待って、二人とも」


すっと前に出たのはセインだった。腰のホルスターから弾を補充し、細かく照準を調整している。まっすぐにあの瘤へと銃口を向けていた。


「シャルちゃんの光で瘤の膜を弱らせて、私の銃で穴を開ける。それで、シオン君の一撃で決めるのはどうかな」

「そんなにうまくいくか?」

「うまくいくよ、三人ならね」


そう言いながら、セインの視線は揺るがなかった。

シャルルローゼスが頷き、前に出る。


「光よ、理を紡げ。聖き矢となりて――《ルミナス・コード》!」


まばゆい光が空を裂き、大木の瘤に突き刺さる。腐ったように鈍い音を立てて瘤が震えたその瞬間――


「次は私の番だね」


セインの銃が火を噴いた。彼女の射撃は正確無比だった。シャルルの魔法で軟化した瘤の一点を穿ち、火薬の熱と弾丸の貫通でその中心に穴を開ける。


「シオン君、いける?」

「――もちろん!」


僕は踏み出し、数本の蔦を斬り払いながら一直線に瘤へ向かう。銃弾が通ったその傷口を見逃すはずがない。そこに、全力で刃を叩き込んだ。


「はああああっ!」


剣が深く食い込み、幹の内側から瘴気が噴き出す。大木が仰け反るように動きを止め、蔦の全体が一瞬だけピクリと硬直した。

セインが素早く再装填を終えると、もう一発、別の蔦の付け根を撃ち抜いた。


「これでトドメっ!」

「シャルちゃん、後よろしく」

「かしこまりました!」


シャルルが杖を掲げ、最後の光の魔法を放つ。今度は瘤ではなく、全体に絡む蔦を包むように聖光が走り、魔力を断つようにそれらを焼いた。

そして、僕が剣を振るう。力任せの斬撃ではない、正確な一点への突き――巨大な瘤に、僕の剣が深く突き刺さった。

それと同時に、シャルルローゼスの光の魔法が命中した瘤の縁に走っていたひびが、さらに大きく裂ける。追撃の一撃として放たれたセインの銃弾が、割れ目のど真ん中を貫いた。音もなく、紫の霧があふれ出す。


「・・・止まった」


思わず呟いたその言葉が、森に吸い込まれるように消えた。大木はぐらりと傾ぎ、そのまま地響きを立てて地面に倒れ込んだ。無数の蔦がぶら下がるように垂れ、動きを止める。

セインが銃を下げ僕と目を合わせる。


「いい連携だったね、シオン君」

「そうだな。でも油断するな。まだ何か残ってるかも――」


その言葉が終わるより早く、地面が脈動した。


「え?」


次の瞬間、地面を這うように拡がっていた細い蔦の束が、不意に跳ね上がった。


「シオンさん、避けて!」


シャルルローゼスの声が響くと同時に、足元から伸びてきた蔦が僕の脚を絡め取り、あっという間に身体ごと引きずられた。背後でセインの悲鳴が聞こえた。彼女もまた、同様に捕らえられている。


「くっ……」


体をねじって剣を振るおうにも、拘束されたままでは身動きが取れない。紫の霧を吐き出しながら、大木の根から伸びた太い蔦が、まるで僕たちを飲み込もうとしているように迫ってくる中で光が走った。

シャルルローゼスの杖が輝き、彼女が口元に強く力を込めた。


「《ルミナス・ヴァリアント》!」


彼女の魔法が、蔦の束に直撃した。聖光の波が周囲を包み、絡みついていた蔦を瞬時に焼き切る。僕とセインの身体が、解き放たれるように地面へ転がった。


「助かった!」

「シャルちゃん、ナイス!」


セインが立ち上がりながら声を上げたが、その笑顔は一瞬で凍りついた。突如として飛び上がった別の蔦が、彼女の腰に巻きつき、そのまま背後の倒木の影へと引きずり込もうとしていた。


「セイン――ッ!」


僕はすぐに駆け出し、剣を抜いて斬りかかった。蔦の根元を断ち切ると、セインの身体が地面に落ちる。彼女を抱き起こすと、顔をしかめながら息を吐いた。


「・・・さっきのお返しかな。やっぱり異質に適合しているだけあって頑丈だね」

「銃なんだから、ちゃんと距離を取ってくれよ」

「言われなくてもそうするよ。でもこのままじゃ終われないでしょ」


大木は確かに倒れていた。しかしその根は、森全体に蔓延していた。紫の霧が再び立ち込め、蔦が這い寄ってくる。瘤のあった幹の中心部が、ゆっくりと再び膨張を始めている。


「完全に、仕留めきれなかったか」

「いや、まだ核が残ってるだけだと思う。さっき割ったのは表層じゃないかな。奥にもう一つ……本当の心臓があるみたい」


セインの言葉に、僕は頷いた。


「だったら、もう一回やるだけだ」


僕が剣を構えると、セインも銃を持ち直した。


「合わせるから、ちゃんと私を信じて斬りに行ってね」

「もちろんだ。今度は、二人で終わらせよう」


シャルルローゼスが再び魔法陣を展開し、二人を援護するように聖光の帯を走らせる。その間隙を縫って、僕とセインは同時に動いた。

蔦が牙のように振り下ろされる。僕が前に出て斬り払うと、その刃の軌道に合わせてセインが銃を撃つ。銃声が連続して鳴り響き、その弾道が瘤の奥へと続く道を作っていく。


「ここだ!」


僕が最後の一歩を踏み込み、瘤の中心部に突き立てる。剣の刃が、腐った木の奥に隠された、赤黒く脈動する核に達したその瞬間――


「焼き尽くして、炎の信義──《ルクス・フレア》!」


セインが叫び、火をまとった弾丸を撃ち込む。

火と剣が一点に重なり、森の主はようやく絶叫した。紫の霧が一気に噴き出し、あたりを包み込む。だが今度のそれは消滅の予兆だった。蔦が崩れ落ち、幹が割れて沈んでいく。


「・・・終わった?」


僕はしばらくその場に立ち尽くし、剣をゆっくりと引き抜いた。

霧は晴れ、倒れた大木はもう動かなかった。森の奥で響いていた不気味な唸り声も、いつの間にか消えている。


「ふぅ。当たりやすいけど、大きいのも困りものだね」


セインが銃を納め、隣で肩をすくめる。


「シオンさん、セインさん、ご無事で何よりです」


後方から追いついたシャルルローゼスが、ほっとした表情でそう言った。

僕は相棒を鞘に戻しながら、二人に微笑みかける。


「ありがとう。二人のおかげで助かった」

「次からはもっと早く魔法を放てるようにしますわ」

「……それはそれで、またしつこく絡んできそうだし。派手に倒したの、正解だったんじゃない?」


そんな風に冗談めかしたセインの言葉に、僕も、シャルルも、自然と笑っていた。

倒れた大木の下、微かに吹く風が、ようやく毒気を含まず頬を撫でる。

僕たちはまだ森の中にいた。だが、少なくとも一つ――確かな“敵”を倒したという実感が、今は胸にあった。


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