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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第三章【決意】

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心に引っ付いたスライムを剥がす意味も込めてエイビスたちと合流し、ミカロが自分の意思でここにいると伝えると、エイビスは短く頷いた。


「承知いたしました。では、当初の作戦を結構いたしましょう」


 会場である空中庭園は、数日で作られたとは思えないほど美しく仕上がっていた。空に浮かぶ透明な床、その下に広がる都市の景観。ゲストたちが着席する中、僕たちは警備兵として周囲に立っていた。


「おいおい、あれ見ろよ。あいつってたしか、王都の影の参謀って呼ばれてたヤツじゃね?」

「こほん。オラクリエさん、声を抑えて下さい」


 オラクリエが小声で囁く。彼は次々とゲストの顔を見ては、名前と肩書きを挙げていった。政財界の大物、貴族の重鎮、学術機関の長――この式のために、どれだけの力が動いているのかを痛感させられる。

 やがて時刻となり、牧師が登壇する。


「これより、タミア家とレオグラン家の結婚式を執り行います」


 新郎であるレオグランが現れ、そしてミカロとその父が入場した。

 式の中盤、牧師の問いが始まる。


「新郎レオグラン・フォールスト。病めるときも、健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

「誓います」

「新婦、ミカロ・タミア。病めるときも、健やかなるときも、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」


 ミカロは沈黙した。数秒、いや十数秒、誰もが息を潜めるほどの時間が流れた。


「誓いません」


 その一言が、魔法のように式場の空気を凍りつかせた。

 ミカロは一歩前に出て、関係者たちへと向き直った。


「このような立派な場を用意してくださったレオグランファミリーの皆様、そして、遠方から足を運んでくださった関係者の皆様には、心より感謝を申し上げます。私のためにここまでしていただいたこと、その労力とご厚意は、決して忘れることはありません」


少しだけ口元を緩め、そして表情を引き締めてから、彼女は言葉を重ねる。


「けれど、私はこれ以上、家族の道具として生きていくことはできません。どれだけバカにされても、怒鳴られても、疎まれても――それでもワタシを守ろうとしてくれた人たちがいました。泣いた時に背を向けず、傷ついたときに自分のことのように心配してくれる、そんな人たちと、私は一緒にいたいのです」


そして、最後に父親を見上げる。


「お父様。何の役にも立たない、みっともない娘で、本当に申し訳ありません。でもワタシもう迷わない。ワタシはあなたの家系と縁を切らせてください。誰かの道具で終わるのはもうイヤなの」


ミカロの言葉が終わった瞬間、会場には一拍の静寂が走った。

その場にいた誰もが、言葉を飲み込んだように沈黙し、空気が凍る。


「おまえ……今、何を言った?」


 式壇のすぐ脇、父親が静かに、だが明らかに怒気を込めて口を開いた。威圧するような視線が、ミカロを真っ直ぐに貫く。


「タミアの名を背負っておいて、勝手な真似を――!」


オラクリエが僕にウインクをすると、彼は指で音を打ち出した。


「いくぜ、リ・コード!」


 彼の弾丸に答えるように、突如、式場の床、壁、天井――木の装飾のあちこちから、大量の根と蔓がうねりを上げて伸び始めた。

 その中心で、巨大な木の幹が砕け、そこから現れたのは十数体の樹木型魔獣。角を持ち、目を持ち、葉を纏いながらも明確な戦闘性を帯びた、モンスターの群れだった。


樹魔獣ウィズアーボル……パーティークラッシャーには最適なんだ」


 オラクリエが指を鳴らすと、魔獣たちは式場の柱や壇上に展開し、参列者たちを脅かし始めた。


「シオン様!」


 エイビスがこちらを見た。


「ミカロを、お願いします!」

「分かった!」


 僕は即座にミカロの腕を取り、走り出そうとする。


「ちょっ、いきなり――!」


 ミカロが声を上げたが、次の瞬間、背後から魔力の気配が殺気を孕んで襲いかかってきた。


「この俺を馬鹿にしたまま終わると思うな!」


 レオグランだった。彼は腰のバンドから黒金の大斧を呼び出し、怒りに任せてこちらに突撃してくる。


「させるか!」


 僕は振り返って剣で迎え撃ち、その一撃を力任せに受け止めた。大斧の重みは凄まじく、地を割るかのような威力だったが、僕は耐えた。


「アンタ、バカじゃないの! こんなとこで死ぬ気?」

「君を連れていくためなら、それでもいい!」

「ほんとお人好し!」

「それ、今は褒め言葉と受け取っていいんだよな!」


 そんな掛け合いを交わしているときだった。

 ――爆発。

 上空、式場の屋根に何かがぶつかり、そこから光と破砕音が響いた。

 空中庭園が、大きく揺れた。


「なっ……!」


 レオグランの足元が崩れ、彼の身体がぐらりと宙に浮く。


「このっ、まだ……!」


 彼はそのまま、庭園の破片と共に、下方へと落下していった。


「ミカロ、こっち!」

「ちょ、ちょっと、押さないで!」


 崩れかけた壁の支柱を足場にしながら、僕たちは飛び移り、滑空していく。

 その背後――


「待てよ、ゴラァァァ!!」


 凶暴な叫びが響いた。振り返れば、箒にまたがったエルジードが火花を散らしながら猛スピードで迫ってくる。

 眉には炎が漂っているが、口は笑っていてまるで新たな辛さを楽しんでいるようでごちゃごちゃだった。


「てめえらこのまま逃げる気か! おい、待てって言ってんだろうがッ!」


 だが、その彼女に後方の兵士たちが叫び返す。


「エルジード様! 式場が崩壊します! 参加者の救出が先です!」

「ちっ……チクショウ、マジで鬱陶しいタイミングで!」


 エルジードは振り返りながら怒鳴りつつ、箒を反転させて空中庭園へと引き返していった。


「アイツの攻撃、どう受けるつもりだったのよ」

「そこは相棒が何とかしてくれるさ。だけど、エイビスは会場を爆破までとは言ってなかったハズなんだけど」


 上から矢が放たれた。太陽と重なって容姿はよく見えない。だが、近づくにつれて矢は大岩のような大きさに変わり、翼を広げた。


「シオン様―! 彼に掴まってください」


彼は口を開くと、ようやく容姿に気づくことができた。蒼天を裂くような鋭い鳴き声とともに、光を受けて煌めく羽をなびかせ、優雅でありながらも威厳に満ちた姿で僕たちに足を伸ばしてきた。


恐らく彼も、シャルルローゼス契約獣だろう。


「ミカロさん、お待たせしました」

「すごいね、シャルルローゼス」


 彼女の声に導かれ、僕たちはレヴァンティスの足に捕まった。


「シオン、もっと押さえて。じゃないと落ちる」

「ああ、そうだね」


彼女の肩を僕と触れ合うくらいに近づけると、彼女は口を閉じた。僕は思わず心から湯気が出た。

そして、炎と混乱に包まれる空中庭園を背に、タミア家の中庭へと滑空していく。



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