シン・エクスカリバー
「……本当にアルトスなんだよな?」
怪物と遭遇した翌日、俺は改めてアルトスと対面していた。
異界とやらに迷い込んだ影響であの後、体調を崩し後日ということになったのだ。
場所は昨日、行けなかった店。
キャンセルになってしまったが旭のコネと金で再度、席を確保してくれた。
どうも旭とテュポーンはアルトスのことについて知っていたらしい。
そこらも詳しく聞きたいがまずは確認だ。
「ああ。僕だよ」
昆布塩を肴にごっきゅごっきゅと日本酒を呷るアルトスは俺の知る彼とは重ならない。
いや悪いとは言わない。軽薄さはあるが幸せそうだしな。
だが一体、何があったというのか。それにアーサー王とか言ってたよな?
「まあ何だい。僕は異世界から来た人間ではなく過去から迷い込んだ人間だったのさ」
「過去……」
「君も映画で見ただろう? カムランの戦いで馬鹿を始末した直後、気付けばマヨヒガに居たのさ」
映画の知識だがアーサー王の時代は五、六世紀だ。
千年以上先の未来に迷い込むとかそんなのあり得るのか?
「あの時の僕はもうかなり自棄っぱちでね」
「まあ、うん。色々滅茶苦茶だしな」
映画だから脚色されてるんだろうけどカムランの戦いは酷かった。
アーサー派とモルドレッド派の大規模な戦いの末、生き残ったのは数えるほど。
こんな状態で敵の首魁を仕留めたとして詰んでるだろ。
ここから国を立て直せとか無茶にもほどがある。
「そう。何もかもに苛ついてたよね。円卓崩壊の引き金になったランスロット、ギネヴィア。
私怨で僕を戦争に駆り立てたガウェイン。決定的な破滅を招いたクソ馬鹿モルドレッド。
いいやそれだけじゃない。僕を王に仕立て上げたくせに肝心な時に役に立たないマーリン。
必死で国に尽くしてるのに無責任なことを抜かす民草と溜まっていたストレスがもうドバドバだよ」
ケラケラ笑うあたり割り切れてはいるようだが……。
「じゃあ鬱憤を晴らすために暴れるかと言えばその元気もない」
「苛つきながら死を待つ身だったのを俺が繋ぎ止めたわけだ」
「ああ。正直、困ったね。こんな状態で生かされてもって」
だがそこからわざわざ死ぬのも何か違う。
しょうがないからとりあえずは生きることにしたのだという。
「日々を過ごす内に異世界だと思い込んでたからね。徐々に気持ちも上向いていったんだが」
「エクスカリバーか」
アルトス……いやアーサーは楽しそうに頷く。
「不時着した惑星が遠い未来の地球だったとネタバレされたような衝撃だったよ」
有名な映画だ。
さらりとそれを引き合いに出せるぐらいアーサーは現代社会に馴染んでいるらしい。
「そうしてあの映画を共に鑑賞したわけだが……正直、最悪の気分だったよ」
けど、とアーサーはかつてを思わせる理知的な瞳で俺を見つめる。
「君の言葉があったから僕は立ち直ることが出来た」
「やり直せる、かい?」
「そうさ。当たり前のことだ。僕とて他人にはそう諭したこともある」
だけど自分にだけは当て嵌められなかった。
それを気付かせてくれたのが俺なのだという。
「君のお陰で憂いが晴れた後のことだ」
夜中に銭湯に行った際、旭に遭遇して自身が酔いどれアーサーであることについて知ったというが……。
「時系列どうなってるんだ……?」
俺と出会う前にはもう酔いどれアーサーは存在していた。
でも、酔いどれアーサーになるのは俺に出会った後だろう?
歴史を改変したのか? 或いはこれが正しい流れ?
卵が先か鶏が先かみたいな話になって来ないかこれ?
「仮説は幾らでも立てられるが考えたところで意味はないと思うよ」
今ある現実が全てだとアーサーは言う。
「それとも僕と再会出来たのは嬉しくなかった?」
「……まさか。嬉しいさ。ああそうだな。それが全てだ」
キャラ変はしたが友達が元気でやってるならそれで良い。
昨日、趣味友と再会出来て嬉しかったのと同じだ。
「ああでもあの後の話は気になるな。つまみがてら聞かせてくれよ」
「良いとも」
旭から貰った諸々で重傷を装ったアーサーは物語のようにアヴァロンへ渡航したのだという。
「正直、僕自身疑問だった。千五百年先までどうやって生きてるんだってね」
だが千五百年先でも生きているのは事実。
だったら何とかなるだろうし難しいことは寝てから考えようと爆睡をキメたのだとか。
「で、惰眠を貪り目覚めたら気付けば時は流れ二十世紀さ」
「えぇ……?」
「元々マーリンの魔術で老化は緩やかではあったんだがどうも僕は完全な不老になっていたらしい」
カムランの戦いでマーリンが施していた魔術の数々も破壊されてしまった。
なのに何故、こんなことにと思い調べていく内に理由が判明。
「それは?」
「これさ」
アーサーは虚空から酒瓶を引き抜き言った。
「シン・エクスカリバーだ」
「各方面にお詫びした方が良くない?」
湖の乙女とかさ。
「良いんだよあんな性悪」
「性悪て……まあ実物知らんからどうとも言えんけど。でも何だってただの酒瓶が」
生成の過程こそオカルトだが物品そのものは普通の代物だ。
過剰に何か盛られることもなければ何かが足りないということもない。
あの日本酒に不老効果があるなら今頃世界規模の混乱は必至だろう。
「マヨヒガに迷い込んだ人間が持ち帰るという過程を経たからこそだろうね」
更に言うと誰にでも同じ効果を発揮するかは怪しい。
その客人にとって益となるものになるのではなかろうかというのがアーサーの推測だった。
「僕の場合は聖剣の力で不老になってたり何時か蘇るという伝承があったりするからそこが関係してる可能性もある」
個人に依存して性質が変化するというのは中々にヤバい気がする。
悪用されればと思ったが悪用するような人間はそもそも何も得られないか。
(あとうち、最強のセコ●居るしな)
金髪碧眼の洋物座敷童だ。
「なるほど理解したよ。理解したけど」
「けど?」
「何でそんなもん武器にしてんだよ。酔っ払いじゃねえんだから……あ、酔っ払いだったわ」
もっと良いの使えよアーサー王。
何ならお前がくれた聖剣返すぞと言うと、
「いや良い。あれは君に贈った物だ。それにシン・エクスカリバーを舐めないでくれ」
いや舐めてはねえよ。
「武器としては流石に元祖に劣るがこれもかなりの逸品なんだよ」
「え、あれお前の技量で斬ってるとかじゃないの!?」
見た目酒瓶だが武器として振るえば剣の性質を帯びるらしい。
何やその酒瓶。ホントに酒瓶かそれ?
「そして一番凄まじいのは、だ」
クルクルとバトンのようにシン・エクスカリバーを器用に回し俺のグラスに口を近付けた。
すると空のはずの酒瓶から酒が出て来たではないか。
「無限に酒が飲める。体にも悪影響を及ぼさない。これは最早、神器だね」
そこ不老より上かよ。
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