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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第三章【決意】

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レヴァンティスの背から降り立つと、焦げた空気と灰の匂いが鼻を刺した。

地上へと戻ってきたという安堵も束の間、騒がしくうごめく街の様子が嫌でも視界に飛び込んでくる。塔の都には、静かに混乱へと向かっていた。空中庭園の崩落による衝撃は街の広範囲に影響を及ぼし、人々の動揺は波紋のように広がっていた。


「あの爆発、エイビスがやったのかい?」


エイビスに目線を向けると、彼女は忍びこむように静かに近づき、目線を合わせてきた。


「いえ、あれは私が仕掛けたものではありませんわ」

「やっぱり……。となると、オラクリエか?」


壁に片肘をついていたオラクリエが、わざとらしく肩をすくめた。


「いやいや、俺じゃない。むしろそのスイッチを押したやつ、しっかりこの目で見届けたからな。けど、誰だったかはまだ言わないでおこうか。サプライズは、もう少し温めたほうが面白いだろ?」

「まったく君ってやつは」


ため息をつきかけて、僕はふと周囲を見回した。

ここに長居はできない。もうすぐレオグランの兵が追ってくるはずだ。


「ミカロ、オラクリエ。君たちは船を確保してくれ。シャルルローゼスとエイビスと僕は、別ルートから船着き場を目指す」

「何言ってんの、ワタシも戦うに決まってるでしょ。もうどこかで待機するのは飽き飽きしてんの」


こうなってしまったミカロはもう止まらない。

何を言っても気が付いたら僕たちと同じように戦ってしまうだろうな。


「わかった。そしたらエイビスはミカロの代わりにオラクリエと一緒に船を確保しておいてくれ」

「了解。俺は陽気に舵を握ってるよ」

「ええ、シオン様もお気をつけて。ミカロ、足を引っ張ったら許しませんよ」

「当然でしょ!」 


そのやり取りの背後で、ため息を吐きながらミカロが膝の見える位置でドレスの裾を引き裂いていた。本当に容赦ない。恐らくパフェ百杯分はあるだろうドレスが容赦なく布切れになっていく。


「ひとまずこれで。いや、まだココも引っかかりそうね」

「ミ、ミカロさん、なんてことを!」


シャルルローゼスが目を見開くが、ミカロはお構いなしにスカートのフリルを引きちぎって、足さばきを整えていた。


「動けない格好で突っ立ってるより、戦える格好の方が百倍マシでしょ? それともシャル、こういう露出が好きなわけ?」

「い、いえっ……っ! そのような意味では……!」


シャルルローゼスが顔を真っ赤にして俯く横で、ミカロは気にも留めずに動きを確かめていた。


「ふーん。あの鳥、契約獣なの?」

「はい。レヴァンティスさんは私と契約を結んだ方です」

「すご。あんなの使いこなせるなんて」

「ミカロさんも、いつか……きっと」


シャルルローゼスの視線はどこか優しく、切なげだった。

 

***

 

