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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第四章【解毒】

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「シャル、それはどうして?」

「後で話をする予定だったのですが、仕方ありません。ミカロさん、あなたはもう間違いなく回復魔法が使えるはずです」


シャルルローゼスの一言に、僕もエイビスもミカロも一斉に動きを止めた。まるで空気が凍ったような静けさが部屋を包み、誰も言葉を返せず、ただ彼女の言葉の真意を探るように見つめるしかなかった。


「・・・なにそれ、どういうこと?」

「それについては、順を追って説明します。では、まずは講義の準備をいたしましょう」


 そう言いながら、シャルルローゼスがどこからともなくホワイトボードを持ってきた。しかも、なぜか眼鏡に指示棒まで完備されている。ちょっと待って、ここビーチリゾートの宿だよね?


「その眼鏡、どこに隠してたの……?」


 ミカロが呆れたように突っ込んでも、シャルルローゼスは誇らしげに微笑んだ。


「雰囲気です。講義とは、形式が肝心ですから」


 そう言って、彼女はボードの前に立ち、カツンと指示棒を掲げた。やはり一人だけ長袖なのは目立つ。絶対に熱いはずだが、彼女は目にも出さない。


「まずは、皆さまの理解度を確認いたします」


 シャルルローゼスの問いに、ミカロは片手を挙げて自信ありげに答える。


「ワタシは回復魔法を除いて使えてるから、大まかにはね」


 続いて僕に視線が向けられたので、正直に白旗を上げる。


「ごめん、魔法の構造とか、まったく分からない」


 その後、視線はエイビスに向いたのだが――


「・・・」


 エイビスは珍しく、何も答えなかった。ただ静かに目を伏せている。

 その様子に、シャルルローゼスはぱちくりと瞬きをしてから、ぽつりと漏らした。


「御姉様は、私よりも成績が高いほど、優秀でしたから、口にするまでもありませんね」


 まさかの展開に目を丸くしていると、エイビスがちらりと僕を見た。そして、何も言わずにそっと視線を逸らす。

 ああ、やっぱりまだ、怒ってるな。ちょっとだけ拗ねてるのかもしれない。

 だから、僕はそれを受け止めて、あえて甘えたように声をかけた。


「エイビス。困ったことに僕、全然わからないんだ。エイビスに教えてもらえたら、すごく嬉しいんだけどなー。きっと、誰よりも分かりやすく話してくれるんだろうなぁ」


 その一言に、エイビスはほんの少しだけ頬を膨らませて視線を戻してきた。でも、その目には迷いが浮かんでいた。


「わたくし、まだシオン様を完全に許しておりませんのよ」

「うん、それは重々わかってる。でも、教えてもらえたら嬉しいって、純粋にそう思ってるんだ」


 そこに、シャルルローゼスがエイビスにそっと耳打ちをした。何を話しているかまでは風の音で聞こえてこなかったが、エイビスの目が一瞬だけ泳ぎ、それからゆっくりと肩を落とした。


「仕方ありませんわね……少しだけですからね」


 そう言いながら、眼鏡と指示棒をシャルルローゼスから奪い取って、その場に立つ。

 あのコスプレはドルフェリアの流儀なのかもしれない。


「では、魔法について簡単にご説明いたします」


 エイビスは真剣な眼差しで僕たちを見渡してから、説明を始めた。


「まず、魔法には五つの階位が存在します。それぞれ、初歩から順に初級、中級、上級、秘級、神秘級と呼ばれております」


 シャルルローゼスがそっと補足する。


「ちなみに、回復魔法は通常初級、つまり第一階位に分類されますわ」

「ミカロが使えないって言ってた魔法だね」


 ミカロは肩をすくめた。


「シオンを治せたの、誰のおかげだっけ?」

「ごめん、ほら、その時は色々あって」


 エイビスは続ける。


「魔法を習得する際には、詠唱を終えた後に魔法陣が現れます。その魔法陣の色や構造を見ることで、自分が呼び出そうとしている魔法が正しいかどうかを確認できるのです」

「へえ、初耳」

「ただし、魔法使い同士の戦いでは、魔法陣が見えてしまうと発動する魔法の内容を読まれてしまうことがあります。そのため、上級の魔法使いは、自身の魔法を隠す技術も学ぶ必要がありますわ」

