レアエネミー
「お、おいアーサー大丈夫か……?」
翌日。俺は道無を連れ旭が用意してくれたマンションに向かった。
そこでテュポーン、旭、アーサーと合流する手筈だったのだ。
『ふむ。僕だけマヨヒガに残るのも何だし僕も現世に行くかな』
とのことでアーサーは地酒フェスなるイベントに参加していた。
まあもうこの時点でオチは読めてると思うが、
「……僕はもうダメかもしれない」
アーサーは生ける屍状態でリビングに転がっていた。
せめてソファで寝ろよと言いたいが痕跡見るに多分、転げ落ちたなこれ。
転落して再び戻る気力もないまま床に転がっていると見た。
「カムラン以来だよ……これほどの危機……」
「貴様の仇敵はアルコール以下か?」
「これにはモルドレッドも大激怒」
「産んだモルガンの株も連鎖で大暴落」
「そんなアホと知らない間に子供作られてた間抜けが居るって本当かしら?」
アーサーを見下ろす旭とテュポーンの目は白け切っていた。
そしてそれは隣の道無も同じでチベスナのような顔で言う。
「……まさか、コイツが本物のアーサー王だったなんてね」
裏に身を置いているから酔いどれアーサーの存在は認知していた。
現代に蘇ったアーサー王と自称していることも。
だから俺がマヨヒガの話をした時は本当に驚いていた。
と同時に少しワクワクもしていたのだ。
お伽噺に片足突っ込んだ存在だし色々話を聞いてみたいなと。
だというのにこの有様。
「いや、酔いどれアーサーがアル中なのは知ってたけど……」
「違う……アル中じゃない……ただ愛しているだけ……」
「愛も過ぎれば毒になるんだよなあ」
それを最後にアーサーは動かなくなった。
残念なイケメンだ。しかしこれはこれで需要があるんだよな。
こういうのがいざって時にビシっと決めるから乙女心を刺激されるのだ。
「フン、まあこ奴はどうでも良い。それより先生、道無が居るということは」
「そうだよ僕もこれからマヨヒガでお世話になるつもりだ」
「チィッ!!」
「うぉ、すげえ舌打ち」
「こうも露骨に態度に出るのはある意味美徳かもしれないわね」
それはさておき今日の旭は普通だな。
昨日のおめかし状態ではなく普通にシャツとジーンズである。
ちょっと残念に思いつつ全員を連れてマヨヒガに帰還。
アーサーはしばらくダメそうなので転移の際、直接奴の部屋にぶちこんでおいた。
「……これはまた昔話に出てきそうなお屋敷だね」
いきなりお座敷に放り出された道無がポカンとした顔で言う。
大体、皆同じような感想抱くよね。
「デフォルトのマヨヒガがこれなんだよ。次の環境がまだ……うん?」
「どうかされましたか?」
「いや、何だろこれ……マヨヒガの力が増してる」
今までも十分好き勝手やれていたがそれでも限界はあった。
だが今、その限界をぶち破ったという確信がある。
理屈ではなく直感でそうと分かるのだ。
「……道無のお姉さんが理由かしら?」
マヨヒガを出る前と違う変化は? となれば新たな住人となった道無だろう。
テュポーンの指摘には納得だがそうだとしたら新たな疑問も生じる。
「……酔い潰れてるアーサーはともかくお前ら、体に異常とかないか?」
成長には糧が必要だ。
住人が増えたことで成長するというのであれば糧は住人だろう。
何かしら搾取されているのでは? という疑念が俺の中に生じた。
「特に感じないかな。僕は今日も絶好調だよ」
「同じく。というかマヨヒガの性質的に不幸不利益を齎すとは思えないわ」
「それはまあそうかもしれないけど」
じゃあ力が増した理由は何なのか。
俺自身の変化? 新刊出したことぐらいで成長出来るわけないだろいい加減にしろ。
「祓主、君はどう思う? 見識という面では君が一番だろう」
「既存の超常法則から大きく外れているのがこの場所だ。私の知識も貴様らと変わらんよ」
ただ一つ推測は立てられるとのこと。
「旭、どういうことだ?」
「先生、絵が上手くなるためにはどうすれば良いでしょう?」
関係ない質問に一瞬面喰うがそう思えるだけで関りはあるのだろう。
俺は少し戸惑いつつも旭の質問に答えた。
「兎に角描きまくる。後はまあ、知識を仕入れたり?」
技法、人物画を描くなら人体の構造とかな。
「絵を描くために必要な経験を積むことでスキルアップするわけですね」
「――――ああ、そういうことね」
「なるほど。言わんとしていることが分かったよ」
テュポーンと道無が頷くが俺にはまだ分かってない。
どういうことだと解説を求めると、
「マヨヒガそのものが成長しているということよ」
「は?」
「マヨヒガとは訪れた人間を幸福にする領域だよね。なら成長のためには何が必要だい?」
道無の言葉でようやっと理解する。
何枚も何枚も絵を描きスキルアップするのと同じ。
訪れた人間に幸せにしたという経験を積んだ結果の成長ではないかってことか。
「いやでも場所? 領域? 空間? が成長するって」
成長ってのは生き物に訪れる変化だろう。
「でもここはフレキシブルにおじさまのこだわりを汲み取ってくれたりするでしょう?」
「……生きてるってのか?」
「ええ。と言っても知性や意思があるかはまた別の話だけれど」
俺たちの認識でそうと思えないだけで実際は命と言えるのかもしれないってことか。
「そしてもしこの仮説が正しいのであれば先生に譲渡された時点でかなり育っていたのでしょう」
「……そうか。祖父さん言ってたもんな。時折妙な輩が迷い込んで来るって」
すこーんと抜けてたが俺が迎えた初めての客がテュポーンってだけなんだ。
マヨヒガ自体はこれまでずっと人間を迎え続けていたのだろう。
「そうして成長していたから俺の趣味趣向にも十全に応えることが出来ていた、と」
「恐らくは」
「でもさ。何かタイミング変じゃないか?」
それなら道無が帰った時点で変化があっても良いと思うのだが。
俺の疑問に答えたのはテュポーンだった。
「こうして再会して道無お姉さんが幸せに暮らしているのをおじさまが認識したからじゃない?
多分だけど普通のお客様とおじい様が言うところの妙な輩ではルールが違うのだと思うわ。
管理者が直接、相対しなければいけないし簡単に問題が解決するわけでもない。
そして幸福になった姿を見届けなければ経験としてマヨヒガに反映されない」
けど、その分見返りも大きいのではないかと続ける。
「手間隙もそうだけど妙な輩である私たちは大きな力を持つ人間でしょう?
そんな人間を幸福に導けたということはそれだけ見返りが大きくなっても不思議ではないわ」
それこそ限界の壁をぶち破ることが出来るぐらい、か。
なるほど、
「つまりお前らってRPGで言うところのレアエネミーみたいなもんなのか」
「「「レアエネミー……」」」
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