客人 空虚な旅人⑪
夕陽に見惚れていると少し強い風が吹きほんの一瞬、目を閉じた。
すると気付けば背中に感じていた微かな重さと温もりは消え俺は一人に戻っていたのだ
「とまあこんな感じで何か知らん内に道無帰っちゃった」
夜。
原っぱで焚火をしながら読書をしているとアーサーが酒を片手にやって来た。
それに少し遅れてテュポーン、旭も。示し合わせたわけとかではなく単なる偶然らしい。
ともあれそんな感じで住人が全員が集まったので俺は道無退去の話をした。
旭以外には相談してないけどテュポーンとアーサーも心配してくれてただろうからな。
「あらあら急ね」
「少しぐらいゆっくりしていけば良かったのね。そうすれば僕も一杯振舞えたかもしれないし」
「未成年に飲ませようとするなや……」
「マヨヒガに道交法がないのだから飲酒だってセーフさ」
しかし、とアーサーがワンカップを呷りながら言う。
こんな正統派王子様な見た目なのにワンカップが似合い過ぎだろコイツ。
「まさか若き虚無の王が客人の正体だったとはね」
「……アーサーも知ってたのか?」
裏では名の通った実力者だと聞いたがアーサーのホームはイギリスだ。
海外にまで名が知れ渡っているのかと少し驚いてしまう。
「まあ海外でも知られてはいるが僕は日本で活動することも多かったから」
君に会いたくて地酒を楽しみながらあちこち回っていたんだよと笑う。
地酒部分が余計な気もするが……まあ、嬉しいことに変わりはない。
「虚無の王は一度、遠目に見たことがあるだけだが」
「どんな感じだったの?」
テュポーンも気になるようでその目には好奇心の色が滲んでいた。
「あくまで所感だが世界に穿たれた穴を見ているようだったよ」
道無の居る空間だけがぽっかり抉り取られてしまったような。
覗き込んでも広がるのは黒で塗り潰された闇だけ。
アーサーの評価は何とも物騒なもので思わず顔が引き攣ってしまう。
そんな俺の心情を察したのか奴はこう続ける。
「とまあそれだけとあんまりにもあんまりだと思うだろ? でも違うんだ」
「「違う?」」
「一見すれば恐ろしいように思えてしまうけどじっと見つめているとね」
何故だかほっとする。
そっと寄り添うような、慰めてくれているような優しい虚無を感じるのだという。
「あくまで僕の私見だが彼は何か致命的な一線を超えずに済んだんじゃないかと思うんだ」
「致命的な一線?」
「ああ。それが何かは分からないけれど多分、踏み止まれたことが誰にとっても幸福だったんじゃないかな」
アーサーは俺を見つめて微かに笑う。
「今なら分かる。きっと君のお陰だ」
「……どうかな」
正直な話をすると俺は何をした覚えもないのだ。
テュポーン、旭の時は真正面から話を聞いて俺なりに言葉を尽くした。
アーサーは……あの時は分からなかったが思い返せば心当たりはある。
映画を見終わった後のあれだろう。
アーサー王の生涯に否定的なアーサーに俺は楽観的な話をした。
それがきっと心に響いたのだと思う。
「旭から色々話を聞かせてもらったけどそれで何かしたってわけでもないしな」
というより出来なかった。
何が正解か分からなかったからな。
強いて言うならバイクを修理していた時にした人間が無価値って話が怪しい。
意味深な会話って言えばあれぐらいだが何が響いたのかが分からない。
「でも道無さんはマヨヒガを出て行った。なら本人にとって良きものを得られたのは間違いないのではなくって?」
ならきっとそれは祝福すべきことよ。
柔らかな微笑みを浮かべココアを啜るテュポーンの言葉にそれもそうだなと俺も同意を示す。
(……さて、そろそろ言及すべきか)
ちらりとテュポーン、アーサーを見ると彼らも頷いた。
「「「お前(君)(あなた)何で震えてるの?」」」
道無が去った話をしたあたりからわなわなバイブレーションキメてるけど何なん?
それがどういう感情に起因するリアクションなのかも分からんわ。
「ず、ずるい……!!」
「「「ずるい?」」」
「だって、そんな、あまりにも別れ方が絵になっているじゃないですか!!!!」
あー……? 何言ってんだコイツ。
「わ、私なんて気付けば現世に戻ってて屑どもから呼び出しですよ!?
なのに……み、道無……アイツは……! 夕陽が沈む海岸線を二人乗りで!?
何か良い具合の会話を交わしながら風と共に去るってドラマチック過ぎる!!
少し不思議要素混ざった切ない系の少女漫画で使えそうなシチュエーションじゃないですか!!」
そういう?
まあでもあるよねそういうの。
オカルトというか超常要素をスパイス程度に織り交ぜた恋愛系。
あくまで主題は恋愛だから超常要素は出しゃばらない。
二人の関係を演出するための小道具でしかないんだけど使い方によっては良い味出るの。
「しかもクソ! 今思い出せば私、アイツが戻って来た瞬間に立ち会ってる!!」
旭はシュバババ! っと印を切り虚空を指さす。
すると空中に映像が投影されたではないか。
『おい貴様、死にたいのか!?』
旭の声が聞こえるが姿は見えない。多分、旭の記憶だからだろう。
視線の先では少し呆然としている道無が居た。
(……ああ、確かにいきなり戻されたらあんな顔にもなるわな)
マヨヒガはちょっと空気読めよ。
呼び出したタイミングがあそこだったから戻るタイミングもあそこしかないけどさ。
あるだろ。もっとこう、夜寝る前とかに呼び出すとかさあ。
『……ごめん、それとありがとう』
道無は小さく深呼吸をして誰に聞かせるでもなく呟く。
『こんなところじゃ死ねないね』
まあ視覚聴覚も常人より遥かに優れている旭には全部聞かれてるわけだが。
『さあ、新しい旅を始めよう』
微かに口元を緩めそう宣言する姿は……なるほど。
「確かにこれ戻って来てるね。あまりにも不自然が過ぎる」
「新たな門出とはこういうものだと言わんばかりの表情、台詞ね」
「何なら俺も参考資料にしたいぐれえだわ」
未来の道無を知っているとはいえだ。
やっぱり心配なものは心配だよ。だってアイツは子供で俺は大人だったし。
だからこうして別れた直後のアイツの表情を見れてほっとしたわ。
ここからアイツは輝かしい生を歩いて行くんだって信じられる。
俺が胸を撫で下ろしていると、
「ほら! ほら! ほらァ! しかもこれで未来で先生との再会が決まってるんだろ!?
やってられない! こんなの絶対、未来で再会した時キスとかしちゃうんだ!!
絶対ツーリングとかするんだ! だってアイツ、言ってたもん! 決戦前に! 終わったら免許取るって!!」
旭が突如として発狂。
しかも! と涙目になりながら奴はこう続けた。
「先生、私に頼みませんでしたよね?」
「は? 何をだよ」
「主語が抜けてるよ君」
「イギリス人に日本語の不備を指摘されてるわよお姉さん」
貴様らは黙ってろと二人を怒鳴り散らし旭は続ける。
「私に現代の道無にコンタクトを取って欲しい! 頼みませんでしたよね?!
これってどういうことですか!? 決まってる! “偶然の再会”を待とうとしてるんだ!!
こ、こんなことが許されて良いんですか!? 二人の物語始める気じゃないですかやだー!!」
……何つーか色々綺麗に片づいたのに余韻もクソもねえなあ。
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