客人 限界OLなラスボス⑧
死ねなくなる。いきなりそんなことを言われてもピンと来ないだろう。
ううむと唸っている彼にも分かり易いように説明を加える。
「どんな重い病を患っても死ねない。どれだけ肉体が損傷しようとも死ねない」
「!」
「そして肉体が完全に朽ち果てても尚、死ねない」
魂はどこにも還ることが出来ずただ彷徨い続ける。
それだけならまだ救いはあるが現実はあまりにも惨い。
「幻肢痛という症例をご存じかしら?」
「……事故やらでに失ったはずの手足が痛むとかそういう感じだったか?」
何かのテレビで見た覚えがあるという彼にその認識で合っていると頷く。
それがどうしたのだと言おうとして彼は顔を青褪めさせた。
「まさか」
「そう。患っていた病の苦しみが、傷ついた肉体の痛みが続くのよ。魂だけになった状態でも」
この世の地獄だろう。
「一応、最初は穏当な手段を模索したのだけどね」
システムに異常が出た原因は十中八九、地球崩壊だ。
ならば地球を復元出来れば或いはとも一瞬考えた。
「けどあまりにも非現実的」
プラモデルのように接着剤でくっつけて修復完了なんて単純なものではない。
そもそも砕け散った地球の欠片が今どこにあるのか、存在してるのかという問題もある。
「決定的な破滅が訪れるのは二、三百年後だけど誰の目に見える異常は百年以内には始まるでしょうね」
そんな状態で宇宙開発をして探索になんて出来るわけがない。
元々地球が存在した太陽系を探し当てられるかさえ怪しい。
超常の力を用いてもそう。私自身、宇宙に飛び出してみたが駄目だった。
指針も何もないまま闇雲に飛んで目的地に辿り着けるものか。
「だから私は死ねなくなった世界に適応出来るように人類を進化させることを選んだの」
「ん? あ、あれ?」
「どうかした?」
「いや……人類滅亡を目論んでるって言ってたから」
死ねる内に皆を殺してしまおう。
そういう結論に到達したのではないかと彼は困惑気味に言う。
「ああ、それは別の奴が選んだ終わらせ方で私のは違うわ」
「えぇ……? じゃあ君、別に人類滅亡なんて」
「いいえ私の掲げるそれも立派な滅びよ」
生と死。その理に囚われているからこその命、人間なのだ。
死のない世界で生きるそれは最早、命とは呼べない。
「精神構造も現行人類のそれとは大きく異なるものになるでしょうね。
新人類と旧人類は絶対に相容れない。互いが排斥すべき異形にしか見えないはずよ」
私はこれが一番マシな詰ませ方だと思ってはいるがそれはそれ。
客観的に見て人類を滅ぼそうとしていることに変わりはない。
だって人は人と呼べぬ何かに変わり果てるのだ。それは滅亡と同義だろう。
「……異世界の存在があることを認知したわけだろ? それなら」
「無理ね」
言いたいことは分かる。
異世界の技術、或いは異世界に逃げ込むことで地獄から逃れられるのではということだろう。
「まず第一に世界を超えたところで繋がりは断ち切れない」
異世界で死んでも肉も魂も元の世界に引き戻される。
「あとそもそもの話、世界を超える手段が分からない」
ここに来たのも私の意思ではないのだから。
世界を超える技術を確立して目当ての世界を見つけるより宇宙開発の方がよっぽど現実的だろう。
「……」
「さて。これが私という人間の全てよ」
彼は難しい顔で黙り込んでいるがこちらへの嫌悪や恐怖は感じない。
こんな話をしておきながら、と自分で思わなくもないが……。
(どんな理由があっても悪党は悪党よね)
はぁ。スッキリした。
「……一つ、良いかい?」
「そんな怪物がどうしてここに迷い込んで来たかって? それは私にも」
「いやそこはどうでも良い。今ここで俺と君が向かい合ってることが全てだろう」
理屈に興味はないと切り捨てられる。
