第二話 目黒駅その2
僕は刀を構え、相手との距離を正確に見定める。
緑色の皮膚をしたHKは、『獲物だ!』と言わんばかりに走ってきた。
刀の範囲に入ったHKの両の手首を切る。
再生するとはいえ、階級の一番下である奴らには、素早く再生する力はない。
そのまま胴を切り結び、上半身を足で抑える。
視界の端で、切られた手が不自然にうごめく。。
頭に刃を突き立てようとするが、僕を捕まえようと左右から手が飛んできた。
「それは、読めている」
抑えた足を軸に一回転しながら手を切る。
その勢いに乗りながら頭を両断する。
頭を切られたHKは、ドロドロに溶けて消えていった。
刃に着いた青色の血を払い、もう一体のHKに視線を向ける。
が、そこにいたのは頭だけになったHKを鷲掴むしているメアリーの姿だった。
「遅いよソウヤ。もう終わっちゃったよ?」
「僕は別に競っていないよ」
「ちぇー、つまんないの」
HKの頭を砕いて壁に叩きつけ、HKは消滅していく。
「ちょっとは、太刀筋良くなってるね、ソウヤ」
「メアリーも、少しは抑えるようになってるよ」
「それにしても、この機械すごいよねえ」
耳にかけているいイヤホンを触る。
「これをつけるだけで、自分の声も相手の声も言語翻訳できるし。この武器もね」
「化学者たちに感謝しないとね」
ここ10年で化学力が向上していき、より少ない資源で最大限の効果を発揮するものを開発することに成功してる。
このイヤホンもその一つで、肥の波形を使用者が認識できる言語に置き換えているそうだ。
その理屈や原理について一度説明があったが、何もわからなかった。
「んで、このまま奥に進んじゃう?」
「一旦、隊長に報告しよう」
腰に携帯してある通信機を取り、隊長に連絡を試みる。
ザーザーザー、ザーザーザー。
ザザ、こちらモーガン。応答を願う。
「こちたソウヤ。隊長に報告があります」
ソウヤか。なにかあったのか?
「メアリーと目黒駅内を探索中、HKの巣を発見し接敵しました」
二人とも、無事なんだな?
「はい。負傷は0です」
ソウヤはどう行動する予定だ?
「引き続き巣の探索を行い、できるなら駆除をしようと考えています」
わかった。くれぐれも時間には気を付けてくれよ。
「了解です」
では、貴君らの成果を祈る。
ザーザーザー。
隊長との連絡を終え、通信機を腰に掛ける。
「隊長、なんだって?」
「このまま探索していいって」
「よっしゃ、HKは任せてよ。一撃でやっていくから」
「それは頼もしい。それじゃあ、探索を再開しよう」
細胞の洞窟を慎重に進んでいく。
HKは基本知能はないので、洞窟の作りは一本道になっている。
僕たちは、HKの詳しい生態はわかっていない。
ただわかるのは、太陽を嫌い、暗闇を好む。
そして、人の肉を喰らい、それ以外の肉は喰わない。
この二つの情報しかここ10年間で得られていなかった。
「……ヤー、……ウヤー。ソウヤー!」
「あぁ、メアリー。何かあった?」
「何かあったじゃないよ。もう、何ぼ~っとしてるの?」
「あぁ悪い。ちょっと考え事をしてた」
「ちゃんとしてよね、まったく」
「悪い悪い」
「それに、もう最深部に着くよ。時間は……」
腰の後ろで手を組みながら僕の腕時計を覗き見てくる。
「うん、まだ大丈夫だね。それじゃ、元気よく討伐しよう!」
「作戦は、いつも通りに」
「ふふん、任せなさい!」
体育館が全部入るほどの最深部が姿を現す。
その中心には、脈打つコアが台座の上に鎮座してあった。
それを囲むように細胞の膜が張られてある。
「このタイプは、パターンB『防衛膜』だ。メアリー、あんまりあの膜を刺激しないように」
「は~い。手短によろしくね」
「手短にって、難しいんだからね、この作業」
「だから私が周りの雑魚をやるって作戦でしょ? 細かい作業は苦手なんだから、私」
「まぁ、適材適所だから、文句はないけど。焦らせないでよね」
「ソウヤも、タイミングよくやってね」
「了解。それじゃ、HK殲滅作戦、開始だ」
「レ~ッツ、ファイト!」
メアリーはHKの大群のなかへ飛び出し、暴れ始める。
数はそこそこいるが、メアリーの手にかかれば数分で片付くだろう。
「さてと、僕は膜を壊さないと」
メアリーがHKの注意を引き付けている間に、走りながら膜の周囲を探り始める。
半周走ったあたりで、膜の外側に腫瘍みたいな塊を見つける。
塊を触ると、強く脈を打っていた。
「これだね、この膜の核は」
慎重に核を触り、神経部を確認する。
この神経を切断できなければ、爆発を起こす。
その威力は、手榴弾以上だ。
予想以上に神経が入り乱れており、どれが起爆する神経に繋がっているのかがわからない。
「……先生に作ってもらってよかった」
ポーチの中から薄型のゴーグルを取り出し、装着する。
「メアリーが終わらせる前に間に合わせないと」
死ぬか生きるかの作業が始まった。




