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相続した物件はマヨヒガでした  作者: カブキマン


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秋、廃バス暮らし

 以前、テュポーンの協力でマヨヒガを拡張しファンタジーな居住環境を作り上げたことがある。

 楽しくはあるが暮らすなら現実的な方が落ち着くというのが最終的な結論だった。

 だがそれは俺の常識からあまりにかけ離れた“ファンタジー”だったからではなかろうか?


「ふぃー、こんなもんか」


 ツナギのケツぽっけに突っ込んでいたタオルで汗を拭いあたりを見渡す。

 まだまだ生え放題のススキだが、ある程度は刈り取れたと思う。

 家周辺はとりあえず片づいたし以降は気が向いた時で良いだろう。


「さあ、次は家の整備だ」


 寂びれた公園に隣接するぼうぼうに生えたススキの原っぱ。

 そこに鎮座する廃棄された古ぼけたバス。これが俺の新しい家になるのだ。


「……うん、良い。良いぞ。秘密基地みたいでワクワクする」


 人気の無い場所に不法投棄されたバスを改造して家にする。

 マジな話をするのであれば現実的ではないだろう。

 人目がなく水場やトイレも近くにある丁度良い立地にバスが不法投棄されてるか?

 あったとしてもその廃バスが手を入れれば暮らせる程度の劣化で済んでるか?

