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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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客人 空虚な旅人⑧

「フフ、確かに敵だからこそ許される反則的な能力染みてはいますね」

「味方側なら絶対、厳しい制約かけなきゃだよ」

「そうですね。実際、奴の異能はそこまで万能ではありません」


 無条件で全てを無に還せるわけではなく制約はあるらしい。

 ただそれでも凶悪極まる異能とのことだが。


「出会った当初は物質のみで、それも問答無用で消せるわけではありませんでした」

「……ああ、成長した結果ってわけね」


 そこはやっぱ主人公っぽいな。


「ゲームで例えると分かり易いでしょうか? 例えば大きな岩があったとしてそこに耐久値が設定されてます」

「あーはいはい。それがゼロになれば岩が破壊されるわけね」

「ええ。100%では異能は発動しませんが一定値まで削ると」

「強制的に残りのゲージが吹っ飛ぶみたいなイメージか?」

「その認識で構いません」


 それだけでも十分強い気はするけどな。

 ゲージの例えで言うなら実質的な最大値が大幅に引き下げられるわけだし。


「じゃあ人間も」

「人間の場合はもう一つ削れるものがあります。存在価値です」

「……存在価値?」

「対象が無価値な人間である証明を一つ一つ突き付けて行くのです」


 そうして対象が自らの存在価値を揺らがせたところで異能を発動すれば……ということらしい。


「私がそれに気付いたのは奴の異能が成長した際の戦いです」


 敵は行状を説明するのも億劫になるような屑だったらしい。

 異能が進化したという自覚は当初、なかったそうだ。

 自覚がないまま道無は怒りか嫌悪か、淡々と敵を否定していった。

 旭は丁度、その場面に出くわし敵が消滅する瞬間を目撃したのだという。


「その際、奇妙な現象を目にしたのです」

「というと?」

「敵が消滅すると同時に道無のダメージが綺麗さっぱり消えたのです」


 回復などというレベルではない。

 時が巻き戻ったかのように体の傷どころか衣服の損傷まで消え去ったのだ。


「ひょっとして……無価値な人間だから、か?」


 無価値な人間の行いもまた価値が無い。存在するに値せずと消滅した。

 つまりはそういうことなのかと確認すれば旭は小さく頷いた。


「ただ、その屑が殺めた人間まで生き返ることはありませんでした」


 影響が及んだのは異能を使った道無に齎されたものだけ。

 しかし、異能が更に成長すれば?

 徹底的にその価値を否定し切った上で異能を発動すれば?


「“或いは”と思いました」


 既に被害は甚大。

 しかし黒幕を否定し切って消滅させれば全てがチャラになるかもしれない。

 ゆえに旭は賭けに出たのだという。


「総力戦を挑めばそこまでしなければならぬと黒幕の価値を認めてしまう」

「だから道無一人にやらせたのか」

「はい。最終決戦における奴の役割は批評家」


 標榜する芸術。その人間性。

 黒幕を構成する全てを一つ一つ丁寧に否定することを道無は望まれたのだ。


『モチーフが平凡だよね。地獄って』

『これって人々が思い描く地獄の原風景を継ぎ接ぎしてるんでしょ?』

『つまりそれって君の内側から出たものじゃないわけだ』

『それに完成も他人に依存してる』

『これ沢山の人間が居なきゃ成立しないでしょ?』

『共作を否定するわけじゃないけど至高の芸術だどうだって言ってたからさ』

『題材から制作までどこにも独創性が感じられないのは良いのかい?』


 淡々と無表情で批評を並べ立てるのは痛快だったと旭は笑う。

 発案者として責任に加えいざという時は駆けつけられるよう式神で監視していたそうな。


「結果、黒幕はアイデンティティを崩壊させ虚無に還りこの世から消滅しました」

「それに伴い黒幕が原因で引き起こされた被害も連座でなかったことになったんだな」

「はい」


 死者は蘇り、黒幕が与えた異能も元から素養のあった者を除き消滅。

 素養のあった者も未覚醒の状態まで巻き戻されたという。

 破壊された街並みも元通りだし惨劇の記憶は消え去ったというが、


「その割りに旭は記憶にあるんだな」


 記録からも記憶からも完全に抹消され覚えているのは当人のみ。

 それでも構わないと道無が雑踏の中で小さく笑いエンディングへ、みたいな流れなのに。


「そこは道無の配慮でしょうね」


 条件が煩雑な分、ある程度消滅のさせ方にも融通が利くらしい。

 前代未聞の事件ゆえ記録が残らないのは不味いだろうと一部の人間の記憶は消えなかったとのこと。


「黒幕は当然として後は封鎖内で悪行を働いていた異能者たちの情報も無視は出来ません」


 そうなるよう誘導されていたとはいえ黒幕は強制したわけではない。

 それでは芸術を構成する欠片としては不十分だからだ。

 最終的には自らの意思で悪に堕ちることこそが肝。

 つまり悪行を働いた人間にはそうなる素質があったということに他ならない。


「異能の素養がない人間は別に放置でも構いませんが」

「ある奴がこの先、異能に目覚めたらやらかしかねないってわけだ」

「はい。そういった私たちの事情を斟酌したのでしょう」


 当人に聞いたわけではないが間違ってはいないだろうとのことだ。


「なるほどね。参考に……なったかどうかはまだ分からないけどスッキリはしたよ」


 事件が解決したのは分かっていたが詳細な内容まで聞いて良かった。

 単に解決したより文句なしのハッピーエンドになったって分かった方が気分もかなり違うからな。


「ちなみに旭は今の道無がどうしてるとかは知ってる?」

「把握はしています。裏では名の知れた実力者になっていますよ」

「ほう、二つ名とかもあったり?」

「ええ。虚無の王、虚無の女王などと呼ばれています」


 そりゃまたカッコいいな。


「今も付き合いがあったりは」

「しませんね。先生が初めて私的に交友を持ちたいと思った方ですので」


 反応に困る。


「正直に申しますと奴のことが目障りだったもので……あ、勿論今は違いますよ?」

「分かってる。マヨヒガで答えを得る前のことだよな」

「ええ。まあ今も別に好きではありませんが」

「何が癪に障ってたんだ?」


 初対面の時に無礼をかまされたが以降、道無相手に不快な想いをしたことはない。

 言葉を飾らないところはあるがそこだろうか?


「何と申しますか奴の悟ったような態度が気に入らなかったもので」


 以前の私なら殴って良い理由があれば気が済むまで殴っていただろうと旭は笑う。

 いや笑えねえわ。普通にこええよ。


「そいじゃあ俺はこの辺で。話聞かせてくれてありがとうな。お茶とお菓子もご馳走さん」

「御役に立てたなら何よりです。道中、御気をつけて」


 旭に見送られ帰途についた。

 夜道を歩きながら月を仰ぐ。


「……アイツ結局最後まであの格好のままだったな」

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― 新着の感想 ―
黒幕さん、自業自得とは言え憐れな最期よね
何と言うか、ホントに主人公ですね。 成長する過程に色々あったと思うけど。 最後は無礼なケツで締め括り。 ありがとうございます。
4話にわたって無礼なケツのままだったのか(困惑)
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