問題解決
アート事変と後に称される事件は全てが丸く収まった。
一人ばかり自称芸術家が無に還りはしたが無価値な人間なので問題はなかろう。
『道無。貴様の功績は揺るぎ無いものだ。報いねばなるまいよ』
事件解決後。祓主は僕にそう言った。
金銭、地位、よっぽどの無茶でもない限りは叶えられる望みを叶えてくれるらしい。
僕の願いは一つだけ。
『ならば金銭で。三十万円ほど都合してくれると嬉しいかな』
『……何かの冗談か? 望めば孫の代まで遊んで暮らせる程度は融通出来るのだぞ』
『要らないよそんなに』
現世に戻り新しい旅を始めたとは言え、だ。路銀にしては多過ぎるだろう。
嵩張る荷物を抱え込んで足取りが重くなるのは御免だ。
『だとしても……というか何故、三十万?』
『決戦前、君にも話しただろ? バイクの免許が欲しいってさ』
『ああ――いやそれでも少なくないか? 免許とバイクの購入代金を考えれば』
『免許のお金だけで十分だよ』
バイクは自分で用意する。
バイトをしてお金を貯めるも良し。
彼のようにどこかで不法投棄されているバイクを探してそれを修理するも良し。
僕には選べる道が幾らでもあるのだ。
『そうか。それで良いなら私はもう何も言わん』
直ぐに報酬を支払おう。彼女は言うやATMからお金を引き出しその場で三十万を支払ってくれた。
これで本当に事件は終了。完全に僕は日常へ回帰した。
免許を取りに行ったりバイトをしたり、事件で知り合った面子と遊びに行ったり……。
大きな空っぽを抱えていた頃が嘘のように僕は日々を漫喫していた。
けれど、
『……あなたは今、どこに居るんだろうね』
坊野さんには再会出来ずに居た。
高校生の間はまだ行動範囲も狭いのでしょうがない。
だが大学に入る少し前に僕はふとした切っ掛けで再度裏の世界に踏み入ることとなった。
稼げるお金、使えるコネ、ただの学生のそれとは比べ物にならない。
だけど坊野さんの所在を掴むことは出来なかった。
所在どころか実際に存在しているかどうかも。
会いたい、なのに会えない。モヤモヤしたものを抱えたまま日々を過ごしていたが……。
『――――』
とある依頼で訪れた田舎町。
道路の向こう。自販機の横でコーヒーを飲みながら一人の男性がこちらを見つめていた。
「あらやだミステリアスなイケメンだわ!」と顔に書いてある彼を見た瞬間、息が止まった。
坊野さんだ。あの日と変わらない姿の彼を見て僕は全てを理解した。
だから溢れる想いをなるたけ押し殺し、
『――――何時かの僕によろしくね』
それだけを告げた。
今はこれだけで良い。きっとまた会える。
過去と未来が交わった後に訪れる偶然の再会を待とう。その方が素敵だから。
とまあ、そんなことがあったのが一月ほど前のことだったのだが……。
「珍しいね。君から連絡が来るとは思ってもみなかったよ」
仕事を終え家に帰ったところで電話がかかって来た。
相手は祓主旭。アート事変で知り合い解決と同時に縁が切れたと思っていた彼女だ。
共に修羅場を潜ったかつての面々とは今も付き合いがあるけど彼女だけは違う。
まるで絆は深まらず徹頭徹尾、ビジネスパートナーのような関係だった。
裏の世界に踏み入り名を聞くようになったがこちらから接触することもなかったし逆も然り。
生涯交わることはないと思っていただけに少し、驚きだ。
【フン、私とて好きでコンタクトを取ったわけではない】
相も変わらず刺々しい……ように聞こえるが何かおかしい。
何だか丸くなっているような印象を受けるのだが、何故かかつてよりも刺々しいような?
「……ふむ。差し迫った事態への協力要請、かな?」
僕の異能はそれなりに面倒ではあるが上手く使えば凶悪無比なものになる。
アート事変における被害をゼロにしたのがその証明だ。
祓主はこの国の霊的守護を担う名家の次期当主――いやもう当主か。
少し前に正式に先代が引退し祓主が当主になったと噂で聞いた。
なので当主としての正式な依頼かと思ったのだが、
【違う。今の私は防人ではなく一人の女だ。そういう話は他所でやれ】
「はぁ? え、何? 当主辞めたの? もう?」
【違う。義務を果たす気はないが権力と財力は惜しいので祓主の当主は続けている】
「……君、そんなキャラだったっけ?」
自分にも他人にも厳しい意識高い系の俺様みたいな感じだったはずだ。
そうでなくてもここまで頭のネジが緩んでる感じではなかったと思うのだけど……。
【私は少し前に客人としてマヨヒガを訪れ今はマヨヒガの住人になっている】
これだけ言えば分かるな? 分からないわけがない。
そうか、そういうことか。
あの時のマヨヒガには未来の祓主も居たのか。
出会うことはなかったけど……ということは、だ。
「坊野さんに僕の話、した?」
【……ああ。先生に乞われたら否とは言えまいよ】
「そっか。少し気恥ずかしいね」
それはさておき、だ。
こうしてコンタクトを取って来た以上、既にあちらでは僕が去った後だろう。
「ひょっとして坊野さんから僕に会いたいって頼まれた?」
少しドキドキしながらそう聞いてみると盛大な舌打ちが返って来た。
ホント態度悪いなコイツ。
いや昔の僕も大概だけどコイツは始終尖ってるじゃないか。
【……頼んではおらん。先生は偶然の再会に期待しておられたようだからな】
「はは、そっか。そうなんだ」
同じ気持ちなんだ。嬉しいね。
「うん? じゃあ何でかけて来たの君?」
【貴様の邪悪な企みを阻むために決まっておろうが!!】
はぁ?
【貴様が先生に懸想していることはお見通しだ。先生のお話を聞いていれば直ぐに察せた!!
だからこそ偶然の再会などというあまりにも美味しい状況を成立させるわけにはいかない!!
貴様のことだ、どうせ出会い頭に接吻でもかますのだろう!? 読めてるんだよ私には!!】
……先生というのがどういう意味かは分からないけど、だ。
祓主もどうやら坊野さんに心を奪われているらしい。
自分でも言うのも何だが僕といい祓主といいロクでもない奴にばかり想いを寄せられてるな。
【だからこちらで一席設けることにした。嫌とは言うまいな? 私の好意だぞ】
「いや嫌がらせだろ。阻むとか言ってたじゃないか」
【知らんな】
ホントキャラ変激しいなコイツ……。
祓主は日時と場所を告げると一方的に電話を切った。
「出会い頭にキス、か」
クク、と笑いが漏れる。
「もうやってるんだよねそれ」
今度憤死するぐらいマウントを取ってやろう。
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