ブルームスパイアを抜け、市場を越えて船着き場まで向かっていく。広場に足を踏み入れた瞬間、重く鈍い地響きが響き渡る。


「来るぞ!」


僕が叫ぶと同時に、地面を揺らすような足音とともに奴が現れた。

ライオンのような硬質の皮膚をまとい、目には血走った怒りを宿して。


「レオグラン……!」

「見つけたぞ、裏切り者ども!」


彼の咆哮が市場全体に響き渡り、買い物客たちは動揺し、後退りし始めた。

僕はすぐに剣を抜き、ミカロの前に立った。


「させるか!」


レオグランの一撃を受け止めたと同時に、ミカロが風を纏った杖を振る。


「ツインビュール!」


風刃が二重に絡み、レオグランの左肩をなぞるように斬り裂く。しかし、獣のような皮膚に覆われた彼の体には、ほとんど効果がなかった。


「効かないっていうの」

「ならば私が!」


シャルルローゼスが唱えた魔法が解き放たれる。


「《サンクティア・ウィング》!」


レヴァンティスの翼が広がり、眩い光の斬撃がレオグランを包んだ。

爆風と共に砂煙が舞い上がるが、その中から立ち上がる姿があった。


「効かねえよ……誰が小娘どもになめられるかよォ!」


レオグランはシャルルローゼスへと眼を向け、大斧を握り直した。


「まずはおまえからだ!」

「シャル!」

「させるかっての!」


ミカロが風を捻り、鋭い斬撃を斜めに撃ち出す。

だが、次の瞬間、レオグランの斧が彼女に向けて大きく振りかぶられた。


「危ない!」


僕はミカロの傍へと走り、剣を振るう。


「赫閃斬!」


炎が走り、レオグランの肩を焼いた。


「シャル! ミカロを連れて逃げろ!」

「ですが、シオン様!」

「いいから行け! 今だけは命令だ!」


シャルルローゼスは苦しそうな顔をしながらも、レヴァンティスに合図を送る。

その脚に抱えられるようにして、ミカロが持ち上げられた。


「ちょ、何すんの!? 降ろしてっ!」

「シオン様が、そうおっしゃったのです。目で、語っておられました」

「くっそ……勝手に決めるなって、自分で言ったんじゃない!」


それでもミカロは抵抗しながらも、シャルの表情の真剣さに気付き、口を閉じた。

そして、僕は残された。

怒気を露わにして睨むレオグランと、正面から向き合う。


「女も守れず、仲間だけ逃がすとは、情けない野郎だな」

「それでも、お前にミカロのことを語る資格はない」

「なんだと?」

「胸がどうとか身体がどうとか……おまえは何一つ、彼女の本当の価値を見ていない」


怒りで身体が熱くなる。けれど、その熱を冷やすように、僕の剣が静かに震えた。

今は怒りに身を任せてはいけない。冷静に、的確に、敵を仕留める。


「ありがとう、相棒。《蒼波一閃》!」


青の水刃が地を裂き、レオグランの腹部を斬り裂く。


「グッ……貴様ッ!」

「どうした、図体だけでかくなって動きが鈍ってるぞ?」


挑発の言葉を放つと、レオグランは叫びながら突進してきた。


「貴様ァアアアアア!!」


レオグランの突進はまるで猛獣そのものだった。

その足取りは重く、腕の一振りは風を裂き、石畳を砕いた。周囲の市場の屋台やテントはその余波で崩れ、人々の悲鳴が遠ざかっていく。

けれど僕は、その巨体の動きを冷静に観察していた。

確かに、パワーはある。だが、大きくなりすぎた身体は、そのぶん隙も多い。


「そこだ!」


もう一度、刃に水をまとわせ、僕は身体をひねるようにして刃を走らせた。


「《蒼波一閃・連撃》!」


細く鋭い斬撃を、流れるように三手重ねる。脇腹、腰、そして太腿へ。斬撃がしぶきを弾き、レオグランの動きがわずかに鈍る。


「チマチマと……小賢しい!」


吠えたレオグランの拳が振るわれた。咄嗟に剣を縦に構えて受けるが、耐えきれない衝撃が両腕を通じて腹を打った。


「くっ……!」


体が後ろへ弾かれ、数歩よろめいた拍子に、膝に電撃のような痛みが走る。――そうだ、まだ回復しきっていない。エルジードとの戦いで、僕は既に限界に近かった。

喉の奥から鉄の味が広がる。目の端に、吐き出した赤い水が見えた。一つ、また一つと水は僕から零れていく。時間はあまり残っていないらしい。


「貴様、もう終わりか? せいぜい小娘どもを逃がすための捨て駒になったつもりか」


レオグランは笑った。人を喰うような、底意地の悪い笑みだった。


「どうせアイツも、あのあと俺のものになるんだ。泣こうが喚こうがな」

「――黙れ」

「俺の手で、あの反抗的な身体をしっかりと躾けてやる。あの腰も、胸も、声も、すべて俺の――」

「黙れって言ってんだよ!!」


怒鳴りながら、僕は残る力を込めて一気に距離を詰める。


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