怪物の里帰り
おじさまとのお話を終えた翌々日。
色々と準備をしてからマヨヒガを出て自分の世界に一時帰還した。
すっかりマヨヒガに住み着く洋物座敷童になっていたが別に元の世界が嫌いになったわけではない。
行き止まりの世界とはいえ私の故郷なのだから。
「……そこそこ時間が経過してるわね」
自宅に出て真っ先に日付を確認。一年以上が経過していることが判明した。
「マヨヒガの機能を考えれば一秒と経過していなくても不思議はないはず」
おじさまの都合でマヨヒガの時間経過は変動する。
だから現世でもそれなりに時は流れていた。
イベントに参加したり勤めていた会社が変化を確認出来たのだから当然だろう。
だがそれは同じ世界同士だからで異世界の時の流れには無関係だ。
ならばこの時間経過はマヨヒガの差配と見るべきだと思う。
「言葉で意図を説明してくれたら気を揉まずに済むのに」
愚痴りつつ連絡を入れると直ぐに返事が来たので現地へ。
向かった先はオタクの聖地、秋葉原。
あちらの世界でも一時期はオタクの聖地として隆盛したようだが衰退。今は違うがこちらは変わらずだ。
むしろドンドン色が強くなっている。
どこに発表出来るわけでもないが改めて文化的差異について研究してみるのも面白いかもしれない。
「ご機嫌よう。しばらく会っていなかったけれど相変わらずね」
貸し切りと札が下げられたメイドカフェに入店。
床を鏡面に変化させ覗きを楽しんでいる変態(♀)に語り掛ける。
「そちらも相も変わらず麗しの合法ロリボディで何よりよ! 心の逸物がそそり立つ!!」
「同性でもセクハラは適用されるのよ」
とりあえず横っ面にグーを入れておく。
「フフ、今の私には何の痛痒もないわ! だって痛みを伴うワカラセが最近のトレンドだから!!」
「……救えないわ」
本気でないとはいえ並みの超人でも顔がボッ! しちゃうレベルなんだけどね。
変態の癖に実力は確かなのだから困ったものだ。
「で、こちらの情勢を聞かせて欲しいのだけれど」
変態は変態だが裏の情報通でもあるのだ。
何が恐ろしいってかなりのやり手なのに以前の私が認知出来ていなかったのが恐ろしい。
多分、それは鎬を削っていたスルトとヴリトラも同じだろう。
「えぇ? もっと楽しいトークがしたいんだけどぉ。あなたの恋の進展とか」
「それは後で話してあげるから今はこちらの用件を済ませて」
「っしゃ!!」
ぐっとガッツポーズをして奴は語りだす。
「端的に説明すると膠着状態ね」
「……意外ね。三つ巴が崩れれば後はもう決着まで一直線かと思ってたわ」
私がこの世界に戻って来たのはかつての仇敵を使って錆び落としをするためだ。
どうせやるなら同格の相手と戦う方が良いのは自明の理だろう。
予定としては生き残ってるどちらかに喧嘩を売りに行くつもりだったのだけれど……。
参ったわね。どっちかを選ぶとなれば結果的に選ばなかった方に肩入れする形になってしまう。
少しでもマシな終わり方を。思想は異なれど根本にあった祈りは同じ。
仇敵ではあったが同時に同志のようなものでもあったのだ。
だからこそ舞台を下りた私が決着に関与するような真似は……あ。
「そっか。両方殴り付ければ良いんだわ。簡単なことじゃない」
「何か不穏なこと言ってる……」
「安心なさい。こちらの事情に付き合わせるのだから相応の見返りも用意してあるわ」
皆の伝手を借りて用意した異世界の技術、物品。
後者はマヨヒガによるブーストも受けているのでかなりのクオリティになっている。
どう活用するかはさておき役に立つことは確実だ。
「それより何だって膠着状態に?」
「まず以って決戦の傷が両者共に深く直ぐには動けなかった」
そしてその間に私の脱落により生じた空白から新勢力が勃興したらしい。
そこのトップも恐らく世界の真実を知っているが諦めてはいない様子とのこと。
「深くは聞かないけど仕掛けるなら……はいこれどうぞ」
渡されたメモには襲撃を仕掛けるタイミングの参考になりそうな情報が多々記されていた。
私が感謝を伝えメモを懐に仕舞い込むと奴は身を乗り出して来たので頷く。
報酬というわけではないが私もそっち方面での相談もするつもりだったし。
「とりあえず色々とアプローチはしているけれど目立った成果はないわね」
ただ完全に効果がないわけでもないと思う。
普段はベタベタしてても平然としているが何回かに一回はドキっとした顔になってるもの。
でも何がどう刺さったのかがイマイチ分からないのでそれを活かせないのだ。
「だからそこらの意見を聞きたいなって」
「良いわ。話してみて」
細かな状況を伝えるとああではないかこうではないかと意見を述べてくれる。
当たっているかどうかはさておき一考の余地はあると思う。
十中八九恋愛経験なんてなさそうのにこの説得力は何なんだろう?
「にしても……ふふ」
「どうしたの? 病気?」
「笑うだけで病気を疑われるって酷くない?」
変態だもの。
「で、結局何? 発狂?」
「もっと酷くなった……そうじゃなくてほら、あれ」
視線の先には奴が用意させたホワイトボード。
そこには私がこれまでアプローチのためにしたコスプレ履歴が列挙されている。
着物、スクール水着、体操服、着ぐるみパジャマ、看護師、婦警、不思議の国のアリス他色々。
我ながら結構な数、こなしたものだとちょっと感心してしまう。
「これ、意中の殿方の心を掴むためじゃなくあなた自身も楽しんでやってるでしょ」
「それは……」
言われてみればその通りだ。
大前提におじさまがあるのはそうだけど私自身、あれ着ようこれ着ようと楽しんでいたように思う。
「身の丈を超える荷を背負って四苦八苦していた子が楽しそうにしてたら嬉しくもなるわよ」
そして何より、と変態はこれまでの穏やかな目をギラつかせながら続ける。
「合法ロリというツチノコやビッグフットより希少な存在がコスプレ沼に嵌まってくれたのが本当に嬉しい!」
「私、UMAより上なの?」
まあそれはともかくだ。
言われるまで気付かなかったけど私、コスプレが趣向に合致してたのね。
何が良かったのかを考えてみてふと気付く。
「……あぁそうか」
「どうしたのよ?」
「いえ、コスプレ好きになったと思われる切っ掛けが分かったのよ」
「ほう? 詳しく聞きたいわね」
「そう大したものではないわ。子供の頃の話よ」
「ほほう? リアルロリの頃ね」
リアルロリ言うな。
「当時好きだったアニメの主人公の女の子の影響だわ」
魔法少女とかその類型ジャンルだったと思う。
色々な衣装を着て事件を解決する子にとても憧れていたのだ。
「両親にもあれ買ってこれ買ってと女の子が着ていたものに似た服を強請ったったけ」
玩具も買ってもらってステッキみたいなのをブンブン振り回してたわね。
「あらやだ可愛らしい思い出」
本当に懐かしい……。
「まさかそんな普通の子供が数十年後には人類を滅ぼそうとするなんて」
「……」
他に類を見ないドロップアウトっぷりだと思う。
「大人になったら主人公の女の子みたいな正義の味方なりたいって言ってたのにね」
「……あの、ちょ、やめて。何か泣きそうになるから」
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