囚人 坊野極⑥
大前提として坊野極は善人ではあっても決して聖人ではない。
だからこそラブソングが遊びで自分の世界を滅茶苦茶にしたことにも強い憤りなどは感じなかった。
遠い異世界の話であり怒りを感じるには異世界の構造があまりにも醜過ぎたというのもある。
ラブソング自身は気にしていないし冗談めかして言っていただけだが、
『泣き落しよ。信じられる? 悪意を以って追い詰めていた相手によ?』
このあたりが特に嫌悪感を掻き立てられた。
自分の幸福のために死ねと悪意を以って追い立てておきながら何言ってんだテメェ、と。
自らの行いを棚に上げて理不尽を強いることほど癪に障るものはない。
坊野自身がラブソングの立場であれば究極の暴力召喚待ったなしである。
それゆえラブソングの行いを趣味が悪いやり過ぎだとは思いつつも咎めようとは思えなかった。
だがその悪趣味が自分が大切にしているものに及ぶとなれば話は別だ。
「どうしたどうしたァ!? そんなんでよォ! やれんのかァ!?」
結果、条件を満たしかつてない規模で暴の極みが特殊召喚されてしまった。
相手に合わせて暴力の度合いが変わるのでこれまでは常人の範疇に在る暴力でしかなかった。
しかし今回は一つの世界を滅ぼせるほどの相手。規模も相応にデカくなる。
「やってみせろやホトトギスぅううううううううううううううううううううううううう!!!!」
今など引っこ抜いたスカイツリーを乱暴に振り回して滅多打ちにしているぐらいだ。
だが当人は自身の異常にまるで気付いていない。怒りでそれどころではないのだ。
何が恐ろしいって当人視点では未だ暴力を振るっている自覚は皆無。
自身が満足するまで甚振り尽くした後でなければ暴力を振るったと認識出来ないのだ。
なので自らの異常に気付くのも全てが終わってからになるだろう。
「ふ、ふ、ふざけるなァ! 私は! 最も強く! 最も美しく! 最も優……ぶびゃ!?」
坊野はラブソングをコンパクトに折り畳むと天高く舞い上がる。
するとどこからともなくバスケットゴールが出現し盛大にダンク。
そして間髪入れずに蹲るラブソングにサッカーボールキック。今度はサッカーゴールに叩き込む。
まだ終わらない。またしてもラブソングをコンパクトに折り畳み小脇に抱えて疾走。
都庁にそのままトライ! 異種ハットトリックを成し遂げる。
「イィイイェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴暴
息つく暇もなく過剰摂取させられる暴力は六日間続き七日目の朝、
「ご、ごめんなさい……わ、わたしが間違ってました……どうか、どうかお許しを……」
遂に魔女は頭を垂れた。
綺麗に折り畳まれた服、下着の横で全裸土下座を敢行するラブソング。
だが“完全に圧し折れた”わけではない。
ゆえに坊野は更なる追撃をかけようと腰を落とし相撲取りのような姿勢に入るが……。
「はいそこまで」
マヨヒガの支援を受けたテュポーンが二人の間に割って入る。
そして、
「めっ」
ペチンと軽く坊野のおでこを叩く。
暴力ではない。心からの愛情だからこそ彼もそれを拒まなかった。
「これ以上はやり過ぎ。そうでしょう?」
「ぁ」
そこで坊野の怒りは鎮火。ぐしゃりと表情が歪む。
まただ。またやってしまった。何でだよ。おかしいだろ。
だってあんなに偉そうにしてたのに。舐めた口を聞いていたのに。
「お、おれ」
遮るようにテュポーンは坊野を抱き締めた。
「お家に帰りましょう。美味しいご飯を食べて温かいお風呂に入ってフカフカのお布団で眠るの」
考えるのはその後で良い。
優しくそう諭すと、
「……うん」
素直に頷いた。
テュポーンはちらりとラブソングを一瞥すると坊野を連れ転移でこの場を後にした。
それを見届け物陰で様子を窺っていた旭、アーサー、零の三人が姿を現す。
「おのれ合法ロリィ!!」
「はいはい。気持ちは分かるけど適材適所でしょ」
「それより、だ。早く確認したまえ」
零とアーサーが旭の脇腹を小突き促す。
「……なあ、これ本当に私がやるのか? 貴様らで良くないか?」
「幾らモルガン属とは言え一応は女だ。騎士道的にね?」
「僕は騎士じゃないけど男だから。同性の君がすべきでしょ」
「アーサーはともかく道無、貴様……都合の良い時だけ性別を切り替えおって……!!」
憤るもやがて観念したように深々と溜息を吐く。
別にやらなくても問題はない。坊野一人にアフターケアを押し付けるならば、だが。
そのような選択肢はあり得ない。だが何故自分が貧乏くじを引かねばならないのか。
旭は再度溜息を吐き全裸土下座のまま動かないラブソングをひっくり返す。
心身に刻みつけられた極度の痛みと疲労で意識を失った彼女の表情は、
「「「うっわ」」」
恍惚としていた。
これ以上は必要ないだろと旭は二人に視線を向けるが返って来たのはやれという圧だけ。
「……チィッ」
汚物に触るように旭はまずラブソングの胸に手をやった。一部が硬い。
次いでもっと嫌そうな顔でラブソングの股間に手をやった。大洪水。
失禁ならばまだマシだった。しかし、そうではなかった。
「……やはりそうだ」
死への恐怖、生への渇望。それゆえ十一歳のラブソングは逃げ出した――わけではない。
それらの感情がまったくの偽りであるかと言えばそうではないが決して本命ではなかった。
退屈。道楽。それゆえ十八歳のラブソングが破滅の種をばら撒いた――わけではない。
それらの動機がまったくの偽りであるかと言えばそうではないが決して本命ではなかった。
あくまで本当の願いを彩るためのスパイス。
「コイツ、発情している」
「「うへぁ」」
当人に自覚があったわけではなかろう。
自らの幸福。その形を見失っていたからこそラブソングはここに迷い込んで来たのだから。
「つまりテュポーンの読みは当たっていたわけだね」
ラブソングの望みは生存ではない。
「……じゃあやっぱりこの人は」
何なら生贄になること自体は別に問題ではなかったのだ。
「うむ。コイツの正体は」
では何故、ラブソングの世界は滅びたのか。
端的に説明するならこうだ。
「「「超ド級“わからせ”希望のド変態」」」
世界が最悪の形で滅んだのはお前らが“わからせ”られなかったせいです。あーあ。
気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。