では一体何を聞きたいと言うのか。
「君はどういう経緯で残酷な真実に辿り着いたんだ?」
「……?」
特に語る必要性もなかったのでスルーしたが何故そんなことを聞きたいのか。
不思議に思ったが特に不都合もないので茶請けがてら語ることにした。
「システムの異常による影響は老いの緩慢化以外にも多々存在していたわ」
尤もそれがシステムの異常に起因するものだと知る者は居なかったが。
「その一つが怪異の出現と異能の発現。私が生まれる百年ほど前から始まったみたいね」
怪異は人がイメージする悪霊や妖怪の形をしていた。
それに対抗し得る力ということで異能は霊能力と呼称された。
「先にネタバレをしておくと怪異は漂白し切れなかった魂の穢れが形を得たものね」
それらを処理せずに放置していれば破滅はもっと早くに訪れる。
生命循環システムは異常をきたしながら何とか役割を果たそうとしていた。
それゆえシステム側で処理し切れなかった汚れをどうにかするため霊能力者を生み出したのだ。
「汚れがウイルスなら霊能力者は免疫や抗体のようなものと言えば分かり易いかしら?」
「ああ」
「私も高校一年生の冬ぐらいに霊能力に目覚めたの。それもかなり強大な力だったわ」
漫画のようにランク付けも存在していて私は最上級のS。
いやそれ以上がないだけで実質はSSSとかそれぐらいに位置するのだろう。
「へえ、超大型新人だったわけだ」
「そうね。正直、悪くない気分だったわ」
目覚めた力を武器に世のため人のため人知れず影で戦い続ける。
子供なら優越感のようなものを覚えてしまうのも無理からぬ話だろう。
「でも実際はとんだ貧乏くじ。霊能力の強さには理屈があるのよ」
システムに近ければ近いほど出力は強くなり汎用性の高い力に目覚めるのだ。
だからこそ、世界の真実に辿り着けてしまった。
「大学一年の頃、全ての霊能力者が結束して当たらねばならないような特級の怪異が出現したわ」
世界を滅ぼしかねない怪物を前にいがみ合う者たちでさえ手を取り合った。
まるで少年漫画の一ページのような人間の美しさが垣間見える決戦だった。
「そして見事、霊能力者たちは七日七晩にも及ぶ死闘の末、怪異を討伐した」
「おお!!」
盛り上がっているところ申し訳ないけれど最悪はこれからだ。
「多くの人々が喜びに浸っていたけれど私含む一握りの霊能力者はとてもそんな気分にはなれなかったわ」
世界を滅ぼす怪異を排除するためだろう。
システムはより強い力を与えるべく己に近しい位置に在る霊能力者との繋がりを深めたのだ。
「そうすることでどうなるかなど知りもせずに、ね」
心持たぬ機械のようなものだから仕方ないと言えば仕方ないのだけど。
より深くシステムと結びついた結果、私たちは討伐の間際に認知してしまったのだ。
「システムの存在を、やがて訪れる最悪の結末を」
物語で言うならボスを倒して危機に瀕していた世界は救われハッピーエンド!
とはならず元凶たる真ボスの存在が明らかになったようなもの。
悪質なのは物語と違い真ボスは悪ではなく戦いが成立するものではなかったことだろう。
「そこから私の本当の戦いが始まったわ」
最初はそれでも希望を持って道を模索していたのだが……まあ結果はこれこの通り。
私が希望を捨て怪物になる道を選ぶまでの話は必要ないだろう。
彼が聞きたかったのは私が真実を知った経緯なわけだし。
「とまあ、こんな感じだけど……おじさま?」
見れば彼はわなわなと震えていた。
恐怖ではない。何か衝撃的な気付きを得たような感じだ。
「や」
「や?」
「山本さん……! ご、権藤さん……ッッ!!」
いや誰?
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