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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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客人 空虚な旅人⑥

 帰りたいというのが本音だがここまで来て帰ったら本気で意味が分からない。

 友人が痴女ってる姿を見に来ただけになってしまう。そんな徒労は御免だ。


「粗茶ですが」

「ん、ありがと」

「して先生、夜這いでないならば何用でしょうか?」

「……コイツに見覚えはないか?」


 言うより早いと俺が持参したスケッチブックを机に置く。

 ? と首を傾げる旭にとあるページを見せつけると、


「!」


 その目が大きく見開かれた。

 そこには未来の道無と過去の道無の似顔絵を描いてある。

 やはり知己だったか。


「道無零? 何故奴が……いやまさか、例の客人とは」

「ああ、道無さ。名前を伝えなかったのは俺のミスだな」


 どこかで交わる可能性はあっても最初はどう足掻いても会えないのだ。

 道無の話せる個人情報については相談が必要になった時で良いと思っていた。

 だから名前を伝え忘れたんだろうな。


「しかし何故、奴と私に面識があると?」

「アイツとお喋りしてる時に今、アイツが巻き込まれてる事件について聞いてな」

「アート事変ですか」


 事件の名前は知らないが……というか後からつけられたものだろう。


「何年か前に福岡市内が完全に封鎖された事件のことならそうだな」

「それで合っています。しかし何故、私個人に言及を……あ、タイミングか?」


 ホントお前頭の回転早いな。


「もしや奴。初対面、天神区域での戦闘に乱入した際の時間軸から?」

「そうみたいだ。やべえ時にごめんって謝ったらフォローしてくれてな」


 外から強そうな援軍が来たから時間が経過していても問題ない。

 そう教えてくれた際に聞いた援軍の特徴が旭のそれと重なったから確かめに来た。

 俺の言を受け旭はなるほどと頷きこう聞き返す。


「ちなみに奴は何と?」

「コスプレみてえな軍服来たやたら上から目線の長い黒髪の女の子」

「……それで私と結び付けられるのですね」


 しょんぼりしてるが個性だよ個性。

 嫌味にならない上から目線で俺自身は受け入れてるんだからさ。


「それはともかくだ。どうも道無はこれまでの客とは随分毛色が違ってな」


 こっちから積極的に理解を深める必要があると判断した。

 だから知っている情報を教えて欲しいのだと頭を下げる。


「分かりました。私で良ければお教えしましょう。ただどこから話したものか」

「まずはそのアート事変ってのについて教えてくれないか?」


 旭が道無について語るなら事件の最中でのことになるだろう。

 以降も付き合いがあるのかは知らないが始まりはそこなのだから。


「アート事変。あれは狂った芸術家が世界をキャンバスに見立てた大規模な異界化事件でしてね」

「異界化っていうとマヨヒガみたいな?」

「はい。外界と時間の流れが異なるのも同じですね。ただ異界の性質としては真逆ですが」


 曰く、テーマは地獄。

 人が各々思い描く地獄の原風景を繋ぎ合わせ世界というキャンバスに投影したのだという。


「正直な話をしますと祓主も含め裏の秩序を是とする組織は完全に後手後手でした」


 福岡市内で異界化が起きた際、現地に居た裏の人間は咄嗟に結界を張り浸食を押し留めたらしい。

 だがそれすらも黒幕の狙い通りだったとのこと。


「臭気で例えると分かり易いかもしれませんね。シュールストレミングをご存じでしょうか?」

「世界一臭い缶詰だっけ?」

「ええ。あれを野外で開封すれば臭いは拡散していくでしょう?」


 臭いは臭いだろうがドンドン広がって徐々に薄れていくのはそうだろう。


「もしかして」

「ええ。黒幕は敢えて外殻を作らせることで拡散による消滅を防いだのです」


 結界を張らねば異界化の範囲は広くなり被害も更に増してはいた。

 だが長期的なリスクを考えればそうするべきだったと旭は言う。


「そしてそれと同時に閉鎖空間を作ることで地獄を煮詰めて行くのが奴の目的でした」


 拡散しても消滅しないほど堅固な地獄を内部に形成。

 そうして完成した地獄を最終的に結界を取り除き外に流出させるつもりだったらしい。

 仮に成功していれば最低でも日本は滅びていたとのこと。


「道無から封鎖内の人間が異能に目覚めていたという話は聞きましたか?」

「聞いた」

「それもまた地獄を煮詰める作業の一環でしてね」


 言わんとすることが分かった。

 精神を摩耗させるクローズドサークルで凶器を持たせればどうなるかってことだろう。

 惨状が加速するのは容易に想像がつく。

 欲望のまま力を振るう者、それを阻む者、交わらない対立構造は地獄を彩るには打ってつけだ。


「善の種も悪の種も等しくばら撒きつつ全体としては負の方向に傾くよう調整する……悪辣でしょう?」

「クソだなそいつ」

「仰る通りです」


 ただ事件当時は旭も含め一体何が起きているのか誰も何も把握していなかったらしい。

 その調査と解決のため秩序側で調査隊を結成し現地に乗り込むことになったのだという。


「とまあこれが事件のあらましになります」

「なるほど。大体分かったよ。道無との出会いについて改めて聞いて良いかい?」

「はい。奴とは内部に侵入して直ぐに異常な気配を察知して天神に向かった際に出会いました」


 そして道無らと協力して怪物を退治。

 彼が所属している自警組織、パンドラと協力関係を結ぶことになった。


「私が道無と関わるようになったのは天神戦の後なので」

「時系列的にはマヨヒガから帰還した。問題を解決した後の道無ってわけだ」

「はい。私が乱入した直後が今マヨヒガに居る道無なのでしょうが」

「まあ、以前の道無なんて知らんわな」

「……申し訳ありません」

「いやいや謝る必要はないよ」


 大規模な戦いの中で一人の人間に強く意識を割く余裕はあるまい。

 敵ならまだしも味方なら尚更だ。


「それより関わるようになったってのはどんな形でだ?」


 事件解決のため徹頭徹尾問題解決のためだったのか私的な付き合いもあったのか。


「前者ですね。当時の私は先生以外と私的な交流をしたいと思ったことなど一度もないので。

ただビジネスライクな関係でも奴とはかなり接点があった方ではあると思います」


 最初は大勢の内の一人でしかなかったらしい。

 だが徐々に頭角を現して行き出会って一ヵ月ほどで道無はパンドラのリーダーになったのだという。


「関りの中で私が思ったのは……あ、お茶のおかわりを淹れますね」


 少々お待ちくださいと旭は席を立った。

 気が利く奴だと褒めてやりたいが、


(茶の前に服を着ろよ……何時までそんな馬鹿みてえな格好してんだ)


 ケツが見えてんだよでけえケツが。

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― 新着の感想 ―
でけぇケツはつい叩きたくなる
これがあの、無礼なケツだ、というやつか。 それはさておき、道無くんさんは結構強力な能力者みたい。 どうなるか楽しみです。
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