表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

56/65

客人 空虚な旅人②

 俺が名乗ると彼も警戒しつつ名乗りを返してくれた。

 名前は道無 零(みちなし れい)。これまた判別がつき難い名だ。

 男でも女でもどっちでもいける。何なら俺も昔、作品でレイって名の男キャラ出したし。

 とりあえず今判明しているのは名前と高校二年生であるということ。


(未来の外見年齢からして……六、七年ぐらい前か? この子の時間軸は)


 俺もまだ擦り切れておらずキラキラ輝いていた頃だ。


「……坊野さん、だっけ? ここは一体どこなのかな? 僕を誘拐した?」


 一人称僕か。でも僕っ娘なんてのも居るしな。


「信じてもらえないかもしれないが俺が君をどうこうしたわけじゃない」


 マヨヒガというものを知っているか? そう問うと道無は首を横に振った。

 ここで躓いたのは始めてだな。

 アーサーもそうだが最初異世界人だと思ってたし正体も過去の人間だからな。


「これを」

「……遠野物語。国語の授業で習ったような? 柳田國男、だっけ」


 マヨヒガに遠野物語を生成してもらい道無に手渡す。

 すると自然にページがめくれてマヨヒガの項が示された。

 彼は静かに読み進めやがて小さく溜息を吐いた。


「ここがそのマヨヒガだとしてあなたは何なんだい?」

「マヨヒガの管理人ってことになる」

「説話の中にそのような人間は出てなかったけど」

「ああ。だから厳密には別物なのかもしれない」


 重要なのはマヨヒガというもののあらましを知ってもらうことだ。

 俺がそう告げると道無はそれで? と続きを促して来たので頷き説明をしてやった。


「……参ったね。今の天神から離れることになるとは」


 天神? 福岡か?


「まあでも時間の流れが違うというのならこれはもう気分の問題か」

「す、すまんね」

「いや良い。管理者と言ってもあなた自身に責はないようだし」


 それより、と道無は真っ直ぐ俺を見つめる。


「あなたは幸せ?」

「へ?」


 突然何を言い出すんだこの子は。

 困惑する俺に彼は更に言葉を重ねた。


「空虚に日々を過ごしていない?」

「い、いないけど」


 まずマヨヒガって反則極まる物件を相続してるからな俺。

 ネット環境ぐらいしか不満はないしそれも現世の時間に合わせれば使えるっぽいし。


「マヨヒガのお陰? でもそれって物的な充足であって精神的なそれではなくない?」


 衣食住足りて礼節を知るとは言うが物だけで心が満ちることはない。

 いやむしろ物的な充足を完全に補えるからこそ心の不足が際立つのではないかと道無は言う。


「物だけで幸せになれるほど人間は単純な生き物ではないでしょ?」

「何? お前は他人が不幸じゃないと気が済まないとかそういうタイプなワケ?」


 少しイラっとして思わず強く言い返してしまう。

 子供相手に大人げないとは思うが俺の人生に文句を言われているようでどうにもな。


「ッ! ……ごめんなさい。不快にさせてしまったなら謝る」

「あ、いや俺もすまん」


 また僅かに怯えが見えた。

 そこで俺は未だにスパナを持ったままだと気付きリヤカーに放り投げる。


(多分この子も非常識の側に居る人間なんだろうけど)


 こういうのは理屈じゃない。本能的なものなのだろう。

 テュポーンでさえ料理をする時は油が跳ねたりすればびくっとなったりするのだ。

 まだ二十年も生きていない子供なら尚更だと思う。

 大人が凶器になりそうなものを持って凄んで来たら怖くもあろうさ。


「ま、まあ何だい。そりゃあ人並に不満がないとは言わないさ」


 それでもトータルで見れば幸せだ。

 世に満ちる大多数の人間と同じように俺は日々を普通に生きているつもりだ。

 マヨヒガって最強のズルはさておきな。


「……そっか」

「とりあえずアレだ。君の住居を決めようか」

「住居……用意してくれるの?」

「ああ。これまでのお客さんにもしっかり用意して来たからな」


 とりあえず、と街の地図を形成して軽く説明をしてやる。


「住宅街はこんな感じだがどこが良い?」

「どこでも良いけど……」

「ならテキトーに見て回って決めれば良い」


 気まずい俺に同行して欲しくはないかもだが我慢してもらう。

 生活してく上での希望とかも聞いておきたいからな。

 住居が決まったら環境を弄る必要もあるかもだし。


「良いの? 何か用事があるみたいだけど」

「暇潰し程度のもんだよ。ちょっと荷物置いて来るから待っててくれ」

「あなたはこの近くに住んでるの?」

「ああ、この公園に隣接する原っぱでな」


 原っぱ? と怪訝な顔をする道無に見てみるか? と聞くと小さく頷いた。

 こっちだと彼を促し廃バスに戻ると、


「……」

「ここが俺の家さ」

「やろうと思えば豪邸だろうが何だろうが用意出来るのにこんなところで?」

「そ。これが案外楽しいんだ」

「ごっこ遊びみたいなもの?」

「そんな感じ。コンセプトはグレて家を飛び出した高校生」


 リヤカーを止めミニバイクや工具、パーツを下ろして一か所に並べていく。

 雑に置いておくと分からなくなるからな。

 事前にバイク弄り用としてスペースを作っておいたのだ。


「このバイクを修理するつもり?」

「ああ。マヨヒガに発注すれば新品のバイクも用立てられるが」

「これもごっこ遊びの一環というわけだ」

「イエス。話が早くて結構」


 マジで傍から見たら茶番以外の何でもないだろう。

 たださっきのこともあるからか道無は深く突っ込んではこなかった。


「食事は? マヨヒガの力で生成してるとかじゃないんでしょ?」

「基本、自給自足で週に一回ぐらいは半額弁当とか」


 この生活を始めて何が驚いたってマヨヒガは不味いものも生み出せるのだ。

 いや不味いと言えば語弊があるか。

 そこまでクオリティが高くないスーパーのお弁当。

 それが時間経過で劣化して半額シールが貼られた状態の味まで再現出来る。

 言語化は難しいがこのしょっぱいクオリティは正にという感じで大層驚いた。

 でもそれがまた良いんだ。こういう暮らしだと贅沢って感じで雰囲気超ある。


「自給自足というのは?」

「用水路で魚釣ったり山の方まで行って食えそうなものを探したりとか」


 よし、こんなもんだな。


「じゃあ行くか」

「うん」


 並んで歩くよりも先導の方が良いだろうと道無の前に出る。

 さてまずは手近なところ攻めるかと考えながら公園を出ようとしたところで、


「うぉ!?」


 ごぉん! と何かにぶつかったような音が背後から聞こえた。

 思わず肩を震わせ何事かと振り向けば、


「え? は?」


 仰向けに倒れてだらだらと鼻血を垂らす道無が居た。

気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
名前がもう虚無過ぎる・・・ しかも宗教勧誘みたいな事言ってるし。 しかも、公園から出られなくなってるっぽい? これは坊野さんとの絡みが濃厚になりますね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