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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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邪悪な野望

「坊野に直接言わず言伝を頼んだのは気まずいから、か?」


 しばしの沈黙の後、アーサーさんがそう切り出した。

 あの男の態度を見ればあながち間違っているようには思えない。


「まあでもわざわざお礼を言いに戻ったってことは良い結果を得られたってことなんだろうけど」

「あちらが勝手に気まずく思っているのか双方共に気まずい何かがあったのか」


 もし後者なら先生が心配だと旭お姉さんがそわそわし始めた。

 私も正直、後者の可能性が高いと思っている。

 新しい客人が訪れてから去るまでおじさまが一度も私たちに会いに来ていないのだ。

 何かあったのではと考えるのが自然だろう。


(物理的に害が及ぶ心配なはいのでしょうけど)


 仮におじさまに害を成す者が現れたとしてこの世界では絶対に不可能だ。

 管理者に危害を加えようとすればマヨヒガも容赦なく外敵認定し攻撃を解禁するだろう

 マヨヒガという領域の強度を考えればお釈迦様の掌で踊るお猿さんのようなもの。

 おじさまがマヨヒガに命じれば私ですら成す術なく一方的にやられるだけ。

 なので身の安全は心配していないが心の方は別だ。


「「「「……最初はグー! じゃんけんポン!!」」」」


 それは他の三人も同じようで視線を交わすと即座にじゃんけん開始。

 勝ったのは私だった。


「じゃあ私が様子を見に行くわね」

「……チッ。先生を頼んだぞ」

「言われなくても」


 マヨヒガを出て山に踏み入る。

 未だ悪天候に晒される険しい山中だが生憎と私は怪物。強風だろうが豪雪だろうがお構いなしだ。

 ぴょーんぴょーんと跳ねるように山を駆け上がり山小屋へ到着。


「おじさま」


 段差のある板張り部分に腰掛け土間中央のストーブに手を翳すおじさまに声をかける。


「あー? テュポーンか」


 一目見て分かった。精神状態がよろしくないと。

 突然やって来た私にもさしてリアクションを見せないどころか視線すら向けない。

 その横顔は何にかは分からないが酷くうんざりしているように見えた。


(色々考えていたけれど)


 崩天が訪れたことをどう伝えようか。

 怒っていたのならどうしようか。

 悲しんでいたのならどうしようか。

 道中、状況に適した対応をあれこれ頭の中で練っていたが、


(――――全部却下ね)


 一切合切を破却した。

 貸与されているマヨヒガの権能を用いて並々水が注がれたバケツを二つ形成する。

 そして、


「えい!」

「ぎゃあ!? 何しやがるお前!?」


 ストーブにかからないよう気を付けておじさまだけに水をぶち撒ける。

 続いて、


「えい!」

「ぎゃあ!? 何しやがるお前!?」


 もう一つのバケツの水を頭から被る。

 突然の凶行に慄くおじさまの下へ歩み寄り、


「何てこと! こんな極寒の中で衣服を濡らしてしまうなんて!!

いけないわ。これはいけないわ。こういう状況では逆に服を着ている方が危険だもの。

低体温症や凍傷のリスクを避けるためにも今直ぐに服を脱がなきゃ!!」


 おじさまの服を全て剥ぎ取る。一応、下着だけは武士の情けで残してあげた。

 そしてすかさず私自身もぽぽーんと服を脱ぎ捨てる。

 生まれたままの姿で新たに形成した大きな毛布をマントのように羽織りそのままおじさまの背に抱き着く。

 何だこの狂人は!? みたいな顔をしているおじさまは成すがままだった。


「お、おま……おま、何を……」

「私、知ってるの」

「は?」

「心が荒んだ時は誰かの温もりが必要だって」

「ぁ」


 あの日も、そうだった。

 雪の夜。小さな四畳半。ストーブがあったし布団の中には湯たんぽもあった。

 それでもどうしてか寒くて寒くて添い寝をしてくれていて優しい人を布団の中に引き込んでしまった。

 抱き着き胸に顔を埋めると温かくて温かくて私は直ぐに眠ってしまった。

 あの夜の安心感を私は生涯、忘れることはないだろう。


「「……」」


 微かな家鳴りと強い風の音だけが聞こえる小屋の中。

 一つの毛布に包まり私たちは温もりを分かち合った。

 十分、二十分、沈黙が続く。そうしてどれだけ時間が経ったか。


「……何っ、かさあ」

「うん」

「いっつもそうなんだ俺って」


 おじさまはぽつぽつと語り始めた。

 いまいち要領を得ないけれど別に構わない。


「やらかした後で後悔する。自分を咎めるだけならまあ良いけどさ」


 誤解しないでね。おじさまを理解したくないわけではないの。

 今はただ誰に伝わることがなくても吐き出すことが大事だと思ったから。


「責任転換しちまう。勝手に裏切られた気になって」


 小さく相槌を打ちながら話に耳を傾ける。


「いやお前、どんな理不尽だよって話。相手からすればな」


 そこまで言っておじさまは大きく息を吐いた。

 そして毛布の中で私の手を取り位置を前に移動させる。

 後ろから抱き着いていたのが向き合うように変わった。

 身長差で自然と見上げるような形でおじさまと視線が交わる。


「テュポーン」

「なぁに?」

「ありがとうな」

「どういたしまして」


 少し持ち直したようで安心した。

 けれど完全にというわけではないのだろう。

 もしそうなら服を着て場を仕切り直していたと思うから。

 きっとまだ温もりを求めているのだ。ならば望むだけこうしていよう。

 何時かそうしてくれたように、私もそうしてあげたい。


(……まあ私自身、おじさまを感じていたいからというのもあるのだけれど)


 胸に頬を寄せる。

 とくん、とくんという鼓動が愛する人の命を伝えてくれる。

 寒いけれどこの上なく温かい。


「お前さあ」

「なぁに?」

「男の趣味、悪いよな」


 おじさまはそこまで鈍い人間ではない。

 だからまあ、私の好意にも気付いていたのだろう。

 言及しないのはこちらが直接言葉にしていなかったからだと思う。

 現に零お姉さんは一度、振られてるみたいだし。

 まあそれは織り込み済みで改めて関係を始めるための告白だったみたいだが。


「そんなことはないわ」


 私にとっては世界一素敵な殿方だもの。

 良い機会だ。私も一度、しっかりと言葉にしておこう。

 あらん限りの想いを込めて私は告げる。


「好き。大好きよ。愛してるわおじさま」

「……ありがとよ」


 ギュっと強く抱き締められる。


「今、答えを言うのは野暮だな」

「フフ、そうね」


 零お姉さんと同じように振られるのは分かっている。

 それで構わない。私も改めてスタートラインに立つために告白したのだから。


(それにしても……これだけ密着してもまるで反応なしとは)


 そういう空気でないにしてもこれが旭お姉さんや零お姉さんならまた反応は違ったはずだ。


(おじさまの心を奪うより性癖を植え付ける方が難易度高そうね) 


 ロリコン化計画の成就はこの山よりも険しかった。

 まあ諦めるつもりは毛頭ないのだけれど。


「……う、急に寒気が」

「あら大変。ならもっとくっつかないと」


 改めて誓いを立てよう。私は必ずおじさまをロリコンにしてみせる。

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
凍えそうだから、冬のせいにして温め合うんですね(西川感 最後のそれは対面・・・ ついに告白出来ましたね。 頑張れ。
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