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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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73/90

いざセルフ遭難

「んふぅ……おじさまの匂いに包まれて目を覚ます。最高の朝ね」


 朝。私はおじさまの布団の中で目を覚ました。

 夜這いをかけたわけではない。流石にそれは順序を飛ばし過ぎ。

 単に不在の部屋で寝起きしたというだけの話である。

 というのも、


『山が俺を呼んでいる』


 と言って登山へ行ってしまったからだ。

 行く前に仔細を聞いてみるとまあ……何時ものフェティッシュ全開な理由だった。

 私たちが勝負をしている裏で何やら悩んでいたのはこれだったらしい。

 最初は色々欲張った環境の変化を考えていたようだが思いつかない。

 もう我慢出来ないとのことでデフォルトのマヨヒガがある空間に険しい山を創造して出て行ってしまった。

 かなり本格的な登山セットでちょっと引いたのは内緒の話だ。


「……おじさまは大丈夫かしら?」


 この空間の管理者だから大丈夫と頭では分かっている。

 それでもおじさまが創造した山は素人が遠目でも分かるほど険しい。

 そんな場所に行くのだから心配してしまうのは仕方ないだろう。

 一応保険として私も仕込みはしてあるので何かあったら即駆けつけるつもりだ。


「――――何時まで寝ているつもりだ殺すぞ」

「爽やかな朝に剥き出しの殺意を向けないでくれる?」


 布団に包まっておじさまを案じていると部屋の襖がスパーン! と開かれた。

 旭お姉さんだ。生理不順かなってぐらいイライラしているのが見て取れる。

 正直、良い気分だ。これが敗者を見下ろす勝者の愉悦というものだろう。


「負けたお姉さんたちが悪いんでしょうに」


 十番勝負は熾烈なサドンデスを経て最終的に私が勝利した。

 そして混浴する時は一対一以外でというルールが定まった。

 加えてそれとは別にもう一つ優勝賞品。

 おじさまが不在になるということで後から付け加えられたのだ。

 それが一晩おじさまのお部屋で寝起きするという権利。私はそれを行使しているに過ぎない。


「失礼な。怠惰を貪る友人を叱咤する優しさと言え」

「まあ何て薄っぺらい言い訳」


 ナノ繊維の方がまだ頼り甲斐があるというもの。


「まあでも良いわ。お姉さんがあまりにも惨めで可哀そうだから起きてあげる」

「こ、コイツ……!」

「おほほ。それで今日の朝ごはんは何かしら?」


 お喋りをしつつ部屋を出る。

 お座敷に着くとテーブルの上には既に朝食が並んでいた。

 ほうれん草とベーコンのバターソテー、オムレツ、サラダにオニオンスープ、トースト。

 どれもこれも本当に美味しそうで隣に居る物騒な女が作ったものとは到底思えない。


「何か失礼なことを考えてるだろ」

「別に? それはそうとおはよう零お姉さん」

「ああおはよう。祓主が作った料理とは思えないっていうのは僕も同感だよ」

「殺すぞ貴様ら」


 ちなみにアーサーさんは居ない。まだダウン中だからだ。

 昨夜、ちょっと調子が良くなったからと迎え酒をしたせいだろう。救えないアル中である。


「「「いただきます」」」


 三人で手を合わせ食事を始める。

 恋敵ではあるが同居人でもあるのだ。

 無言の食卓ということもなく普通にお喋りをしつつ食事が進む。


「ああそうだ」


 話題が一つ終わったところで零お姉さんが思い出したように口を開いた。


「祓主。君、中島達臣って人知ってる?」


 誰? という顔をする私に零お姉さんは軽くその人の説明をしてくれた。

 色々共通する部分はあれど総理大臣までは同じではなかったようだ。


「まあ知っているがどうした急に?」

「いや実は坊野さんと飲んでる時に話題になったんだけどさ」


 どうもその際、おじさまは傍目にも分かるほどキョドっていたらしい。

