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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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囚人 坊野極④

 明かされた真実に驚きはなかった。

 坊野の正体について知らされた段階で薄々そうではないかと思っていたからだ。


「……そう言えば何時だったかそんなことを考えたわね」


 テュポーンが呟く。駅舎に居た頃の話だ。

 坊野と並んで料理をしていた時に彼女はマヨヒガについて考察を巡らせていた。

 その際、マヨヒガを安寧の牢獄と言い換えることも出来るなと思ったのだ。

 出る必要がないなら出る気もなくなってしまう。

 囚われていると思わせずに安寧の鎖で繋ぎ止める。

 監獄を作る上でのアプローチとしては中々面白いかもしれないと。


「正にその通りだったなんてね」


 こにに理不尽は存在しない。大概のものは望むだけ手に入る

 この場所でなら坊野は心穏やかに居られる。

 偶然とは言えこの小さな怪物は早期にマヨヒガの核心に触れていたのだ。


「……皮肉なものだな。神が人のやり方に倣うとは」


 旭が鼻を鳴らす。

 坊野の祖父が取ったやり方は人が神を祀る際のそれに酷似しているからだ。

 日本では古来より災禍を成す存在を祀り災いを鎮めようとして来た。

 例を挙げるなら北野天満宮の祭神である菅原道真などが有名だろう。


「この領域内で坊野さんが神の如き権能を振るえるというのもまた、だね」


 零が小さく溜息を吐く。

 三人共に感謝はしている。坊野にもマヨヒガにも。

 だからこそ、こうせざるを得ないというのがやるせないのだ。

 望まぬ力を持って生まれて来た坊野。

 愛する孫を閉じ込めねばならないと決断した祖父。

 悪者が誰も居ないからこそ苦いものを感じてしまう。


「まだだよ」

「「「え」」」

「まだお祖父さんの想いを全て知ったわけではないだろう?」


 アーサーは言う。

 この異界の役割が牢獄だとしてまだ分かっていないことがあると。


「何故、彼はこの牢獄にマヨヒガと名付けた?」


 偽装のためだけか? だとしてもわざわざマヨヒガを選ぶ必要はない。

 仙境、妖精郷、聖域、浄土、蓬莱。その手の異界の名は他にも色々あるだのだから。


「名付けは祈りだ。名も無き牢獄にその名をつけた意味があると僕は思う」


 続きを読もうというアーサーの言葉に三人は頷いた。

 確かにその通りだと。やるせなさを噛み締めるのは全てを知ってからだ。


「『ここまで聞いてお前たちはどう思った? 酷い祖父だと思ったか?

世のため人のため。そして何より孫を不幸にさせないためとはいえ箱庭に孫を閉じ込めるなどと。

それは良い。客観的にそう評価されても仕方のないことだ。だが決して同情だけはしてくれるな』」


 荒れていた文字が形を取り戻していく。

 筆者の想いを示すかのように強く凛々しく。


「『これしか選択肢がなかったとはいえ儂は孫の幸福を諦めたわけではない。

限られた選択肢の中であの子が、極が一番幸せになれる道を選び取ったつもりだ』」


 でなければ牢獄の名にマヨヒガなどと名付けるものか。

 アーサーの推測は正しくその名には意味があったのだ。


「『祖父の贔屓目もあろうが極は優しい子だ。他者の心に寄り添いその幸福を祈ることが出来る。

だからこそ訪れた者を幸せにするマヨヒガの名を与え管理者に極を据えたのだ。

オートで捌き切れない特異な客人と接することになってもきっと大丈夫。

真摯に向き合い客人が良い方向に進める手助けが出来る。憂いを振り払い旅立つ者を祝福出来る』」


 だからこそのマヨヒガ。訪れた人間を幸福に導く夢のような場所。

 そこで誰かの幸福を手助けすることが坊野自身の幸せにも繋がるとそう信じているのだ。


「『この日記を読むお前たちが何よりもの証拠だろう? 日記を読める条件の一つがそうだからな』」


 客人として訪れ客人として去り、その上で改めてマヨヒガを訪れ関係を築いた者。

 それが条件の一つでありここに居る四人は正にそれだ。


「『改めて感謝を。極と仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくお願い致します』」


 言われるまでもなくってよとテュポーンが笑う。

 当然だと旭が鼻を鳴らし、アーサーは力強く頷き、離れるつもりはないと零が言う。


「ん? あれ、まだ続きがあるわね」

「何? 良い具合に〆た感を出しておきながらまだあるのか」


 続きをと促されたテュポーンは小さく咳払いをして朗読を再開した。


「『さて。長々と語ったわけだが正直、イマイチピンと来てないと思う』」

「いや別にそんなことはないんだけど」

「ああ。積み重なった小さな疑問の数々に答えが出たと思うが」


 零とアーサーの言葉に残る二人もそうそうと同意する。


「『お前たちが超常の側に属する人間かは分からんし、そうであっても相応の知識を備えているかも怪しい』」


 知識がない者なら日記の説明はピンと来ないだろう。

 あまりにもスケールがデカ過ぎて疑問符しか浮かばない。


「『もしあったとしても今度はその知識が足を引っ張る。

マヨヒガという異界の出鱈目さを前提にしても極のそれは桁外れの異常だからな』」


 半信半疑が関の山だろう。


「『実際に見てもらえば話は早いんだが極の暴を目にする機会は無いからなあ。

儂の説明を立証できるほどの相手と極が現世でかち合えば余波だけで日本が沈むわ。

ならばマヨヒガに招いてサンドバッグに? これもなあ、構造上不可能なんだよ』」


 曰く、マヨヒガのセキュリティは管理者の力に比例するのだという。

 坊野の祖父が管理者だった頃は彼以下の悪意ある者は全て弾かれていた。


「『理論上は一つの宇宙すら捻じ伏せられる極だがじゃあそこが限界かっちゅーとな。

神である儂ですら限界を測れないようなのを超える相手が居るか?

いや仮に居たとしてだ。そいつが極を凌駕しているなら究極の暴力は見られないわけじゃん?』」


 では都合良くセキュリティを弄って丁度良いのを招く? これも不可能だ。

 緻密に編まれたプログラムのようなもので一つ弄れば他にも影響が及んでしまう。

 そうなればマヨヒガそのものが破綻する。それでは本末転倒だ。


「「「「あ」」」」


 そこで四人は顔を見合わせる。

 気付いてしまったのだ。そうだ、何で今の今まで忘れていたのかと。


「「「「あの魔女、何でボコられてんの……?」」」」

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― 新着の感想 ―
"坊野の祖父が"管理者だった頃は彼以下の悪意ある者は全て弾かれていた。 今は管理者が"坊野"になってるから悪意あるやつも入れるようになったってこと?
一つの宇宙も、捻れると。 某佐藤さんともやれるのかな? あの方は坊野君とは仲良しになりそうだけど。
………つまり魔女の本質はマゾでFAってこと!?
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