今こそ僕は僕の罪を語ろう
半月ほど前から始まった新たなマヨヒガでの暮らしは実に充実したものだった。
これまでも楽しくやっていたが東京というかつてない大都市であることとネット環境があるのは大きい。
まあネット環境については現世のそれと繋がっているわけではないようだが問題なし。
『……一応、君にも情報共有はしておくけれど』
道無などはマヨヒガにおけるネットの仕組みなどを深刻に捉えていたようだが僕は気にしていない。
ネットだけでなくそもそも論としてマヨヒガ自体に対してだ。
こんなことが出来てしまう、露呈すれば、悪用されれば。
あの三人はあれやこれやと考えているようだが僕は違う。
僕も当初は気にしていたが、
『結局のところこの領域の主は坊野なのだから問題はあるまい』
陳腐な文句になるが力は力でしかなく使う人間次第なのだ。
坊野という人間を信じているのであればそれで良いと結論付けた。
とは言えだ。だからとてあの三人が坊野を信じていないとは言っていない。
あれはあれで愛する人のことだからついつい心配してしまうのだ。
「羨ましい話だ」
ギネヴィアとモルガンの件があるし恋愛など金輪際御免だ。
僕には友と酒があればそれで良いと思っている。
が、それはそれとしてああも真っ直ぐ想われること自体は羨ましくも思う。
女としてはどいつもこいつもロクでもないが想いだけは僕も認めている。
「……いや道無の場合は女と言えるのかあれ?」
テュポーンと旭は女と認識しているが僕には男にしか見えない。
絡繰りは既に聞いているがそれでも尚、認識が揺らがないあたり奴も何者なのか。
マヨヒガの前に自分についてもう少し調べてみるべきではなかろうか。
つらつらとそんなことを考えながら待っているとようやく坊野がやって来た。
「やあ、待たせたな」
「何、気にすることはない。僕が少しばかり早く来過ぎただけだからね」
言って気付く。これではまるで坊野が描いている漫画の登場人物のようだなと。
露呈すればまたぞろ面倒な女に絡まれるので彼が一人で本当に良かった。
「悪いな。付き合ってもらって」
「何の友の誘いさ。よっぽどのことではない限りは付き合うとも」
今日は珍しいことに坊野からの誘いなのだ。
現世でもマヨヒガでも二人で何かする時は僕からというのが常である。
言っておくがうざがられているわけではない。単純に彼が受け身というだけの話だ。
「しかし取材というなら僕よりも祓主の方が良かったんじゃないか?」
今日は僕も彼もフォーマルを身に纏っている。
向かう場所がかなり格式のある高級レストランだからだ。
曰く、
『折角東京を再現したんだし普段行けないようなとこを見てみたいなって』
とのこと。漫画の参考資料にしたいそうだ。
「いやほらアイツって基本、俺に全肯定じゃん?」
「まあそうだね」
ED疑惑を吹っ掛けられたりと時たま無礼を働いているようだが基本はそうだ。
坊野的にそれではダメらしい。
「作法に不備があれば厳しく指摘して欲しいのよ。やっぱ資料にする以上はね」
「自らがしっかりと身に着けてこそ、か」
「そうそう。じゃないと薄っぺらくなっちゃう。そういう意味ではテュポーンもありっちゃありなんだが」
確かに彼女もレベルの高い行儀作法を身に着けているだろう。
厳しく指摘を頼めばその通りにもしてくれる。
「……けど見た目がなあ」
「……まあ完全に女児だからね」
女児にビシバシというのは気恥ずかしいだろう。
「で、零はあんまりそういうの知らなさそうだし」
「まだ若いしね」
「その点、アーサーは違うじゃん? マヨヒガに来た時から何気ない所作も洗練されてたし」
今では現代知識もあるから完璧だと太鼓判を押され少し照れてしまう。
まあ実際、その通りではある。
昔と今では行儀作法にも違いはあるが根本的な理念は変わっていない。
根っこの部分を意識しつつ僕もしっかり現代に合わせてアップデートはしている。
「嬉しいことを言ってくれる。では今宵は君を完璧にエスコートしてみせよう」
「はは、じゃあよろしく」
「うん」
肩を並べて予約していた店へ向かった。
完璧に模倣されているせいだろう。
マヨヒガによって再現されたと分かっていても坊野は入店の段階でもうかなり緊張しているようだった。
食事が届き始めてからは更に、だ。
「動きが不自然だね。ぎこちなさがありありと見て取れる」
「う゛……す、すまん」
「習った作法通りにという意識が強過ぎるんだ」
その心掛け自体は悪いものではないが、
「拘泥するあまり逆に見苦しさが増している。
それなら多少作法から外れていても自然体の方が見る者を不快にさせることはないかな。
だってその有様じゃ味もロクに分からないだろう? シェフに失礼だよ」
言われた通り遠慮なく指摘を入れていく。
坊野はなるほどと熱心に僕の言葉に耳を傾け自分なりに取り入れようとしている。
教わる側の姿勢がちゃんと出来ているのは高評価だ。
「うん。良い感じ。百点ではないけれど硬さが取れて来た。六十点ぐらいかな?」
「はは、サンキュ」
和やかに、緩やかに食事が進む。
ふと見れば坊野は不思議そうに僕を見ていた。
「どうしたんだい?」
「いや、そういうのも美味しそうに飲むんだなって」
「ああ……まあ、安酒の方が僕の好みではあるよ?」
シン・エクスカリバー以外では大体、ビールやハイボールだからだろう。
実際そっちの方が好きではあるが偶にならお高い酒精も嗜みはする。
「そうだ。資料にというならこういう酒の蘊蓄でも語ろうか?」
「お! 良いねえ。是非頼むよ」
「よし来た」
楽しい。本当に楽しい時間だ。
僕に命をやり直す切っ掛けをくれた大恩人にして一番の友と酒を酌み交わす。
改めてこの時間の貴さを痛感したがゆえ思うのだ。
「よーし! 取材もバッチリ出来たし今度は居酒屋で普通に呑み直すか! なあ!?」
レストランを出で少ししたところで坊野が僕の肩を抱き言った。
ここから更に素晴らしい時間が待っているのは明白だが、
「ど、どうしたよ?」
黙り込む僕を見て不安そうに語り掛ける。
心配してくれているのだろう。だからこそ。ああ、だからこそだ。
この罪を清算しないことには本当の意味で前に進めない。
最初は気にもしていなかったのに時間が経つにつれ……性質の悪い毒のようだ。
「坊野」
「お、おう」
「今こそ僕は僕の罪を語ろう」
言ってその場で服を脱ぎ捨て全裸になる。
息を大きく吸い込み足に力を込め、
「ごめーん! 全部君の言う通りだった! あの糞女、僕に惚れてたぁああああああああああああ!!!!」
「え、あ、はぁ!?」
夜の東京(偽)を全力で駆け出した。
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