「ま、魔法使いにとっては自分の弱点が見えちゃうから、基本誰も話してはくれないんだけどね」


 ミカロが腕を組みながら言うと、シャルルローゼスが笑顔でうなずいた。


「では、ミカロさん。シオンさんを対象にして、魔法陣を出して回復魔法を発動する構えを見せてください」

「構えだけなら、いいよ」


 ミカロは僕の前に立ち、両手を掲げて詠唱を始める。それに合わせて、シャルルローゼスも隣で同じ構えを取る。

 数秒後、二人の足元に魔法陣が展開された。

 シャルルローゼスの魔法陣は鮮やかな緑色。そして――

 ミカロの魔法陣は、純粋で純潔を表すような白色を見せた。


「えっ……?」


 僕は思わず声を漏らす。エイビスも、眉を大きく動かし、驚きを隠せない様子だ。


「ミカロ、色が違いますわよ」

「ワタシは回復魔法を使おうとしただけだけど。これ、違うの?」


 ミカロ自身が戸惑ったように魔法陣を見下ろしている。

 シャルルローゼスが前に出て、真剣な面持ちで魔法陣を覗き込む。


「私の考えが正しければ……これは古い文献に記されていた、復元魔法の系譜に属するものかと思われます」

「復元……?」

「通常の回復魔法は、外傷を塞ぐことはできますが、失った血液や生命力までは戻せません。ですが、ミカロさんがシオンさんを回復させた時、明らかに出血が止まる以上の回復が起きておりました。つまり、血液が体内に戻った可能性があるのです」

「それって、どういう……?」


 ミカロは戸惑いながら、手元の飲み物を口に運ぶ。そして少し間を置いてから、ぽつりとつぶやいた。


「じゃあ、ワタシ……別にチーム離れなくてもいいってこと?」


 シャルルローゼスはにっこりと笑いながら、うなずいた。


「ええ、恐らく詠唱が異なるのだと思います。ですから、そこを訂正すれば初級の回復魔法ならすぐに使うことができるはずです」


 僕も自然と頷いていた。そうだ、ミカロの実力は、間違いなく初級を越えている、復元魔法も使いこなすことができれば、これ以上いない実力者どころか逸材になること間違いないだろう。


「シャル、ありがと!」


 ミカロはしっとりとした果実の甘さを味わったときのような表情で勢いよくシャルルローゼスに抱きついた。とはいえ、その動きはあまりに唐突で、シャルルローゼスは片眉をピクリと動かす。


「わ、ワタシ、もう……なんか、すっごい報われた気がする」

「ですから後でと言われたときに、なるべく早く来てもらうように話しましたのに。私もひょっとするとミカロが勝手にどこかへ行ってしまうのではないかと慌てずにはいられなかったんですからね」


 言葉では不満げにしていたけれど、シャルルローゼスの目元には、優しさがにじんでいた。ミカロの嬉しそうな顔を見て、口では文句を言いつつも、心から喜んでいるのが伝わる。


「ですが、明日からは厳しく指導させていただきます。中途半端なお気持ちなら、すぐにチームから離脱していただきますから」

「う、うん……覚悟する」

「そんなに緊張しないでください。冗談ですから」


 そんなやりとりを眺めながら、ふと後方で何やらもぞもぞと動く気配がした。振り返ると、目を黒く塗った後がほのかに残っているオラクリエが、頭を押さえながら僕たちの部屋へと来ていた。


「・・・頭いてえ。なあ、今って何時だ? ていうか、何の話してたんだ?」

「ミカロさんの回復魔法が、特別な系統であるという話です」

「そうか、それならいいや。で、今日の予定だけど……俺とシオン、男二人でリゾート地をナンパでもしながら回ろうかと思ってたんだが」


 その発言に、エイビスが電波を受信したように背筋を伸ばし、次の瞬間には僕の腕を取って、きゅっと自分の隣に引き寄せた。


「シオン様とは、本日ご一緒するお約束がございますの。ですから、そちらの予定はお断りさせていただきます」


 まるで勝ち誇るように語るエイビスに、オラクリエは肩をすくめながら「おっと失礼」と軽く頭を下げた。


「なら俺は寝不足解消ってことにするかな。もう少し夢の中に戻りてぇし」


 その場が少し和んだのを見計らって、僕はオラクリエに向き直った。


「オラクリエ。少しだけ、真面目な話をしてもいいかな?」

「おう、構わねぇけど?」


 僕は彼に一歩近づいた。


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