そこに優劣はなく
追記
ご質問があったので補足しておきますと投稿の順番は間違ってないです。
これから話を進めて前話の時系列に辿り着くような感じになります<m(__)m>
正直、あの合法ロリに任せるのは業腹ではあった。
しかしじゃんけんで負けたのだからしょうがないと我慢して待つこと数日。
ようやっと先生はご帰還なされたが普段とはどこか雰囲気が違う。やっぱり何かあったらしい。
だが詳しく聞くつもりはなかった。先生がそうしてくれたように話したくなったらその時、聞けば良いのだ。
「……アーサーお前、料理出来たんだな」
「現代で目覚めてから二十年以上一人暮らしをしていたからね」
そして昼。私たちはアーサーの作った食事を摂っていた。
普段は私かテュポーンで作っているのだが偶には僕がと名乗りを上げたのだ。
恐らくコイツなりに先生に気を遣った結果なのだろう。
「ワイン、日本酒、ビール、酒に合う料理は大体作れるとも」
「まあメニューからしてそんな気はしていたわ」
チンジャオロース、エビマヨに麻婆豆腐、油淋鶏など奴が作ったのは日本ナイズされた中華料理。
味は悪くないのだがどれも
作った人間が真正のアル中なのでそうだろうなとしか思えなかった。
現に奴は真昼間からビールに紹興酒、ハイボールなどをチャンポンしているし。
「自分の舌を満たすなら自分で作るのが一番手っ取り早いのさ」
ただ、とアーサーは溜息を吐く。
「そろそろ僕も次の段階へ進む時が来たのではないかと思っている」
「次の段階?」
「そう。好みの酒に合う料理を作っていたのがこれまでの僕だ」
それで良いと思っていた。だがそれは甘えなのではないか。
悩まし気に語るアーサーだが私は心底どうでも良かった。
テュポーンと道無の奴も同じような顔をしている。真剣に耳を傾けているのは先生だけだ。お優しい。
「こうして坊野と時を経て再会を果たせたのだし足踏みする時間は終わらせるべきだ」
「というと?」
「――――酒造だ」
ああ、やっぱりどうでも良い話だった。
「僕にとってのベストは友情の一杯エクスカリバーだがそれはそれ。これはこれ。
東西問わず不動の一位は揺らがないからこれはもう殿堂入りで除外で良いだろう。
だから新たに至高の一杯を除く一位に成り得るものを造ろうかなと思っている。
現世でやろうとすれば色々と面倒だがここに酒税法は存在しないからね」
本当にロクでもないなコイツ。
「これまでも合法の範囲で梅酒なんかは作ってたけど本格的なものをとなるとね」
「資格とか居るんだっけか」
「ああ。酒類製造免許、乙四やボイラー技士、他にも色々と必要だね」
アーサー王が乙四とか口にするのはあまりにもシュールが過ぎる。
道無などんっふ、と軽く噴き出しているではないか。
「というわけで坊野、次のマヨヒガでは酒造に必要な設備を用立ててもらっても良いだろうか?」
「別に良いけど設備があってもそう簡単に作れるのかよ?」
「作れないだろうね。必要な知識はあるがそれでも完璧ではない。何度も失敗するだろう」
だがそれが良い。
試行錯誤を繰り返して造り出すことが楽しいのだと奴は笑う。
そこが先生の琴線に触れたのだろう。そうだな。分かる、分かるよと何度も頷いている。
「OK。じゃあ用意させてもらうよ。その代わりと言っちゃ何だが」
「フフ、分かっているとも。出来上がったら一緒に飲もう」
「それもだが過程の品も楽しみたいな」
「ならば試飲役も頼もうかな。ああ、友と酒造りというのも楽しそうだ」
何だコイツムカつくな。
「ちなみにまずは何から手をつけるんだ? 日本酒と洋酒じゃ必要な設備も違うよな?」
「良い質問だ。とりあえず日本酒は後回しにするつもりだよ」
まずはビールから手をつけるとのこと。
「ただ方向性で迷っていてね。さっきは次のマヨヒガでと言ったが決まってからお願いして良いかな?」
「そりゃ構わないが方向性って?」
「まず大枠であるノーマルなビールとクラフトビール、どちらにするかで悩んでいてね」
「……?」
「ビールはビールでしょう?」
テュポーンがそう質問するとアーサーはやれやれと肩を竦めた。
洋画に出て来る陽気な外人みたいなリアクションみたいで軽くイラっとした。
「ここで言うノーマルはいわゆる大手メーカーが出しているようなものだね」
「ああそういうことね。ようは」
「人の解説を取るのは止めてくれ」
僕は語りたいんだとテュポーンの言葉を遮った。
何だコイツ。
「大手メーカーの方向性と強味は何か。前者は普遍性だ。
より多くの人に受けるよう安定志向、悪く言えば無難な味になっている。
そして強味は大量生産ゆえのお手頃価格と購入のし易さ。
大手のビールはコンビニなんかでも簡単に買えるだろう? あれは実に素晴らしいことだ」
いやもう大体察してる。
うんうんと相槌を打ってくれてる先生だって多分同じだ。
オタクというのは何故こうも語りたがるのか。
「一方のクラフトはその真逆だ。価格や入手の容易さではノーマルに劣ってしまう。
だが多様性という面ではクラフトに軍配が上がる。
中にはげてものなんじゃないかと首を傾げるようなものもあるがそこが良い。
より多くの人間を標的にしているがゆえ付き纏う制約から解き放たれ冒険出来るということだからね。
尖った部分が刺さればその感動は普通のビールのそれとは比べ物にならない」
だが、と奴はそこで強く言葉を区切った。
「勘違いしないで欲しい。決して優劣ではないんだ。総合的にどちらが上かなんて議論は無意味だ。
方向性が違うというだけでどちらも素晴らしいことに変わりはないのだから」
愛だな、と頷く先生。愛だよと微笑むアーサー。
通じ合っている感がこの上なく妬ましい。
「そういうわけで方向性によって設備も変わるから決まるまで待って欲しいんだ」
「了解。次のマヨヒガは馬鹿っ広いし遠慮なく言ってくれ」
「あ、次どうするかもう決めてるんだね」
「ああ。ちょいと検証実験を行おうと思ってな」
検証実験? という言葉に首を傾げる私たちに先生は続ける。
「ほらちょっと前にマヨヒガ成長しただろ? だからどこまでやれるのか一度試してみようと思ったんだ」
「ああ、それは確かに必要なことだよね。でも具体的にどうするの?」
「東京を完全再現してみようと思うんだ」
建物だけでなく人も含めて。
その言葉に驚いたのは私だけではないだろう。
「……人も? 出来るの?」
「まあ実際本物の人間が生成されるわけじゃないと思う」
以前の地方都市の歓楽街に居たモブと似たようなもの。
異なるのはオリジナルが存在していることと、オリジナルのパーソナルな部分まで再現出来るのか。
「ついては、だ」
先生の視線が私と道無に注がれる。
「検証の協力ですね?」
「ああ。二人は東京に住居があって知り合いも居るだろ?」
「加えて裏関係の人間なんかはどう足掻いても坊野さんが知り得ないことだからね」
再現性を確認するという意味では打ってつけだろう。
喜んで協力させてくださいと胸を叩いた後で気付く。
(……あれ? これ宗教起ち上げてるの露呈するか?)
いや黙っていればバレないだろう。
(念のためコピーされた屑どもにしっかり言い含めておかねば)
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