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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第三章【決意】

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「その口、二度と開けなくしてやる!」


剣が唸りを上げる。今度は怒りのままではない。冷静さと激情、その両方を抱いた一撃。

レオグランの斧が振り上げられ、僕の剣と正面からぶつかる。

火花が散る。

体勢を崩しながらも、僕は身を沈めてその足元へ滑り込み、


「赫閃斬!」


火と水、ふたつの力を込めた斬撃が、膝裏を切り裂いた。


「があああああああっ!!」


獣のような叫びとともに、レオグランの身体が崩れる。

だが、倒れはしなかった。巨体を支えたまま、よろめきながらも立ち上がる。


「しぶとい……っ!」


僕は深く呼吸を整えようとした。けれど、肺が焼けるように痛み、身体の芯が震えていた。

一歩、二歩、あとがない。

ここで、止めを刺さなければ――。


「俺にここまで傷をつけた奴は久しぶりだ……褒めてやるよ」


レオグランの身体が再び赤黒く光を帯び始める。まるで、肉体の限界を無理やり超えようとするかのように。


「だが、お前も限界が近いんだろ。 息をする顔が歪んでるぞ」

「どうかな」


僕は全身に血を巡らせるように空気を喰らい、相棒を構えた。腕は電気が通ったように勝手に動くし左の景色は背景がほとんどイチゴ畑だ。だが、レオグランの動きも僕と同じくらいのろく、隙も多く見える。


「お、女をただの玩具としてしか見ていないヤツと同じ空気を吸っていると知ればっ、誰だってこんな顔をするさ」

「減らず口がっ!」


 彼は獣のように低く唸り、地を蹴った。動きの鈍さを補うような直線の高速突進。皮膚の硬化と腕力を活かした、一撃必殺の構えだった。


「終わらせてやるよ、小僧ッ!」


 肩口から斧が唸りを上げて振り下ろされる。その瞬間、僕の視界はわずかにぐらついた。けれど、直前の衝撃を予測していた僕は、剣を上に掲げ、辛うじてそれを弾いた。


「ぐっ……!」


 肩に衝撃が走る。反動で足が滑った。

 次の一手。レオグランは勢いを乗せ、間髪入れずに第二撃を振るってきた。


「止まれないってのは、わかってるよなァ!」


 その怒声の中で、僕は逆に確信した。あと一撃。あいつにあと一撃を喰らわせることができれば、それで倒せる。だが、僕も次の一撃が耐えられるかどうか。いや、確実に最後の一撃をもらう。

 息を吐き、身体を傾けてかわす。

 斧が空を裂き、剣がそれに応える。がちん、という鈍い音と共に火花が散った。

 高速で連撃が緩みない力で飛んでくる。雑に攻撃が当たればいい、そんな考えを壊すように、僕と相棒の離れた位置を的確に狙ってくる。これ以上退くのは危険だ。

腕の痺れなんて知ったことか。斧を弾き目の前の獣に同じ速度に合わせて相棒を斬り放つ。辛い眠いと唸っていた腕もいつの間にか痛みを忘れている。楽しい。目の前の火花を見るたび、僕はいつの間にか楽しんでいた。

ヤツの顔も心なしか邪な笑いが消えているようにも見える。

いいだろう。僕の腕とお前の腕、どっちが上なのか試してやる。


「……っ」


 僕の剣に、嫌な感触が伝わった。

 見ると、刃が数センチほど、激しく欠けていた。連撃に耐えきれず、金属が疲労を起こしていた。


「終わりだァ!!」


 レオグランが勝ちを確信したように踏み込み、直線の一撃を振るう。

 だが、その瞬間。

 僕の心に、不思議な静けさが訪れていた。

まだ、動ける。

 僕は身体を沈め、肩を抜くようにして斧の軌道を外すと、反対の足を踏み込みに使い、剣を構え直す。


「氷雨連斬!」


 刃の先に宿した冷気が走り、数十の斬撃が連なってレオグランに襲いかかる。氷の刃が皮膚を削ぎ、硬化した筋肉に冷たい痛みを刻んだ。


「が、あ、ああああッ!!」


 雄叫びと共に、彼の身体が吹き飛ばされる。市場の外れにある石柱を砕いて壁に叩きつけられ、レオグランはその場に倒れ込んだ。

 再び立ち上がることはなかった。

 

 僕は、勝った。

 けれど――


「……っ!」


 左膝が折れる。剣を杖代わりに支えたが、右腕の感覚ももう残っていなかった。相棒に触れているのか、いないのかすら分からない。肩口から肘まで、血で濡れた衣服が重たく張り付いていた。

 意識が飛びそうになるのを振り払うように、僕は身体を揺らしながら歩いた。終わったわけじゃない。まだ、船が……

 人の気配を避けながら、僕は石畳をたどって港を目指す。歩くたびに脈打つ痛みに歯を食いしばる。頭が霞むたびに、ミカロのあの顔が浮かんだ。

泣いて、怒って、それでも自分の意思でここに残った。だから僕も彼女に、続くんだ。

 見えた。港の端に、ひときわ目立つ帆を掲げた船。オラクリエが確保していた脱出艇――僕らの希望だった。

 最後の力を振り絞って走る。

 足を踏み出すたびに視界が跳ねた。

 ギリギリの距離で、僕は飛び込むようにして甲板へと倒れ込んだ。

 

 「シオン様っ!」


 すぐに駆け寄ってきたのはエイビスだった。

 彼女はすぐさま僕の右腕に布を巻き、止血の処置を始める。


「これ以上、無理はなさらないでください。あなたのお体は……」

「大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」


 エイビスは苦笑し、僕の額を軽く押さえると、船尾にいたオラクリエへ叫んだ。


「船を出してください!」

「おうとも! じゃあ、みんな揃ったってことで……いざ、出発!」


 船の舵が音を立てて回され、港を離れていく。

 波の香りが強くなり、徐々に風が頬を撫でた。

 

 港の岸壁が遠ざかっていく。

 もう、レオグランの姿は見えなかった。

 僕は船縁に背を預けながら、空を仰いだ。

 ほんの少しだけ、潮風が心地よかった。

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