 そこで何か心当たりがないかと思い旭お姉さんに聞いてみたのだという。


「ないな。少なくとも私が知り合ってから中島達臣と関わるようなことはなかったはずだ」

「テュポーン、君は?」

「同じく。こっち側の日本を訪れたのだって旭お姉さんが住人になってからだし」

「そっか。じゃあ何だったんだろあれ」

「嫌な知り合いにそっくりだとか? ほら、前に務めてた会社の上司に似てるとか」


 そうなら楽しい席で思い出したい顔ではないだろう。

 話題を変えようとしたのも納得だ。


「……」

「祓主?」

「……確か奴が政界を退く切っ掛けになったあの事件が起きた時、先生がいらっしゃったのは」


 何やら思案顔の旭お姉さん。

 事件、とはどういうことだろうか。零お姉さんの話では病気で政界を引退したとのことだけれど。

 そこらについて二人で聞いてみると、


「表向きに中島の引退は病によるものとされているが真実は違う。暴行事件だ」

「「暴行事件!?」」


 一国の総理大臣が暴行を受ける。

 それはもう連日ニュースで取り上げられるような大事件だろう。

 にも関わらず道無お姉さんは知らない。一般には伏せられている? 何故?


「実に奇怪な事件でな。講演だかで地方を訪れた際のことだったか?

中島達臣は何者かにより全治半年ほどの大怪我を負わされた。

当たり前の話だが一国の首相だ。当然、相応の護衛は就いていた。

だがその護衛も含め皆、手酷く痛めつけられたらしい。それだけならまだ良い」


 いや良くはないと思うけど言いたいことは分かる。

 裏の人間ならばそれぐらいのことは出来るということだろう。

 だがわざわざ奇怪と前置きしたからには違うのだと思う。


「被害者全員が示し合わせたわけでもないのに口を噤んだのだ。

話すぐらいなら自殺する。表沙汰にするならこの場で死んでやると恐慌状態に陥ったそうな。

当然、裏の人間は超常の力の関与を疑ったがそれらしい痕跡は皆無。

現場も調べたが超常の残滓は欠片も発見されなかった。それがまた怪しい」


 ならばと記憶を調べたり過去視の力を持つ者も動員し本格的に捜査が始まったらしい。

 しかし、


「結論から言うと彼奴らは何かを知った。その上で皆、中島らと同じように口を噤んだのだ」


 無理に聞き出そうとして実際に死者も出かけたらしい。

 寸でのところで食い止めたが一歩遅ければ確実に自殺していたとのこと。


「……ちょっとそれやばくないかしら?」

「ああ。当然、うちも含めて厳戒態勢が敷かれた。しかし以降は本当に何もなかったのだ」


 被害に遭った中島達臣も政界を引退こそしたが以降、普通に生きている。

 それは護衛に就いていた人間や記憶を覗こうとした者たちも同じらしい。


「なるほど。確かに奇怪ね」

「だろう? で、その事件が起きた当時、先生はその街に住んでおられたのだ」

「……ひょっとして坊野さんも犯人を見てる?」


 だとすれば不審な態度にも納得がいく。

 暴行は受けても誰一人死んでいないあたり口封じするつもりはなかったようだし。

 仮に小さなおじさまが目撃していたとしても問題はなかったはずだ。

 というか何でおじさまが昔住んでた街を把握してるの? 怖いんですけど。


「その可能性もあろう。もしそうなら下手人を探しケジメをつけさせたいが」

「おじさまから聞き出すわけにもいかないし当事者の記憶を覗くのも危険よね」

「……それでこちらに何かあれば先生が悲しむしな」


 これ以上、話をしても意味はないということだ。

 暗黙の了解で話題を打ち切ったところで、


「あら」

「む」

「おや」


 覚えのない強い気配を遠くに感じた。

 どうやら新たな経験値(レアエネミー)が追加されたようだ。

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
坊野の素性もまだ良く分かってないんですよね。 マヨヒガの件然り、フラれた事件然り。 色々妄想出来そうな所で、新たな経・・・チャレンジャーが。
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