水面下の侵略(性癖)
飯を食い終えると俺はテュポーンと共に早速、宝探しに乗り出した。
廃バスがあるあたりも不法投棄スポットなのだが残念ながら手近に良さそうなものはない。
なので二番目に近い河川敷へと足を向けてみた。
「書籍の類は多いけど家具とかはないわね」
スクール水着から体操服に着替えたテュポーンが残念そうに呟く。
動きやすくて汚れても良いからとのことだが一々マニアックな……。
「だな。いやこれはこれで娯楽に使えるから良いんだけどさ」
しかし、と手近なファッション雑誌を拾い上げる。
見たことはないが名前は聞いたことのある雑誌だ。
現世に戻って照会すれば多分、これと同じものが過去に発刊されていたと思う。
「マヨヒガはどうやって情報を収集してるんだろうな」
俺の記憶から吸い上げているとして雑誌名はともかく中身は無理だろう。
パラパラとめくってみるがページが空白ということもなくしっかり写真や文章が記載されている。
「人類の集合的無意識にアクセスしてるとかかもしれないわね」
「途端にスケールがデカくなったな」
「領域内だけとはいえ時間すら自由自在に出来ているんだもの」
集合的無意識に繋げるぐらいはしてのけるのではないかとのこと。
「ところでおじさまはこういうのは持ち帰らなくて良いの?」
「お前、女の子だから気ぃ遣ってスルーしてたのに……」
えい、とエロ本を俺に広げてみせるテュポーン。
「この歳まで恋愛経験皆無だけれどこれぐらいでおたつくことはなくってよ?」
「そういう問題じゃねえから」
……まあ気にならないかと言えばウソになるがな。
それを馬鹿正直に告げるつもりはない。
(夜中にコッソリ回収するのが醍醐味ってヤツだろう)
ふふふ、と内心でほくそ笑む。
「……」
「何だよ?」
「淡白なんだなって」
ふむ、バレてねえみたいだ。
「……私のオリジナルとか生成してコッソリ紛れ込ませられないかしら」
「あん?」
「何でもなくってよ。ここからは何か持ってくの?」
「そうだな。とりあえず資料用にファッション雑誌は欲しいな」
引いてきたリヤカーに見繕った雑誌を放り込んでいるとテュポーンが不思議そうに首を傾げた。
「当世の流行りとはズレているけど良いの?」
「年代によるだろ」
五年前とかなら正直、微妙。
だが九十年代後半とか二千年代前半とかなら逆にいける。
「どうして?」
「十年二十年前の暮らしって今とはかなり違うからな」
そこらを作中の時代に設定すれば新鮮な気持ちで読んでもらえる。
スマホどころか携帯電話さえ普及し切ってないような時代とか面白いと思う。
連絡手段ってのは恋愛を描く上でかなり重要だ。
不自由だった時代だからこそ出来る描写とか俺は結構好き。
「そういうものなのね」
「そういうもんなのさ。良し、次は山の方に行ってみようぜ」
「はーい」
山に向かった歩き出す。
途中で国道が途切れ私道に変わるのが如何にもそれっぽい。
ロクに舗装もされておらず放置しているんだなというのが丸分かり。
不法投棄するには持って来いの場所だ。
「まあ! お宝の山ね」
「だな!」
奥まったところに開けた空間がありそこには見事なまでのゴミ山があった。
パッと見た限りでも家電の類や家具もかなり転がっている。
使えるかどうかは分からないが探す価値は十分にあると思う。
「おじさまー! この電気ケトルなんてどーかしらー!?」
ぴょんぴょんとゴミ山に飛び移って探索をしていたテュポーンからお声がかかる。
使えるなら電気ケトルは嬉しい品だ。
直ぐに湯を沸かせるというのは地味に大きいからな。
長時間保温するならポットだが一人暮らしを始めてから学んだことがある。
(そんなポット使わねえんだよな)
自分に合わせた用途ならケトルで大体賄える。
「よくやった! 持ち帰るぞ!!」
「やった! ふふ、これでポイントは私がリードね?」
何時の間にか勝負になっていたらしい。
だが良かろう。ここで逃げては男が廃る。受けて立とうではないか。
「芸術点高くね? 誰かのアルバム」
「採点基準は生活に使えるかどうかじゃないのね」
ゴミ山での勝負は残念ながら俺の負け。
だがまだまだ足りないものはあるしフィールドも存在する。
テュポーンと俺は日が暮れるまで宝探しに勤しんだ。
「……絵ヅラがギャグのそれだな」
夕暮れの帰り道。
リヤカーを引く俺とその横でドラム缶を掲げて歩くテュポーン。
俺はともかくテュポーンの方は完全にギャグだろう。
転がすなら子供でも出来るだろうさ。
だがドラム缶を掲げて軽やかに歩くのは大人にだって無理だ。
「おじさまの方がよっぽど凄いお力を持ってるじゃないの」
「そうと言えなくもないけど俺のは譲り受けたもんだしな」
あと俺というより俺の意思を受けてマヨヒガがやってるわけだし。
だからあんまり自分がすげえ力をという実感はないのだ。
マヨヒガすげーって感じ。
「ねえねえおじさま。今日はおじさまのお家にお泊りして良い?」
「えぇ? 別に良いけどまだ全然居住環境整ってねえぞ」
寝床に使えそうなソファはゲットしたがまだ清掃は済んでない。
なので今日の寝床は後ろの座席で決定。
二人で横になるのは絶対狭い。いや俺は別に良いんだけどさ。
「ずーっとって言われたら困るけど偶にはそういうのも良くない?」
あぁ、コイツはコイツで実は興味あったんだな。
いやでもそうか。俺と一緒に昆虫相撲でヒートアップするようなタイプだもんな。
何なら子供心って意味ではテュポーンのが俺よりあるだろうし。
「じゃあ泊まってけよ」
「やった! ふふ、私ね。ドラム缶風呂も楽しみなのよ」
「いやいやこれこそ衛生的にアウトだろ」
「そこはほら、私がちょちょいのちょいって」
おいおいそれは駄目だろう。
そう言おうとした俺をテュポーンが悪戯っけを滲ませた瞳で見つめる。
「でも、おじさまだってドラム缶風呂入ってみたいんでしょ? 出来れば直ぐにでも」
「う゛……いや、それは……」
「自分がマヨヒガの力を行使するのは抵抗あるのよね?」
ずるをしているみたいだから。その指摘は正しい。
不自由を楽しむのがコンセプトなんだから線引きは必要だろう。
拾ったゴミとかもマヨヒガの力で生成したものではあるけど……こう、ねえ?
言語化し難い俺のニュアンスをテュポーンは完全に汲み取っていた。
「でも私の力なら」
「……」
「それも、おじさまのためではないの。これは私のワガママ」
ねえ、と縋るようにテュポーンは言う。
「私のワガママ、聞いてくださる?」
「……ま、まあ一回ぐらいならセーフだよな?」
俺は陥落した。ドラム缶風呂の魅力には勝てなかったよ……。
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