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坊野さんが再現した東京は恐ろしいほどに正確だった。
僕が真っ先に向かったのは自宅マンション。
壁の染みや小さな傷どころか地縛霊まで再現されていたのだから驚きだ。
ならば次はと思ったところで驚くべきことに電話がかかって来た。
マヨヒガ内では電話やネットは繋がらないはずなのに、だ。
『……ああ、やはり通じたか』
電話をかけて来た祓主は半ば呆然とそう言った。
何となくスマホを起ち上げたところ電波が入っていたので試しにやってみたらしい。
この時点でもうかなり嫌な予感はしていた。
『とりあえずこちらの報告をしておく。最初に懸念していたことはズバリ当たっていた』
超人の完全複製。祓主家の当主レベルの実力者ですら完全に再現出来てしまう。
最早、笑うしかないだろう。
通話を終えた僕は自分の裏関係の知り合いも一応、確認してみることにした。
結果は分かっているが念のためだ。
その道中、祓主から電話がかかって来たことで生じた新たな疑問を確かめてみたのだが……。
『これ、どうなってるんだ?』
ネットである。問題なく繋がった。
ニュースのコメント欄や掲示板などを確認してみれば匿名の誰かがリアルタイムでレスバをしている。
こちらと現世の時間軸は今、乖離しているので現世のそれを反映しているわけではあるまい。
『……精緻極まるシミュレートの結果?』
だとすれば、だとすればだ。これは酷く恐ろしいことだと思う。
特別でも何でもない有象無象の人間の思考を一人一人シミュレートする。
一体どれほどの演算能力が必要になるのか。
それを何なくやってのけるのは超人の模倣よりも恐ろしい。
だってそれはつまり、
『極めて確度の高いワールドシミュレートも可能ってことだよね』
現世でこれから何が起こるかさえ予測が出来るということなのだから。
規格外が過ぎる。これは最早、神の所業だろう。
『マヨヒガを創造したと思われる坊野さんのお祖父さんは実際に神だったようだけど……』
その当人ならぬ当神ですらここまでのことは出来まい。
創造主すら凌駕し成長し続ける異界。
何故お祖父さんはそんな出鱈目なものを創ったのか。何故孫に託したのか。
孫可愛さもあるだろうが決してそれだけではあるまい。
日記の記述から推察するにそうする必要があったから。
『だとしても何が原因になればこんな出鱈目な異界が必要になるっていうんだ……?』
薄ら寒いものを感じつつその日の検証は終わった。
結果はまあ言うまでもないだろう。
東京は完全再現されていた。これに尽きる。
「じゃ、検証も終わったし後は各自次の環境変えまでご自由にお過ごしください。解散!!」
「よし。なら僕はアーサーブランド設立に向けたリサーチに勤しむとしようか」
「飲み歩くだけじゃないの」
「意識高そうなこと言ってるが騙されんぞ」
「ビールフェスのチラシが見えてるんだよねえ」
奴は平常運転だとして、だ。
「ねえ坊野さん、今回の住居はどうするの?」
「お、よく聞いてくれたな」
あ、これまた妙なこだわり発揮されるパターンだ。
「折角だし今回は決まった住居は持たないことにした」
「と言いますと?」
「序盤はホテル攻め。都内のビジホ、ラブホを転々とするつもりだ」
「……そこは高級ホテルとかではないの? 都内だし幾らでもあるでしょう?」
それこそ国賓が宿泊するようなホテルのスイートでも泊まり放題だろう。
テュポーンの言葉に坊野さんはそれも悪くないがと頷きつつも違うんだよと否定する。
「だってそういうとこってサービスもやべえだろ絶対。ずっと居たくなっちゃうじゃん」
最初は楽しみつつ飽きと共に次へ向かう。
そういうパターンを構築したいのだという。
「飽きて次へ向かうってことはギャップで次がより楽しめるからな」
じゃ、そういうことでと坊野さんはタクシーを拾い去って行った。
(どうするかな)
坊野さんの住居の近くで暮らすつもりだったが定住しないならそうもいかない。
一緒に行動をするのも楽しくはあるだろうけどずっととなるとね。
ずっと付き纏われるのも困るだろうし、僕も飽きちゃう。
好きな人と一緒とはいえ趣向まで同じってわけではないのだ。
(自分のマンションに……いやでもそれは流石にないな)
勝手知ったる我が家が存在するとはいえだ。
東京で自由に暮らして良いと言われたのにまったく変化がないのはどうだろう?
坊野さんほどの妙なこだわりはないが変化が欲しいのも事実。
「祓主はどうするの? 実家?」
「何故、わざわざカスの書き割りと一緒に生活せねばならんのだ」
「じゃあ一人暮らしをしているお部屋?」
「それもつまらん。というかそういう貴様らはどうなんだ?」
「僕も自宅はないかなって」
「私もイマイチ。選択肢が多過ぎるもの」
うんうんと三人で唸ることしばし。
「「「あ」」」
思いつく、というより思い出す。
「「「……」」」
まさか、コイツらもか? いやでもまだ分からない。
もし気付いていないなら口に出すわけにはいかないので無言で走り出す。
駆け出すタイミングも同じだった。
そして、
「「「……チッ」」」
辿り着いた場所も同じだった。
僕らの視線の先には何の変哲もない三階建てのアパートがある。
住居のランクとしては僕が暮らしているマンションのが圧倒的に上だろう。
だが僕はここに住みたい。
何故ならこのアパートの311号室はかつて坊野さんが暮らしていたところだから。
(坊野さんから聞いて知ってたのかマヨヒガにナビしてもらったのか……まあどっちでも良い)
ベランダを見るに空室のようだし問題なく住居に出来る。
具体的に言うとマヨヒガに頼んで坊野さんが暮らしていた時の部屋を再現してもらうのだ。
好きな人の知らない部分を少しでも多く知りたいというのもあるが、
(……疑似同棲気分を味わえそうだしね)
だというのに恋敵という名の邪魔者が二人も。
「マヨヒガよ! 勝負の内容が書かれたくじ引きを頼む!!」
祓主がそう叫ぶと穴の空いた箱が出現する。
それぞれが一度くじを引いての三番勝負。
揉めたらこれでいこうというのが僕らのルールなのだ。
「順番的に次は零お姉さんが一番目よね?」
「時間が惜しい。さっさとやれ」
「一々刺々しいね君は……よし、これだ」
引いた紙を開いてみると、
「「「……パチンコかぁ」」」
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