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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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神だった

 本命の前に色々とあったが帰省した主目的を果たすことは出来た。

 ちょっと心に傷を負ったが錆び落としという意味では完璧だ。

 かつての仇敵の真の姿を拝めたことや腹を割って話せたことも成果と言える。


「あぁでも手紙を思い出すだけでまだちょっと凹む」


 沢山のお土産(地元銘菓)などを手にマヨヒガへ帰還。

 日付を確認すると向こうで過ごした日数分が経過していた。

 それ自体は良いが、


「……意外ね。一週間ちょっと留守にしてたならどっちか住み着いてると思ったのに」


 留守中、私以外の誰かが部屋に入った形跡はない。

 旭お姉さんあたりは絶対忍び込んでると思ったが何かあったのだろうか?

 留守中の話を聞きたいのとお土産も渡したいので三人に連絡を入れると直ぐに集まってくれた。


「とりあえずこれ。アーサーさんにはお酒で皆にはお菓子とか色々」

「宇宙の酒か。そそるねえ。ありがたく頂くよ」

「ありがとう。異世界のお菓子なんて楽しみだ」

「……感謝する」

「あらあら、旭お姉さんってば何時にも増して不機嫌顔ね」

「坊野が連日、あの魔女とデート紛いのことをしているからね」

「あと君が留守中にアパートを奪い取るつもりだったのが失敗したってのもあるんじゃないかな」


 どうやら勝負の結果、掴み取ったという事実をマヨヒガは尊重したらしい。

 何度もトライしたが辿り着けず挙句、本当に迷宮化した新宿駅に放り込まれたとのこと。

 本当にフレキシブルな異界だと感心半分呆れ半分だ。


「それはそうと君、バッチリ仕上がってるみたいだね」


 とアーサーさん。それはもう当然だ。

 錆び落としが十全に出来なかったのなら何しに行ったのか分からない。

 ただ心に傷を負うために帰郷したとか馬鹿じゃないの。


「かつての仇敵と戦って勘を取り戻すと行っていたが仔細が気になるな」

「そう? じゃあお茶でも飲みながらお話しましょうか」


 少し待っててと立ち上がったところで何かに躓きよろめく。

 何よと思い足元を見ると、


「……貴様の話は後回しだな」


 例の日記帳が転がっていた。


「これが例の」

「そう。前に僕らが読み進めたのは日記帳の主の正体が明らかになったところまでだったか?」

「ああ。今回は何が記されているやら」

「また煙に巻かれそうな気もするけど……読まないわけにはいかないしね」


 日記帳を手に取り中身を読み上げる。

 今回アンロックされたページの日付は前の時から大体一年ぐらい経過していた。


「『最悪の気分だ』出だしからして不穏ね」


 おじい様は頑張っている自分へのご褒美として旅行を企画したらしい。

 私たちが知りたいのはその頑張っている部分なのだがやっぱり語られない。

 何かあると察せられはするが答えには辿り着けない言い回しが絶妙に苛っと来る。


「……福岡に来てたんだ。僕の地元じゃん」


 ああそう言えば零お姉さんの出身地だっけ。


「『数日は完全フリーのつもりだったのに嫌なものを見かけてしまった。

正直見なかったことにしたいが誕生の原因は十中八九儂だ。となれば無視も出来ない』」


 誕生の原因、ね。

 神が理由で生まれた何かなんて厄ネタの臭いがする。


「『見かけた爆弾の名前は道無零というらしい』――――お待ちになって?」


 私、旭お姉さん、アーサーさんの視線が一斉に向けられた。

 零お姉さんは知らない知らないとブンブン首を横に振っている。


「『かつて存在した神々は元の形無き存在に回帰し儂が最後の神となるはずだった』」


 既に世の構造は変わっていて形なきものが肉を得て神になる土壌はほぼ皆無。

 おじい様が生まれたこと自体、殆どイレギュラーのようなものだったらしい。

 第二次大戦という呼び水がなければ神はもう二度と生まれはしなかったという。


「『救いもしなければ裁きもしない。人が求める神の責務の一切を儂は放棄した。

