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僕と、彼女と、ペンダント  作者: ミシェロ
第一章【遭遇】

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「ま、あの動物使いは動けないだろうから、後はあの汚い唇くらいでしょ」

「今の言葉で誰であるのか、何となく分かりましたが、彼女の相手はミカロが適任ですわ。頼みましたわよ」

「貸しにしといてあげるわ」


エイビスはミカロの提案を断るように手で髪をはらうと、重い鉄扉を小さく音を立ててゆっくりと開いた。

規則正しく等間隔で並んでいる天井の柱、埃のつもっていない複数のテープが張られているフローリングの床。

僕の右足は興奮のあまり、空を飛びあがった。

やはり唇が一番の強敵か。

細枝を勢いよく振ったような音がした。

右足に絡みついた黒い鎖。ピンチを知らせるように太ももがドラムを叩き出した。

壁が食いついてくるかのように距離を近づけてきた。頼んだぞ相棒。

流れに体を預け、右腕に食らいつくような力を込めて相棒を振り上げる。

氷を割ったような透き通る鉄の割れる音がした。

相変わらず唇は僕の目を見て三日月を見せる。


「あら残念、どうしてそんなに睨んでくるの?」

「君が僕たちの邪魔をしてくるからだよ。ここを通してくれると、非常に助かる。協力してくれないか」


唇との間に黒い蛇が姿を見せる。

僕は火花が弾けるような音を背中に走り出した。分かりきっていたが、協力はしてくれないらしい。

運動場の一階にはエイビスと誰かがいる。顔はよく見えないが、コートのような長いものを着ているし左腰がやけに反射している。

何処かの国の王子様なのかもしれないな。


「やっと来てくれたのかいエイビス。待ちくたびれたよ」

「ルミアール、あなたと話すことは何もありません。今すぐ剣をしまって私たちに道を開けてくださいませんか」

「それはできない相談だね。敵国の兵士を見逃すほど、僕は君のようにお人好しじゃないんだ」


ミカロの姿が近くに見当たらない。まだ敵がいるのか。

上から流れてくる身を寄せたくなる山奥から取り寄せたような風が近づいてくる。

彼女は僕と目を合わせると、指を地上に向けた。


「ウェインビュール!」


龍の駆け抜ける音を聞き、耳がエラー音を鳴り響かせる。僕も三日月を浮かべた。

出口に飛び出す勢いでエイビスの横を通り抜け、上段に相棒を構える。残った息を両腕に注ぎ込み、息が火花へと変わっていく。


「赫閃斬!」


赤い刃の形を保った衝撃は彼の場所を越えて、出口へと続いていく。ルミアールの姿がない。

振り返ると、風に踊る紙のように距離を詰める男の姿があった。

エイビスの言っていた通り、1つ1つの動作が素早い。彼の迫ってくる方向に翻るよう相棒の角度を合わせると、彼の剣は笑顔を見せるように光を発した。ブロンドの髪色や細剣のように鋭い鼻が見えたのはいいが、この暗闇には無意識が目線を逃がせと警告するほどに明るさが強すぎる。


「待っていたぞ、侵入者! 私はお前を倒し、彼女を越える」

「君、実戦経験が少ないだろう。悪いが急いでいるんだ。ここは通してもらうよ」


背中から伝わってくる心を熱くさせる気温の変化がする。温度が変わったにも関わらず、動きは降り始めの雨音であるようにもの静かで死神のようにルミアールの首元に剣の先端を近づけ右手に殴るような勢いを加えると、

剣は流星をばらまいたような火を放った。


「赫焔の星舞!」


正面の勢いが消え彼の姿が消えた。前に進んでから敵の位置を確認していく。

音もなく横から足蹴りが飛んできた。

このままやらせるか!

太ももに触れてすぐ敵を剣で振り払うと、影は闇の中に姿を隠すと次の行動はしてこなかった。左足を踏み出すと少し痛みが踊りだすが、仕方ないか。

攻撃に対して気配がほとんどしなかった。唇と戦っている感覚とも少し違う。他にも何人かいると見ていい。

まずはこの影を見極める必要があるな。

耳がまたエラーの音を響かせた。ミカロは珍しく僕と目線を合わせた。


「1発であの唇を吹っ飛ばすわ。手伝いなさい」

「なるはやで頼むよ。君の狙いがバレたらエイビスがミンチになるからね」

「当然でしょ」


眼鏡が曇りそうなほど湿って暑い地域にいるかのように蛇たちは列車のような速度で僕たちへと飛び出しては僕の相棒に弾かれていく。

ただの量産だと思っていたが、思ったよりも反応が鈍い。ほど良く横壁に飛んでいくものもあれば、二歩先にしか飛んでいかない重いものもある。風の音が千を超えて細く途切れるかのような音がした。

