僕とて人間だ
「嗚呼、何と清々しい気分だろうね」
友への後ろめたさを解消した翌日の目覚めは最高だった。
それこそ普段なら絶対に行かないであろうお洒落なカフェなどに足を運ぶほど気分が良い。
そこで偶然ロクデナシ三人と遭遇したので語ってやってるのだが
「隠し事をせずに済むというのはこんなにも心が軽くなるのか」
「「「……」」」
何故か白けた目をしている。土偶みたいな顔だな。
聞いて来たのはそっちだろうに無礼な奴らだが今日の僕は寛容だ。
「いや別に秘密が悪だと言っているわけではないんだ。そこは誤解しないで欲しい」
友だから全て曝け出せなどと言うつもりは毛頭ない。
例え親友であろうとも言えないことはある。それは当然のことだ。
何一つ秘密を抱えず向き合うことが真の友情なんて馬鹿な話があってたまるか。
「僕の場合は約束に背を向けたという事実があったから後ろめたくてね」
モルガンが僕に惚れている。そんな馬鹿な話はないと一笑に付した。
もしそうなら東京を全裸で駆け抜けてやると。
雑談の中で言った何気ない言葉が約束になるのかと思うかもしれない。
『え、突然の凶行の理由それ……?』
夜を駆け抜けた後、理由を問われたので答えたら坊野自身呆気に取られていたしね。
何ならそんな言葉を交わしたことさえ忘れていたぐらいだ。
「だが僕は友と交わした約束だと思っている」
治める国も導く部下も守るべき民も居なくなり王ではなくなった。それでも僕は騎士だ。
例え冗談のつもりで言ったのだとしても友に対しては誠実で在りたい。
「例え全裸で東京を駆け抜けることになったとしてもだ」
それに、と思わず笑いが漏れてしまう。
「存外、悪い気分ではなかったしね。どこか爽やかな心持ですらあったよ」
「公然猥褻は騎士のやることではなくってよ騎士王様」
「いやシャルルマーニュ十二勇士の誰だかも露出してただろう」
「あれは発狂した結果じゃないの」
発狂して裸になるより約束を守って裸になる方がよっぽどカッコいい。
「……というか貴様、仮にも自分を愛していると言った女を斬り殺したのか」
「祓主、そこは仕方ないでしょ。モルガンのやったことを考えればどの口でってなるよ」
「そうね。歪んだ情愛の果てに多くの人間が犠牲になったんだもの」
僕の怒りは正当なものであると二人は擁護するが、
「いや別に怨恨で殺したわけではないよ」
あの朝焼けの向こうに歩き出した時の気持ちに嘘偽りはない。
僕はもうランスロットもギネヴィアもモルドレッドもモルガンも憎んではいない。
確かに国は滅びたし沢山の人間が死んだ。
それでも命をやり直すと決めたのだから恨み辛みを引き摺っても仕方ないだろう。
まあ恨んでないだけで今でも普通に大嫌いではあるが。
ただこの嫌悪もゴキブリのとかのそれに近いと思う。
「僕がモルガンを殺したのは隠蔽のためだ。そこは勘違いしないでくれ」
「勘違いした方が良いだろ」
「全裸で東京を走りたくないから殺す方がよっぽど駄目じゃないかしら?」
「しかも結局、約束履行したんだから完全に無駄死にじゃないかモルガン」
「履行したのかしら? この東京偽物だし」
本物と遜色ないなら実質本物だろう。
あとモルガンに関してはしょうがない。
「だってあの時は本気で嫌だったんだもん」
「それが騎士のやることか」
「おや、TPOという言葉をご存じでないのかな?」
昨日坊野と共に訪れたレストランと同じだ。
時と場合に合わせて装いを変えるのは当然のことだろう。
「友に対しては騎士でありたいがモルガンに対してはそうではないというだけの話だよ」
だから殺った。
誤解しないで欲しいのはあそこがアヴァロンだったからというのもある。
法治国家内であれば流石の僕もその場で殺りはしなかった。
法の光が届かないアヴァロンだったからこそ殺れたのだ。
「相手によって対応変える奴が騎士であってたまるか」
「これが騎士の王と称された男の姿なの?」
「今でも数多く居るアーサー伝説のファンにコイツがアーサー王ですって紹介したら泣きそうだよね」
相手によって云々は祓主にだけは言われたくない。
あとテュポーンと道無の言にも反論させて欲しい。
そんなアイドルはトイレに行かないみたいな幻想を押し付けられても困る。
「僕とて人間だ。トイレにも行くしゲロだって吐く」
「「「吐くまで飲むな」」」
「ああ言えばこう言う……今どきの若い者はこれだから。あ、テュポーンはそうでもないか」
「ああ言えばこう言うのは貴様もだろ」
「典型的な老害文句じゃないか」
「あなたよりは若いわよ。あなたなんてもう化石じゃない」
女三人寄ればというがこうも口が達者だと男は立つ瀬が……。
「「「「ッ!」」」」
全員が弾かれたように同じ方向に視線をやった。
僕だけではなく彼女らも気付いたらしい。
「新しいお客様みたいね」
「ああ。だがこれは」
祓主の目がすっと細められる。
言わんとしていることは僕らにも分かっていた。
「何というか……いやもうハッキリ言うけど邪悪な気配じゃない?」
道無の言葉に頷き僕の所感を述べる。
「魔女だな。あのロクでもないモルガンと似たものを感じる」
術者タイプの狡知に長けたロクでなし。
しかも、
「テュポーン。君ともやり合えるレベルじゃないか今回の客は」
「そうね。私の方が何枚か上回ってはいると思うけれど」
僕や祓主、道無に比べれば十分現実的な範囲だろう。
ゴリッゴリの脳筋タイプならまだしもテクニカルな術者なら尚更だ。
謀略と多種多様な術を以ってすればこの小さな怪物ですら危ういのではなかろうか。
テュポーンも術の類は多く使用出来ると思うがこちらはオールラウンダー。
全方位に隙なしの万能系だから同格に近い特化タイプともなれば……。
「一応聞くが貴様ら、遭遇出来そうか?」
「無理ね。初期のあなたたちと同じで見えない壁を感じるわ」
僕と道無もテュポーンの言葉に頷く。
「……チィッ」
「マヨヒガに招かれた以上、悪いことにはならないんだろうけどさ」
「こうも露骨に邪悪な気配だと警戒はしてしまうね」
まあマヨヒガの力があればもし客人が強行に出ても問題はなかろう。
何なら量産型テュポーンでも製造してやれば良い。
「会えはしないけれどその顔ぐらいは拝んでおこうかしら」
ふとテュポーンがそんなことを言い出した。
そして何やら複雑怪奇な術式を発動すると宙に映像が投影された。
セミロングの黒髪を風に泳がせる柔和で整った顔立ちの女。
シックな装いと口元の黒子で清楚ながらもどこか色気のある美人という感じだが……。
「ん゛あ゛ぁあああああああああああああああああああああああ!!!!」
「「「何だ急に」」」
「無理無理無理。やっぱアレモルガンと同タイプだ!」
アイツもそうなんだよ。パッと見は清楚な美人なんだ。
でも中身が地獄のウンコなんだ。
嫌な記憶がこれでもかと脳内を駆け巡っている。走馬灯もビックリの速度だ。
「さ、酒……酒を! 酒を飲まずにはいられないッッ!!」
「「「あ、アル中……」」」
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