客人 空虚な旅人④
「おはよう」
「……おう、おはようさん」
視線を感じ目を覚ますとやはり道無が俺の顔を覗き込んでいた。
共同生活を始めて二ヵ月ほどだが毎日、これだ。
正直、今までで一番やり難いお客さんはコイツだと思う。
(ガラス玉みてえな目で見られるの怖いんだよ……)
何考えてるかまるで分からない。
テュポーンも旭もアーサーも自らを語らずとも友好的に接しようとしてくれていることは伝わっていた。
表面上のやり取りだけを見れば道無もそうではある。
でもそこに感情が滲んでないからグッドかバッドかの判別がつかないのだ。
「「いただきます」」
通路の真ん中に丸テーブルを置いての朝食。
本日のメニューは白飯と干物に期限切れ間近のインスタント味噌汁。
何とも寂しい感じだがこの暮らしとはマッチしていて俺は好き。
道無の方は……やっぱわかんねえんだなコレが。
「干物、これで切れちゃったけど……どうする?」
「マジか」
二人分の消費つってもまだまだ残ってたような。
「あ、俺のせいかこれ」
晩酌でつまみにちょこちょこ炙って食べてたせいだわ絶対。
そういうことなら確保は俺の仕事だろう。
「飯食い終わったら釣って来るわ」
「僕も一緒に行って良い?」
「良いけど……そんな楽しいもんでもないぞ」
「構わない」
だろうな。
言ってて何だが楽しい楽しくないを気にするような性質じゃねえ。
そういうわけで食後、俺は道無を連れて原っぱを後にした。
(……マヨヒガは何考えてんだろうな)
公園と隣接する原っぱ周辺が道無の行動範囲。
初日にそう判断したがどうも厳密には違うらしい。
これも道無が気付いたのだが、
『坊野さんと暮らす。他所では生活をしない。そう誓約を立て遵守すればどうだろう?』
読みは的中。
少なくとも俺と一緒なら街の西側はある程度、動けるようになった。
中央、東側については誓約を遵守していても無理だったがどういう理屈なんだか。
「ここで釣るの? というか釣れるの?」
やって来たのは川。
つっても山で暮らしてた時のような自然に囲まれた綺麗なそれではない。
住宅街を流れるどぶ川と呼ぶほどではないが、綺麗かと言ったらそこまででもない微妙河川。
海もあるのにわざわざこんなとこでという道無の疑問は分からなくもない。
「案外釣れるんだぜ?」
淡水と海水では生息する魚も違う。
前干物にしたのは海のものだったので今回はってことだ。
まあ微妙河川ゆえ臭み抜きには気を遣うが丁寧にやれば普通に食える。
「そうなんだ」
「お前もやるか?」
一応、竿は二本持って来た。
前にテュポーンと一緒に釣りをした時のものだ。
俺の提案に道無は少し釣り竿を眺めてから小さく頷き竿を受け取った。
「これで良い?」
「OKOK」
ガードレールを乗り越えて下に降り二人で糸を垂らす。
会話はさっきので途切れてしまったので無言だ。
(……っぱ俺からアクション起こすべきか)
詮索はせずあちらから話すのを待つというのが俺のスタンスだ。
だが道無相手にそれだとマジで何も進展がしなさそうだからな。
こちらから働きかけるのもアリだろう。
「そういや道無って地元はどこなんだ?」
「福岡だよ」
「やっぱそうか。出会った時、天神がどうとか言ってたもんな」
「そうだっけ?」
「そうそう。何か今の天神から離れるのはみたいな」
何かあったのかと聞いてみる。
踏み込み過ぎだと思うがやっぱり道無は気にしていないようであっさり答えてくれた。
ただ、
「ああうん。ちょっと福岡市内一帯が地獄になっちゃっててさ」
「はぁ!?」
その内容は予想外のものだった。
地獄になってる。どう足掻いても良い風には考えられない。
「じ、地獄って」
「多分、外ではガス漏れとかそういう名目で封鎖されてるのかな?」
道無の発言で俺はあることを思い出した。
数年前のことだ。ブラックでガリガリ削れてた時期とはいえ世間の情報を完全に遮断していたわけではない。
飯食いながらテレビ見たりネットニュースを見るぐらいはしていた。
(……確か運搬中の細菌だかが事故で流出したとかそんな事件があったよな)
それでそこそこの期間、福岡市内全域が完全に外界と遮断されたはずだ。
暴露した恐れのある人間を外に出すわけにはいかなかったとか何とか。
封鎖区域に居る人間と連絡が取れないってんでネットでは陰謀論も囁かれていた記憶がある。
封鎖が終わった後で現地の人間の証言とかが流れ出すと自然に消えていったっけ。
「……俺はしばらく外に出てないから分からんけど実際は違うのか?」
「うん」
どうしてそうなったかは知らないと前置きして道無は当時の状況を語ってくれた。
「まず世界の色がおかしくなった。精神病患者が絵具で塗り潰したみたいにね」
次いで化け物が現れ人を襲い始めた。
だが同時進行で妙な力に目覚める人間も現れ出したのだという。
「ひょっとして」
「僕もその中の一人だね。まあ大したものではないんだけどさ」
「漫画とかじゃ一般人が力に目覚めるとか定番だが実際にってなるとなあ……」
「戸惑いはなかったよ。元々こんな体だったしね」
人と違うことは明白。
不思議な体に不思議な力が宿っただけだとあっさり言ってのける。
どうでも良いんだろうなあ……。
「僕は異能に目覚めた人間が結成した自警組織のようなものに入っててね」
と言っても道無自身の意思というよりは状況に流された結果らしい。
「化け物退治や戦えない人の保護をしてたんだけど」
「けど?」
「これまでとはレベルの違うヤバい化け物が天神に出現したんだ」
自警団を総動員しての大規模な戦闘の真っ只中にマヨヒガへ迷い込んだのだという。
(ちょっとマヨヒガさん?)
空気読めてないにもほどがあるだろ。
そんな時に呼び出されるとか最悪じゃん。
幾らマヨヒガと外の時間の流れが違うつってもさあ。
普通の奴なら仲間が心配で自分を見つめ直すとかそれどころじゃねえんだわ。
まあ道無が普通じゃないからってことなんだろうが……。
「な、何かごめん」
「いや良いよ。戻っても時間は流れてないんでしょ?」
「それはそうだけど……」
「仮に時間が流れてても僕がここに来る直前、援軍も来てたし」
「他の組織とかかい?」
「ううん。多分外の人間だろうね。長い黒髪の女の子でコスプレっぽい軍服着ててさ」
……うん? 黒髪にコスプレっぽい軍服?
「ちょっとしか会話を交わしてないけどビックリするぐらい上から目線でね」
上から目線?
「その態度に見合うだけの強さは感じたから多分、大丈夫でしょ」
思い浮かぶ顔があった。
(……旭?)
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