それがいけなかったらしい。人類は新たな神を無理矢理にひり出してしまった』」


 ひり出すって……表現が些か酷いと思う。

 いやでも勝手に生み出された神の側からすればそう言いたくなるのも無理はないのかも。


「『道無零。あの幼子が正真正銘、最後の神となるだろう』」

「知らない知らない知らない。神て……そりゃちょっとおかしなところはあるけどさあ」


 ちゃんと人の母と父から生まれたと慌てて否定する零お姉さん。

 まあ正直、私もそうとは思えない。

 性別関連で特異な性質はあるが神と呼ばれるほどの何かを感じはしない。


「『あれは虚無が肉と人格を得た神だろう。恐らくそれ以外に誕生させられる神が居なかったのだ。

儂が責務を放棄したことで新たな神が生まれる余地が出来てしまったがそれだけでは不十分。

そりゃそうだ。儂の誕生時点でリソースはギリギリだったんだから足りるわけがない』」


 おじい様は人が思い描く普遍的な神として生まれた。

 多くを救い多くを裁く存在として求められた結果だ。

 しかし今の人類と世界にはそんな神を新たに創造する余力はなかった。

 だからこそ変則的な形で零お姉さんは生まれたのだという。


「『誕生に人間を利用したのがそれだ。種のない男と胎が使えない女。

どう足掻いても子を成せる余地はない。可能性が皆無だからこそ虚無の神が生まれる土壌足り得る。

他にも条件を満たす夫婦は居ただろうに偶然選ばれてしまったのだから憐れなものだ』」


 零お姉さんの顔は強張っていた。そりゃそうだ。

 まるで予想だにしていなかったところから自らの真実を突きつけられたのだから。

 否定するにしても神が相手では分が悪い。

 おじい様が神でないと断ずるには彼の創造物であるマヨヒガはあまりにも規格外が過ぎる。


「『あの幼子が最終的に辿り着くであろう答えも目に見えている』」


 何も成さず自らが消えるか何もかもを虚無に還すことで救済を成すか。

 そのどちらかだと断定した。零お姉さんには心当たりがあるのだろう。酷く苦い顔をしている。


「『前者ならまだ良い。関わった人間が悲しむぐらいで被害は極小だが後者は最悪だ』」


 それはそうだ。それは世界の滅びと同……うん?


「『絶対に上手くいかず虚無の神は最悪の結末を迎える』どういうこと?」

「全てを無に還すことは出来ない? 何故?」

「僕ら人間が抵抗するから、か? いやでも最悪の終わり方という表現が気になるな」


 怪訝な顔をする旭お姉さんとアーサーさんに促され続きを読み上げる。


「『勝手に生み出されただけなのにそれではあまりに酷だ。

誕生の一端を担った儂としても見過ごすのは気分が悪い。

最優先はあの子だが儂が死ぬ前にこの手で始末をつけてやるのが慈悲というものだろう』」


 全員が零お姉さんを見る。彼女はふるふると首を横に振った。

 そうと思われる老人に接触した記憶はないらしい。


「テュポーン、続きを」

「残念ながらここで途切れているわ」


 おじい様が何故、零お姉さんを始末しなかったのか。

 大体察しはつく。想定されていた二つのルートを外れたからだろう。

 零お姉さんがマヨヒガを出た時点ではまだおじい様も存命だったはず。

 だから変わった姿を見て手を出す必要はないと判断したのだと思う。


「問題はそれがおじい様の計画通りかなのだけれど」

「……彼の御仁が創造したであろうマヨヒガに関わった結果だからな」

「だが日記から察するに既にマヨヒガ創造に着手していたんだろう?」

「だったらわざわざ答えは二つだなんて記述しないわよね」

「完全なイレギュラーというわけか」


 そこでこれまで黙っていた零お姉さんがふふ、と小さく笑った。


「どうしたの零お姉さん?」

「いや何だか“運命的”だなって」


 どこか勝ち誇った顔を見て言わんとしていることが分かった。

 自分とおじさまの関係が、ということだろう。


「旭お姉さん判決」

「マウント罪で死刑」

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― 新着の感想 ―
そうかー。 道無くんちゃんは出会う前から繋がりがあったのか。 嬉しそうでなにより。 だが、勝負は最後まで分からないから。
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