客人 空虚な旅人⑤
長い黒髪の女の子でコスプレみたいな軍服。
正にマヨヒガを訪れた際の祓主旭の出で立ちだ。
口ぶりからして道無とはタメっぽいけど彼が過去の人間であることを鑑みれば辻褄は合う。
未来で出会った道無と同じ時間軸に生きる旭は同い年ぐらいに見えたからな。
(だが知ってたなら何で……あ、そうか)
道無が訪れたことは三人にも共有した。
だが例の客人が来たと言っただけで名前を伝えていなかたことを思い出す。
ミステリアスな美形って情報だけで旭に気付けという方が酷だろう。
(……後で話を聞きに行くか)
だがその前に釣りだな釣り。食料の確保をしておかんと。
「釣れた……けど、何これ?」
「ナマズだな」
水草が多いとこを好んでるしここなら居ても不思議ではない。
夜釣りのが釣れやすいが昼間でも釣れることはある。
「これ、食べられる?」
「食えるぞ。まあ臭いからしっかり処理はしなきゃならんがな」
癖のない白身だから濃い味付けがよく合うのだ。
蒲焼きや揚げ物なんかにしてやるとペロリと平らげられるだろう。
「話をしてたら無性に食いたくなってきた。そいつは今日の晩飯にしようぜ」
「了解。どう調理するかは任せるよ」
「あいよ」
その後も釣りをしつつ道無に色々と探りを入れてみたのだが、
(こ、コイツかなりモテてる……!!)
福岡市内で起きた超常異変については専門家である旭に聞けば良い。
なので知るべきは個人的な部分と思って学校生活とか友達について聞いてみたのだ。
したら本人は気付いてないがそれ絶対脈あるだろって女子が何人も……。
(現役アイドルとも良い感じとか何だそなた主人公!?)
現役アイドルというのは俺も知ってるような有名人だ。
ロケで福岡市内を訪れて封鎖に巻き込まれらしい。
そして極限状況の中で人間の悪意に晒されそうになったところを道無が……みたいな感じっぽい。
(思えば名前からしてカッコいいしコイツ……)
零って、零ってお前。
平々凡々なツラなら名前負けだが顔面偏差値半端ないじゃんよ。
俺もあまりない名前ではあるがキラキラ寄りだし容姿も旭曰く取り立てて特徴のない平凡な容姿だしな。
「? 何震えてるの」
「……お前、すげえ奴なんだなって」
「はあ?」
勝てる部分が何一つ見当たらない。
更に言うならこの日の釣果ですら勝てなかった。
食料の確保が終わったら一息、とはいかない。
まだ日は昇っているが季節は秋。ぼやぼやしていると日が暮れてしまう。
戦利品を持って原っぱに帰還して魚の下処理を実行。終わる頃にはもう日も沈みかけていた。
(今日はもうバイク弄りは無理だな)
バイクを拾ってからもう随分と経つが道無が来たからな。
他に色々とやることが出来たもんだからバイク弄りにばかりかまけていられないのだ。
それでもちょこちょこ進めて良い具合になって来てはいるからそう遠くない内に修理は完了すると思う。
「ナマズは俺が担当するから道無は米を頼む」
「ん」
本日のメニューはナマズの蒲焼……にしようと思ったがかなりデカい。
これ全部を蒲焼にしてしまうよりは蒲焼の他にも何品か作った方が良さそうだ。
(白焼き……いや、唐揚げにするか)
特に会話もなく黙々と作業が続く。
しばらくして夕飯が完成してからも最初のいただきます以外は会話なし。
(何ともまあ気まずい食卓だあ)
意識を逸らそうと食事に集中するから味がより感じられたのは怪我の功名なのだろうか。
食後は手早く片付けを終わらせ交代で入浴を済ませたら後は自由時間。
道無は読書を、俺は絵を描き各々の時間を過ごした。
(……そろそろかな)
先ほどまで小説を読んでいた道無だが気付けばソファで寝入ってしまった。
俺はランプの灯りを落とすと彼を起こさないようにこっそりと廃バスを出た。
向かうのは旭のお宅。到着する頃には十二時を少し超えてしまうが……まあ大丈夫だろう。
好意に甘えるようで心苦しくはあるが、わりと喫緊の課題だし。
【こんな時間に誰……せ、先生!?】
マンションの玄関でインターホンを鳴らす。
すると少しして旭が出たのだが多分、テュポーンか旭と勘違いしたのだろう。
【申し訳ありません! しょ、少々! 少々お待ちください!!】
準備がありますのでと言ってインターホンを繋いだままバタバタと動き始めた。
そしてしばらくすると大丈夫ですと言われたので旭の部屋へ向かったのだが……。
「お待たせして申し訳ありません」
玄関を開けると三つ指をついて俺を出迎える旭。
これは良い。いや良くはないが百歩譲って無視する。
「……何、その格好?」
奴は透け透けのベビードールを纏っていた。
薄布の向こうに見える下着も何だそれ何を守ってんだってレベルだし。
こんなん見たの権藤さんの付き合いで行った風俗以来だぞお前。
「え? いえこんな時間にお一人でということは遂にと思いまして」
「……」
こめかみを抑える俺を見て勘違いを悟ったのだろう。
旭は恥ずかしそうに俯いたがやがて顔を上げると心配そうな目を俺に向けて来た。
「あの、失礼ですが先生は勃起不全でいらっしゃる?」
「知ってる? 失礼ですがって前置きは本当に失礼な時は使わないんだよ」
直で謝れ。いやそれ以前に失礼を働くな。
どんなルートを辿ればその疑問に辿り着くんだ。
「自分で言うのも憚られますが私の見てくれはかなりのもの」
顔も体も男の性欲を掻き立てるには十分だと奴は言う。
まあ、間違いではないけど自分で申告するのは何か違うだろう。
「そんな私がこのような格好をしているのに先生からは情欲をまるで感じられず」
「……そういう欲が枯れてるんじゃないかって?」
「はい」
「こんな状況で性欲滾らせるのただの馬鹿だろ」
真っ当な人間は普通困惑するわ。
どんだけ美人でもけったいな行動されたら性欲がトップに躍り出るわけねえだろ。
「で、でも普段のスキンシップでもあまり反応がよろしくありませんし」
「お前距離の詰め方おかしいんだよ」
少女漫画でお前みたいなの居るか?
そりゃ漫画は漫画、現実は現実で区別しなきゃいけねえよ?
だが恋愛系なんてのは読み手の共感を狙うもんだ。
ある程度は参考に出来る部分もあるんだよ。
「お前それ完全にエロ漫画の距離の詰め方だぞ。ページ数足りてねえのか?」
速攻本番に行かなあかんのか? いや足りてないのは頭だわ。
というか俺に性欲をぶつけられればそれで良いのか? 心を掴んでこそだろうがよ。
だったらもっと違うやり方があるだろうと言えば奴は心底ショックを受けたような顔になり、
「う、うぅぅ……! 申し開きの言葉もありませぬ。かくなる上は!!」
「切るな切るな」
エロ衣装でお出迎えされた後は目の前で切腹ってジェットコースターが過ぎるだろ。
(……というか自分で訪ねといて何だけどもう帰りたくなって来た)
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