客人 空虚な旅人①
肌寒さで目を覚ます。
晩秋ぐらいに季節を設定したもんだから朝は中々冷えるのだ。
普通に家屋で寝ていたらそうでもないんだろうが廃バスだからな。
目張りとかはしてるがそもそもからして住居じゃないから仕方ない。
(でもそれが良いんだよなあ)
住居じゃない場所で暮らすというのが乙なのだ。
廃バス暮らしを始めて大体二ヵ月ぐらいだが一向に飽きが来ない。
始める前のある程度地に足付いたファンタジーならという読みは大当たりだ。
非日常と日常感が良い具合に混在してるのが良いのかもしれない。
「おー、さぶさぶ」
公園の水道で顔を洗いトイレで用を済ませバスに帰還。
出る前につけていた電気ストーブの前に座り込み手を翳す。
使えるには使えるがゴミ山で拾ったものだからな。イマイチ熱くならない。
マジで極々狭い範囲しかカバーしてくれないんだ。でもそこが愛しい。
「う゛……まだ昨日の酒が残ってるなこれ。朝飯は無理だわ」
昨日はアーサーに誘われしこたま飲んで来た。
高校生という設定はどうした?
家出してこんなとこで暮らす高校生とか不良だから問題ない。
歓楽街の方にはあまり足を運ばないのだが中々に凄かった。
「ありゃまるで大人版不思議の国だな」
今回マヨヒガを衣替えするにあたってモブを試験的に導入してみることになった。
俺やテュポーン、旭のとこはともかくアーサーの根城の歓楽街はな。やっぱ人居ないと寂しい。
導入はテュポーンの疑似生命創造とマヨヒガの権能の併せ技なのだが、
『普通の人間じゃつまらないと思わないか?』
というアーサーの言によりおかしな物が生まれてしまった。
頭がテレビや時計など無機物になっている人型疑似生物とかだ。
そこに歓楽街の住人であるということも加味し欲望のスパイスを一摘まみ。
行動指針が完全に堕落した人間のそれっていうね。
「偶に行く分には良いがあそこに定住はしたくねえなあ……」
アーサーはよくあんなところで暮らせるもんだ。
まあでもアーサーからすれば俺がそうなのかもな。
わざわざ不便な暮らしをしてるとか変態と言われれば返す言葉もないし。
そんなことを考えながら身支度を済ませた俺は廃バスを出てリヤカーを引き原っぱを後にする。
「へへ、年甲斐もなくワクワクして来た」
生活に使うものはテュポーンと兄妹ごっこをした日から数日で大体、集まった。
以降は雑誌が捨ててあった河川敷を週一でチェックするぐらいで不法投棄スポットには行っていない。
しかしついこの間、寂びれた街を散歩している新たな不法投棄スポットを発見したのだ。
河川敷、山中、空地などは目星をつけて回っていたがそこは完全にノーマークだった。
「んじゃ失礼してと」
やって来たのは潰れた建設会社の廃材置き場。
立地的に自然と候補から外していたので散歩で発見しなければ気付かないままだったろう。
敷地内に足を踏み入れ目当てのものがある場所までズンズン進む。
「……っぱ良いねえ」
廃材置き場の片隅に鎮座しているのは薄汚れた紅いミニバイク。
タイヤはパンクしているし車体も傷だらけだが廃車というほどではあるまい。
人によってはこんなんなったらもう良いやになるのも分かるが俺は貧乏性だからな。
他の不法投棄スポットでもバイクは何台も見つけたがそれらは修理しても無理。
精々使えそうなパーツが一つあるかないかぐらいだ。
それに比べるとこのミニバイクはまだ息を吹き返す余地が残っている。
「なあ? お前まだいけるよな」
これを見つけてから今日まで先述の完全に死んだバイクから使えそうなパーツを集めていた。
無論、コイツを再び蘇らせるためだ。
このミニバイクも余地はあると思うが実際のところどうなるかは半々ぐらいだ。
それでも良い。家出して荒んだ暮らしをしてる悪ガキ(設定)の娯楽にはピッタリだ。
先があるかどうかも分からないものに自分を重ね労力を注ぎ込むとか如何にもそれっぽい。
「バイク弄りなんて高校の時以来だが……おっと今の俺は高校生だった」
ともあれ些かブランクはあるがパーツ取りをしていると今でもやれそうな感触はあった。
これから日々の糧を得る合間にコイツを弄って復活させる。
鍵はないがちょっとよろしくないやり方をすればエンジンはかけられるからな。
「走れるようになったならテュポーンや旭をケツに乗せて流すのも悪くねえな」
ミニバイクと他に使えそうなものをリヤカーに積み廃材置き場を後にする。
帰ったら早速、バラしてみよう。鼻歌交じりに帰途につく。
だがご機嫌気分は公園を通り抜けようとしたところで綺麗さっぱり吹き飛ぶことになる。
「――――」
ベンチに腰掛けぼんやり虚空を眺める彼、もしくは彼女。
テュポーンでも旭でもアーサーでもない新たな客人だ。
だが俺はこうして視認するまでその存在をまるで感知出来ていなかった。
これまでの客は入って来たら直ぐに感知出来ていたにも関わらずだ。
「ッ」
底の見えない深い虚を覗き込んだような錯覚に襲われ息を呑む。
気付けば俺は廃材置き場で回収したスパナを構えていた。
(何やってんだ俺は)
スパナを仕舞い直そうとしたところで客人が俺の存在に気付き視線を向ける。
「!」
俺を見るやこれまでの無表情に焦りや恐怖の色が滲み跳ねるように立ち上がり距離を取った。
そりゃそうだ。いきなり訳の分からない空間に連れ込まれただけでも普通に考えて怖い。
そこにこれまたいきなり現れた謎の男が凶器になりそうなものを構えて自分を見ているのだ。
これで年頃の子供にビビるなという方が無茶だろう。
「……あなたは、怖い人だね」
返す言葉もありません。
以前、聞いたそれより幼くはあるがやはり男とも女ともつかない声。
そう、この子は以前現世で出会ったあの美形だ。
遂に来てしまった。特別な客として迷い込むレベルで何かを抱えているマヨヒガ初未成年の客人が。
(男子の制服を着ているから男、なのか?)
いやでもやっぱり匂いが皆無だ。
今はジェンダーレスな制服もあるらしいし……あ、でもあの子は過去からの客人か。
面倒だし暫定、彼で良いだろう。
「え、えーっとその……こ、怖がらせてすまない」
「……」
「俺は坊野というもので」
じんわりと嫌な汗が滲む。
ハードルの高い客人相手に最悪のファーストコンタクト。
(ここから上手くやれってか? 無茶言うなよ……)
気に入って頂けましたらブクマ、評価よろしくお願いします。




