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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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ごきげんようみらいの私

 何か話をしてたら色々思い出して来たわね。

 あれはそう、確か小学校低学年の頃だったかしら?


「学校の授業で大人になった自分への手紙を書いたのよ」


 ただこれ年齢指定があったわけではなかった。

 二十歳の自分に書いた子も居れば三十歳という子も居た。


「もう不穏じゃないの」

「いやでも内容は覚えてないのよね」


 手紙を書いたこととそれをタイムカプセルとして埋めたことだけ記憶にある。

 一度存在を思い出してしまうと気になって気になってしょうがない。

 喉に小骨が刺さったような状態でスルト、ヴリトラ相手にするのはナンセンスだ。


「ちょっと確認してみようかしら」

「やめて! すごいパンドラ臭するもの!!」

「アポート関連の術式に少し手を加えて……よし、これで良いわね」

「やだロリータ止まらない!?」


 ポン、とテーブルの上に現れたのはクッキーのカンカンだった。

 ……そうだ。思い出した。親戚のお姉さんからお土産に貰ったクッキー。

 味も美味しかったけど缶もお洒落で宝箱みたいだと思ったからこれを使ったんだ。


「開けてみましょう」

「開封動画大好きウーマンだけどこんなワクワクしないライブ開封初めて……」

「うるさいわねえ。嫌なら見なければ良いでしょ」

「ここまで来て見ないのも逆に精神衛生良くないんですけど!?」

「んもうああ言えばこう言う。付き合ってられないわ」


 というわけでいざ開封。

 缶の中には色々入っていた。先ほど話題にしたアニメのシール。お気に入りの髪飾り。

 ああそうだ。このビーズ細工はお友達と一緒に作って交換したもの。確かくれたのはひろこちゃん。


「おませな女の子でお兄ちゃんのエッチな本とかこっそり見てたのよ」

「唐突にひろこちゃんの秘密暴露しないでよ。可哀そうでしょ」


 おっとそれは確かに。


「あら何かしらこれ?」

「……何これグラビアの切り抜き? 何で女の子がこんなの持ってるの?」


 グラビア雑誌を切り抜いたと思われるものが綺麗に折り畳まれて入っていた。

 映っているのは魅惑のプロポーションを持つブロンド美人。

 クラスの男子が悪戯で入れたのかしら?


「あ、違う! 思い出したわ! これ父の雑誌から私が切り抜いたんだ!」

「えぇ……何で?」


 確か父は健全系のグラビア雑誌を集める趣味があったのだったか。

 母に内緒で収集していたけどある時、露呈して母大激怒。

 わりと嫉妬深い性質だったのでその日の内に捨てられることになってしまった。

 幼い私は何で母は怒っているのか気になりこっそり束ねられていた雑誌を見てこのページを発見したのだ。


「まあ何て綺麗なお姉さんかしらって感動したのよ」


 それでこっそり切り取ってお守りにしていた。

 私も何時かこんな綺麗で色々大きなお姉さんになれますようにって。


「タイムカプセルの話でお宝を入れるってことになったからこれも入れたんだったわ。ほら見て」


 よく見ればみらいの私→って落書きもある。


「というかこれ見て一つ小さな疑問が解消したわ」

「疑問?」

「ええ。お風呂で旭お姉さんのお胸やお尻を見る度、奇妙な郷愁を覚えていたのよ」

「誰か知らないけど旭お姉さんの乳尻もビックリだわね。下心ならまだしも郷愁て」


 私自身何でだろうと思っていたけれど理由が分かった。これだ。

 だって目測だけど旭お姉さんのお胸やお尻と殆ど同じぐらいだもの。

 まあそれはそれとして、だ。


「……結局、なれなかったわねえ」


 ごめんなさい過去の私。

 あなたが必死で苦手な牛乳を頑張って飲んでるけど全部無駄よそれ。

 私は三十後半になっても変わらず見事なコンパクトボディでCO2削減に一役買っているわ。


「さて。いよいよ本命ね」

「……やっぱ見るのね。良いわ。私も覚悟を決めた!!」

「あなたはどんな立場なわけ?」


 みらいの私へと書かれた可愛らしい封筒を手に取る。

 そこでまた一つ思い出した。


「これ確か当時クラスの女子の間で流行ってたのよ」


 学校前にあった駄菓子とかも売ってる文房具店。

 そこの商品の一つで私たちは勝手にランキングをつけていたのだ。

 このお手紙セットが確か一位で兎に角これを使いたくて友達同士で手紙を書くのも流行ってたっけ。


「また一つ懐かしい記憶を思い出せたわ」


 破れないよう丁寧にシールを剥がして中の便箋を取り出す。


「『ママとおなじおとしの私へ。おげんきですか? ×××です』」

「書き出しから何か嫌な予感がして来たわね。まず名前部分が超グロい。認識出来ないもん」


 怪物になると決めた際に名前を捨てた影響だ。

 まさかリトル私も将来的に自分の名前を捨てるとは思うまい。


「『私はおべんきょうもおけいこもまい日がんばっています。みらいの私もがんばってると思います』」

「あらかわ!!」

「『すきな人もできてると思います。いまの私にはいませんがみらいの私はおとなですから』」

「きゃわわわ!!」

「うっさいわね」


 今の自分には好きな人居ないけど大人の私なら居るってどういう論法?

 と思ったがまあ小学校低学年の子供のことだからこれぐらいはご愛嬌だろう。


「大丈夫よ。ちゃんと居るから。とっても素敵な人が」


 微笑ましい気持ちになりつつ続きを読む。


「『もうおよめさんになってると思います。ママとおなじおとしだから』」

「……あの、当時のママさんおいくつ?」

「……多分、三十代前半」


 こえちゃったぁ。


「『どんなドレスをきましたか? かわいいおひめさまみたいなドレスだととってもうれしいです。

だんなさまはとてもすてきなおとこの子だと思います。ちゃんとまい日ちゅーしてますか?

おっきなわんちゃんもいると思います。おっきくなったらかうってきめていたので』」


 ……。


「『子どももたくさんいます。私はおにいちゃんやおねえちゃんおとうとやいもうとがほしかったので』」

「あ、あ」


 私を見るな。


「『みらいの私はちゃんとママをしていますか? ママみたいにママになれていますか?

わるいことをしたらちゃんとだめってしてあげてくださいね。ママはそうしてくれました。

いいことをしたらいっぱいいっぱいほめてあげてくださいね。ママはそうしてくれました。

私はママみたいなママになるのがゆめなのでがんばっているとしんじています』」


 その後もとりとめのない、それでも溢れんばかりの夢と希望が続く。

 そして“せかいでいちばんしあわせになってください”という言葉で手紙は締め括られていた。


「「……」」


 私は今、幸せだ。ああ、そこは胸を張って言える。

 でも、


「……何かもう、むこう一週間ぐらい何もする気なくなっちゃった」

「言ったじゃない! だから言ったじゃない! 世の中には開けちゃいけない箱があるって!!」

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― 新着の感想 ―
過去の私へ「お前がママになるんだよ!!!」
おお・・・ 成りたかった自分には成れなかったのな。 でも、好きな人は出来たから良いよな。 早くママになるんだよ!
じ、自傷行為……笑 まあ、存在を思い出してしまった以上、見ないのも何かアレだしね……
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