客人 限界OLなラスボス⑦
(いやそこ本題ではないのだけど……)
まあ直ぐに済ませてしまえば良いか。
「そう。学校の話よ」
「えぇ……?」
「185、90、オーバー。これ何の数字だと思う?」
「わ、わかんない」
「それがうちの女子生徒女の身長、バスト、ヒップの平均的な数値よ」
「嘘だろ!?」
「残念ながら真実よ」
そして教職員含む男性の異性の好みは胸もお尻も身長もデッカイ女で統一されていた。
あの修羅の国で私だけが異端だった。
排斥されていたわけではない。むしろ可愛がられていた。
男子からも女子からもお菓子やジュースを貰ってたし。
幼い弟妹を見るような慈愛の目は今でも思い出せる。
「そんな状況で私みたいなのがモテるわけないでしょう?」
「……」
「ああでも誤解しないでね? 異世界の人間が皆、そうというわけではないから」
あくまで私の母校の平均値が狂っていただけ。
という言葉は聞こえていなかったようで彼は大きく目を見開いていた。
「いせ、かい?」
「そう。私はおじさまが暮らす世界とはまったく異なる場所からやって来たの」
「そ、それは」
「信じられない?」
少しの逡巡の後、彼は小さく頷いた。
当然の感性だろう。私が彼の立場なら同じようなリアクションになっていたはずだ。
「でも、これも事実」
改めて名乗りましょう。決意と共に私は続ける。
「私の名はテュポーン」
「テュポーン? 何かどっかで聞いたような」
「ギリシャ神話に出て来る怪物の名前と同じね」
でも偽名ではない。
生まれた時に貰った名前は捨てたのだ。
「人類を滅ぼすと決めた時にね」
「……」
「これもやっぱり信じられないかしら?」
先ほどより長い沈黙が続く。
彼は食べかけのおにぎりを平らげお茶で喉を潤すと小さく首を横に振った。
「いや信じる。異世界の存在も。君が人間を滅ぼそうとしていることも」
嘘の色がまるで見えない。
そう思ったからどれだけ非常識なことでも信じると彼は言った。
「その割には落ち着いているのね」
「初対面の時ならまたリアクションは違ったかもな。だが俺は多くを知らないながらも君に触れた」
私という人間に触れたから直ぐには態度を決められないという。
「怖がるのも嫌うのも全部、話を聞いた後にすべきだと思うぐらいには俺は君を良い人だと思っている」
「……買いかぶりよ。でも、嬉しいわ。心の底から」
だが話を聞いてくれるというのならありがたい。
でも一から語れば長くなるから一先ずご飯を食べてからにしましょう。
私がそう提案すると彼も頷き、以降は無言の食卓となった。
取り立てて急ぐこともなく互いに自分のペースで食事を続け一時間。
洗い物を済ませ熱いお茶を用意したところで改めて会話を再開した。
「ねえ。おじさまの地球に国家はどれだけ存在しているのかしら?」
「俺あの……しゃ、社会科は苦手で地理も……あ、アメリカ中国ロシアイギリス他には……えっと」
本気で動揺しているあたり本当に苦手なのだろう。
でも別に問題ない。恐らくは存在するであろうと思っていた大国の名前が出たのなら十分だ。
「そう。色々な国があるのね」
でも私たちの地球には存在しない。
「だって地球そのものがなくなってしまったから」
「……う、宇宙人?」
地球がなくなった。過去形。でも私は生きている。
ならば別の星とかそういう思考を辿った末の言葉なのだろう。
動揺の中で導き出されたものだが、ある意味間違いではない。
「日本人よ。まあ今私が暮らしている日本列島は宇宙のどこかにあるのだけれど」
「ど、どういうこと?」
「文化的類似もあるし私たちの地球もおじさまの地球とどこかの地点までは同じような歴史を辿っていたのでしょう」
だが西暦二千年。ミレニアムと呼ばれた年に決定的な破綻が訪れた。
夢の永久機関の完成が発表され、衆目に晒された際に異変は起きた。
動力炉の暴走により大規模な空間異常が発生し地球はバラバラになったのだ。
日本列島も地球の位置さえ分からないほど遠くの宇宙に放り出された挙句現地の惑星と融合してしまった。
「そこで皆死に絶えていてもおかしくはないのだけれどそうはならなかったわ」
不思議な力が働き当時日本に居た人間たちは皆、無事だった。
空間異常の影響で発生した力場がバリアのような役割を果たしたというのが大方の見解だ。
とんでもなく酷い状況だが本当の最悪は寸前で食い止められたと言えるだろう。
人間というものは逞しいものでそこで生きていくため彼らは新たなスタートを切った。
「ご先祖様たちの頑張りのお陰で私が生まれる少し前にはもう、安定した生存圏が確立されていたわ」
「……そりゃ良かった」
「それがそうでもないのよ」
「え」
「私が高校時代の話をしたように日常は完全に取り戻せていたと思う」
失われた二十一世紀をやり直すというスローガン通りに平穏な暮らしが出来ていた。
「けどそれは表面的なものでしかなかったのよ」
そして困ったことにその異常に気付いている者はゼロ。
いや異常どころかその存在を認知している者すら当時は誰一人として居なかった。
「異常が出ていたのは目には見えない理。生命循環システムとでも言うべきものでね」
そこに不可逆の破綻が始まっていたのだ。
「……循環システム?」
「人が死ねば肉は土に還る。ならば魂は?」
「え、えっと」
「ごめんなさい。意地悪言っちゃったわね」
魂が存在するかどうかも分からないような認識の彼には酷だろう。
だが少なくとも私の世界では存在したし、私が見る限り彼にも魂はあるのでそういうものと納得してもらう。
「海をイメージすれば分かり易いかしら。死ねば魂は大きな生命の海に溶け漂白されるの」
そうして漂白された魂がまた新たな肉の体に宿り命は廻っていく。
それが生命循環システム。そんなものに異常が出たらどうなると思う?
「ど、どうなるの?」
「私がその一例よ」
「君が?」
「私、幾つに見える?」
「……十一、二歳。いや実年齢は下手すりゃ俺より上っぽいとは思うけど」
「そうよ。こう見えて私、アラフォー……あ、そういう言葉存在する?」
「アラフォー!?」
あるらしい。小さく笑い私は続ける。
「そう、実際に私はそれぐらいの年齢で肉体の時間が止まってしまっているの」
個人差はあるが老いは確実に緩やかになっていた。
「重篤な人間は肉体面だけでなく精神面にも影響が及んでいるわ」
私も多少なりとも時間を重ねてものの道理は理解していると思う。
大人として恥ずかしくない振る舞いは出来る。
けど根本的な部分では私は子供のままなのだ。
「私があなたをおじさまと呼ぶのは子供の振りをしているからだけではないの」
「……大人、自分よりも成熟した存在だと俺を認識しているから?」
「その通り。私にとっておじさまは大人の男性という認識なのよ」
実年齢で言えば私の方が上にも関わらず、だ。
「ならシステムとやらの影響で君の世界の人間はいずれ心身共に不老不死にでもなるってことなのかい?」
「YESでありNO、と答えるべきかしら」
老いなくなるというのならばNO。
不死というのならばある意味でYES。
「うん? 老化の停滞が重篤化すれば不老になるんじゃないのか?」
「いいえ。老いが緩やかになるのは一時的なものよ」
たまさか異常が人にとってのプラスになる時期があるというだけ。
いずれは正常な老化が戻って来る。そしてそれが最悪に繋がるのだ。
「結論から言いましょうか」
システムの異常といずれ訪れる破綻。
その果てにあるのは、
「――――人間は死ねなくなるの」
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