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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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立派になったねえ

 あれから旭以外にも俺を待ってくれていた人らが訪れてくれた。

 温かい言葉や差し入れを頂きもう感無量。生きてて良かったと本気で思ったね。

 元々多く刷っていたわけではないがモノも全部はけたし文句なしの勝利だろう。


「じゃあおじさま、私はこれで」


 片付けを終えたところでテュポーンがそう切り出した。


「ああ。気を遣わせて悪いな」

「良いのよ。道無さんとの再会を楽しんで来て頂戴な」


 これからレイトショーに向かう小さな友人を見送り俺も待ち合わせの駅に向かった。

 道無はまだ来ていないようでベンチに腰掛けスマホを弄っていると一台のバイクが目の前に滑り込んで来た。

 ふわりと漂う香りにはやはりどちらの色も感じなくて……。


「久しぶり坊野さん」

「久しぶり道無」


 メットを外し微かに笑うその顔はあの頃よりもずっと大人びていた。

 一度現世で会いはしてるがあの時は何も知らない状態だったからな。

 マヨヒガでの出会いを経てからだと感慨深いものがある。


「少し、流さない?」

「良いね。今度はお前がケツに乗せてくれよ」

「勿論」


 道無はぽんと手に持っていたメットを虚空に放り投げた。

 するとメットは何処かへ消えてしまったではないか。


「おいおい現世にゃ道交法があるの忘れてねえか?」

「今日だけさ。大丈夫、ちゃんと誤魔化せるから」

「……しょうがないな」


 あの時の再現というわけだろう。

 しょうがなくケツに跨ると奴は嬉しそうに笑った。


「祓主から聞いたけど今日、イベントだったんだって?」

「ああ」

「どうだった?」

「大成功。漫画描いてて良かったって思ったしこれからも描き続けようって強く思えたよ」


 そう答えつつ俺は別のことを考えていた。


(……り、立派になったなあ)


 マヨヒガに居た最後の方も多少、柔らかくはなっていた。

 それでもどこかぎこちない感じがしてたけど今は違う。

 ちょっと愛想はないが普通に自分から他愛のない話を振ったりしている。

 ただそれだけのことなのに目頭が熱くなってしまう。


「良い時間を過ごせたんだね。うん、何よりだ」


 ほら、こんな言葉が道無から出て来るとか急成長じゃん。ワープ進化じゃん。


「……お前、本当に立派な大人になったんだねえ」

「親か。いや言いたいことは分かるけどさ」


 道無本人も自覚はあるようだ。

 でもよくよく考えればコイツ、俺が立派とか言うのは烏滸がましい気がして来たわ。

 俺自身、数多くのやらかしをしてるってのもあるが功という面で見れば比べ物にならない。

 だって最低でも百万の命を救ってるわけだし。


「ごめん俺が偉そうに言うことではなかったわ。高校生の時点で偉人級だもんな」

「偉人……? ああ、アート事変か。あの結末を掴み取れたのは坊野さんのお陰だよ」


 マヨヒガに迷い込むことがなければ。

 俺と語らい新たな知見を得ることが出来なければ。

 ただ黒幕を始末するだけで終わっていたと道無は言う。


「あの時間があったから僕は僕になれたんだ」

「道無……」

「あのね、話したいこといっぱいあるんだ。伝えたい気持ちも沢山」

「ああ、聞くよ。幾らでも」

「ふふ、ありがと。ならどこかに入ろうか。行きたい店とかある?」

「いやあ特にねえな」


 今はただただ胸がいっぱいで何なら牛丼屋とかでも大満足すると思う。


「じゃあもうちょっと走るけど僕が贔屓にしてる居酒屋なんてどうだい?」

「OK」


 そういうわけで道無お気にの店へ。

 チェーンではなく個人経営の居酒屋で店員とも顔馴染みになるぐらいには通っているらしい。


「やった今日は大当たり。お通しのポテサラが美味しいんだよ」


 曰く、通常の単品ポテサラとはまた違うらしい。

 出すタイミングが違うから味付けを変えているそうな。

 そういう細かな気配りが出来るのが個人経営の店の良いところだと道無は笑う。


「じゃ、乾杯しよっか」

「そうだな」

「僕らの再会と坊野さんの初イベ成功を祝って!」

「乾杯!」


 ジョッキを軽く触れ合わせ乾杯しビールを呷る。

 良いことがあった日の酒は二、三倍ぐらい美味く感じてしまう。


「ん?」


 半ばほどまで飲み干したところで道無に違和感を覚える。

 先ほどまでは以前と同じく男の匂いも女の匂いもしなかったのに今は男を感じるのだ。


「あは、やっぱり鋭いね。沢山飲み食いするなら男の方が容量的に都合が良いから変えたんだ」

「変え……うんんん?」

「僕に性別は無い。他人によって見方が変わるのは知ってるよね?」

「あ、ああ」

「ならそれってどっちにでもなれるってことじゃない?」

「いやその理屈はおかしい……おかしいけど……」


 ……まあ、超常の力を扱う連中に常識は通じないか。

 オカルト側でも尚、稀有っぽい道無なら尚更だ。


「はは、だから今は気分で変えてるんだ。こんな風に」


 声や見た目は変わっていない。

 だが今この瞬間、女になったというのがハッキリと分かった。


「女の時は恋人として男の時は親友として寄り添うことが出来るのってお得な感じしない?」

「何だお前、俺のこと好きなのか?」

「うん。大好き」


 一瞬、ビールを噴き出しそうになった。

 好意を抱いているというのもビックリだがあまりにもあっさり言うんだもん。


「僕を壊して(ぼく)を肯定してくれたあなたが大好きです。お付き合いして頂けますか?」

「気持ちは嬉しいがお断りさせてもらうよ。道無に恋愛感情はないからな」


 誠実に告白されたから誠実に振らせてもらった。

 だがそれも予想通りだったようで、


「だと思った。でも良いさ。“今”恋愛感情が無いだけだからね」


 これから惚れさせれば良いと笑う道無に俺も釣られて笑ってしまう。


「……ポジティブだな」

「無価値を肯定と捉える坊野さんには負けるよ」


 ああ、そんな話もしたっけな。


「あれがあったから僕は今日まで生きて来られたんだ」


 そこで道無は居住まいを正した。

 俺もまた空気を読みジョッキをテーブルに置き真っ直ぐ奴の目を見つめ返す。


「聞いて欲しい」

「聞こう」

「あの日、出会ってくれてありがとう」


 飾り気のない言葉。だけど込められた想いはこれでもかと伝わって来た。


「あなたがくれた言葉があったから今の僕が居る。

もしもあなた出会わなければ僕は寄る辺なく彷徨い続け遠からず無意味に終わっていた。

お通しでポテサラが出て嬉しいと感じることも、誰かを好きになることも知らないまま終わっていた」


 だから、ありがとう。

 伝えられた感謝の気持ちを噛み締め俺も言葉を返す。


「どういたしまして」


 短い言葉だけど込めた想いはきっと伝わっている。

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
道無は良い選択ができたんだ。 しかも性別の切り替えまで出来るとは。 二度美味しいと言うか、これもギャップ萌えか。 強力なライバルですね。
道無がヒロイン力強すぎる……
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