そろそろここが出し時か。

蛇たちを弾いた火花が相棒の元に集め、相棒から爆発が飛び抜けるつもりで左足の踊りすら組み込んで一撃を薙ぎ払った。


「赫閃斬!」


横長く飛んだ一撃は壁の中に消えていく。影の場所だけが黒く光っている。

背中の風の音が消えた。技が消えるまでの二十秒。ここで決める。

蛇を踏み移り、目を見開いて影をめがけて方が燃え上がるような一撃を繰り出した。


「紅蓮翔破!」


影に刻まれた時計の針に似た傷からは血が噴き出ている。


「シオン、避けなさい!」


相棒をしまい元の位置まで滑るように駆け戻ると、腹を空かせた龍が口を開き準備運動のように伸びをした。

床が飛び立つほどの勢い。月が僕たちの陣地を増やしてくれた。

エイビスはまだ攻撃を見極めているのか、同じ位置を維持しようと敵の攻撃を避けていた。

ミカロの姿が見えない。どこだ。

上から風の感覚がした。

月に照らされた銀髪を見て、僕は彼女を受け止めた。足の準備ができなかったので、腕はムチを喰らったように赤く光っている。


「ミカロ、立てるかい?」

「魔法の反動よ。そこら辺に投げてもらえば後で回復して戻るわ」

「わかった。僕はエイビスの援護に向かう」

「・・・相変わらずお人好しね、アンタ」


青白い顔色で強がるように煌めいた目を僕に見せると、彼女は目を閉じた。

右足も痛みが踊りだした。おまけに右肩も異常に暑くなり始めている。

ルミアールが攻撃するタイミングに合わせて横やりを入れさせてもらう。

エイビスがルミアールと剣を交えている。その剣撃は激しく、刃の音が月下に響くたび、火花が周囲に散る。


「待たせたね、エイビス」

「いえ、無用なお話ばかりでしたから、かえって良かったかもしれません」

エイビスの頬にはうっすらと血の線が浮かんでいた。疲労が積もっているのは明らかだ。

「まだ戦えるかい?」

「……もちろんですわ。ただ――」


彼女が言いかけた瞬間。

ルミアールの剣が、空気を震わせた。


「ここからが本番だ」


ルミアールが低く呟くと、床一面に黒い魔法陣が広がった。空間が再び、いや、今度は完全に歪められた。


「っ……これは」

「“閉鎖界エンデ・ゼル・グリモワール”――私だけの舞台だ。君たちは、この空間ではまともに動けない」


空間がねじれ、足元がぐにゃりと揺れる。床が波打ち、光さえ上下に動く錯覚に陥る。


「目も、足場も奪われて……!」

僕が相棒を構え直す暇もなく、ルミアールが消えた。

「エイビス、避けろ!」

「――ッ!」


ルミアールの剣が、エイビスの背後に突如現れた。彼女はかろうじて受け止めるも、そのまま横合いから蹴り飛ばされていく。


「エイビスッ!」


僕が駆け寄るが、その途中、床から生えた影の柱が僕の動きを封じる。


「この空間の主は私だと言っただろう?」


ルミアールの声が、空間全体から響いてくる。


「くっそ……!」


僕は影を相棒で薙ぎ払いながら突撃する。だが、そのたびにルミアールの位置が変わり、斬撃が空を切る。


「動きが……届かない……!」


エイビスが膝をついた。先ほどの攻撃のダメージが思った以上に深いようだ。


「シオン様、動きを読むよりも感覚で捉えた方が良さそうです」

「ここで言うことじゃないけど、僕は感覚が一番苦手分野なんだよ」

「心配いりません。きっとシオン様はやり遂げてくださると、私は信じています」


珍しく何の根拠もない。それでもやってやる。

僕は息を深く吸い、視覚に頼るのをやめた。耳鳴りのような剣風、わずかな床の振動が鈴を鳴らす。


「そこだッ!」


直感で振るった相棒が、空中の影を裂いた。黒い空気が散る。ルミアールが、目を見開いた。


「……なぜ、私の動きが……?」

「僕には信じてくれる人がいた、それだけだ。エイビス!」


エイビスが跳んだ。僕が開けた隙に剣を構え、空間ごと裂くような鋭い斬撃を叩き込む。

ルミアールが悪魔のような悲痛の叫びをあげる。だが、それはすでに勝負が決まった合図だった。

剣が床に転がった。

空間の歪みがほどけていく。

重たい空気が消えて、静寂が戻る。

エイビスと僕は、肩で息をしながら顔を見合わせた。


「ふぅ、終わったな」


闘いの終わりは、何度経験しても実感が湧かない。倒れたルミアールにも動きがないので、

ひとまず汗を拭った。

月明かりをのんびり眺められる静かな時間になった。


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