 まあまあまあ、現実的ではないだろう。だが妄想としては純ファンタジーより地に足がついている。


「まだ住んではないが多分、問題なさそうだ」


 廃バスの中は既にある程度、掃除がしてある。

 何時でも内装を弄れるがその前に外観だ。家にするのだからある程度は綺麗にしておきたい。

 用意した道具でまずは見栄えの悪い錆部分を削り落していく。

 間抜けなことをやってるという自覚はある。

 だって錆の浮いた廃バスを用意したのは俺なんだからな。


「~♪」


 でも違うんだよなあ。

 作業そのものが重要なのだ。まあごっこ遊びのようなものである。

 DIYで一から家を作り上げるという過程を楽しんでいるのだ。

 日が昇る前の早朝から草刈りやらの作業をしているが肉体的な疲労はあっても精神的なそれは皆無。

 むしろ一つタスクをこなすごとに気持ちはドンドン盛り上がっているぐらいだ。


「おじさま!」

「あ、テュポ……何その格好?」


 声をかけられ振り返ると大きなスポーツバッグとデッキブラシを持ったテュポーンが居た。

 それだけなら手伝いに来てくれたのかなと思えるが問題は格好だ。

 何故か奴はスクール水着を着用していた。胸のゼッケンにはちゃんと名前も書いてある。

 えらく古いデザインであんなの昔の漫画とかでしか見たことないぞ。


「バスの外側をお掃除するなら汚れても良い服が良いと思って」

「それで何故、スク水?」


 普通にジャージか体操服で良いじゃんとは思うがそこは置いておこう。

 放水もするから濡れても平気なのってことで納得はする。

 でも普通の水着で良くないかという指摘にテュポーンはフッと笑う。


「これぐらいしか水着を覚えていないからよ。ふふ、自分で言ってて悲しくなってきたわ」

「何かその……ごめん」


 プライベートで泳ぎに行ったとか二十年近く前だろうしな。

 その時に自分が着たであろう水着なんて普通覚えてないわ。

 その点、スク水なら中学高校でもワンシーズンが三回あるのだ。まだ記憶に残っているだろう。


「良くってよ。それより私もお手伝いしに来たのだけれど構わないかしら?」

「おう」


 わりとデカいバスの上にわりと汚れもしぶといから手伝ってくれるならありがたい。

 俺がそう答えるとテュポーンは嬉しそうに笑い、二人での錆落としが始まった。


「それにしてもおじさま。今回のマヨヒガは考えたわね」

「だろ?」


 この廃バスのことではなくこれも包含した全体のことだ。

 静かで寂びれた雰囲気が好きなテュポーンと賑やかで派手なのが好きなアーサー。

 一見して折り合わないように思えるこの二つを同居させられる名案を思いついたのだ。


「再開発の始まった海沿いの地方都市。これ思いついた時は我ながらやるじゃんと思ったよね」


 街の中心を境に東が再開発が始まり便利で賑やかな明るい感じに。

 中央から西に行けば行くほど昔の古いまま。

 強い光が影を色濃くするように西は取り残されていくような空気感があって絶妙に侘しいんだよな。

 テュポーンは西の古くからある平屋が密集した住宅街に居を構えアーサーは新しい歓楽街に住んでいる。

 旭は西寄りだが比較的新しいあたりを選んだ。ちなみに俺が居るこの原っぱは当然、西側である。


「まあわざわざ再開発が進んでいない理由まで考える必要はないと思うけれど」

「馬鹿。そこをこだわるからこその空気感っしょ」


 西の再開発が進んでいない理由は高齢住人の反発と政治関係が絡み合った結果。

 そういう設定にしたからこそ置いて行かれている寂しげな空気が漂っているのだ。

 そんなだから西側にはバス一台が丸々不法投棄されてるんですね。


「本当に何なのかしらねこの領域は」

「さあ? まあでも不都合はないし別に良いだろ」

「それもそうね。ところでまだ中は全然弄ってないようだけれど大丈夫?」


 今日からここで寝泊りをするから心配してくれているのだろう。


「最悪、一番後ろの長椅子で寝られるし大丈夫大丈夫」


 寝心地は悪いだろうがそれを補えるシチュエーションがあるからな。


「廃棄されたバスで寝泊りするとかそれだけで何かもう楽しそうじゃんよ」

「それはまあ……そうかも」

「だろ?」


 これからここで暮らしていくわけだがそこの設定も考えている。

 コンセプトはずばりクソみたいな家庭環境でグレて家出した高校生。

 だって大人の俺が普通にこんなとこで暮らしてたらそれただのホームレスだからな。気分が滅入る。

 しかし家出した高校生という設定にしたらどうだ?

 若さゆえの行動力とこんな場所でやっていけると思っている無謀さがブレンドされ良い塩梅になる。


(ごっこ遊びみたいで少し恥ずかしくもあるが)


 大人が本気でやるごっこ遊びだから楽しくもある。

 そのために一時、恥を忘れるのも良いだろうさ。


「おじさま、これぐらいで良いのではなくって?」

「ああ。こんだけ綺麗いなれば十分だ」


 許容範囲になるぐらいまで錆を落とす頃にはもう日は真上に昇っていた。

 ここから塗装もあるのでまだまだやることはあるが一先ずは休憩で良いだろう。

 水もかけたから乾かしたいし。


「ならお昼にしましょう? 私、お弁当作って来たの」

「ああ、あのバッグはそれか」

「ええ。レジャーシートも用意してあるの。ふふ、ピクニックみたいでしょう?」


 子供のように笑うテュポーンに俺も釣られて笑う。

 早速、シートを敷いてお弁当を広げる。

 中身は沢山のおにぎりと唐揚げ、ウインナー、サラダなど定番のおかず。

 特筆すべき点はないが、だからこそ良いという感じのメニューだ。


「午後からはどうするの?」

「西の不法投棄スポットを回って運び込む家具を集めるつもりだ」


 ソファとかベッドになりそうなものや使えそうな家電とかな。

 ちなみに水道だけでなく電気も無断で拝借してるので電化製品もある程度は使える。

 マヨヒガは俺が楽しめるよう意を汲んでくれているはずなので必ずどこかにある。


「ああ、後は風呂用にドラム缶なんかも欲しいな」

「お宝探しね! 私も一緒に行くわ! ね、ね、良いでしょう?」


 パァっと目を輝かせるテュポーンを前にして断るなんて選択肢があろうはずもない。


「勿論」

「やった♪」

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― 新着の感想 ―
よい感じに種を撒いてるテュポーンちゃん可愛い。 果たして種は芽吹くのか。 頑張れ。
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